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14 推測

「うわ~、盲点!」


 エヴィとハクの説明を聞いたアロンが悔しそうに赤い髪を掻きむしった。


「本当に。基本的なことであるのに、失念していました……よく思いつきましたね」

 唸るようにシモンが言い、エヴィの顔を見た。


 エヴィは思いもよらない反応にちょっと驚きながらおばば様と魔人を見る。


 ハクと話し合った後、すぐにふたりに報告したのだが、聞いた途端にげんなりしたような顔をしていた。本来ならすぐに思いつくべきなのに、過去他の封印者が判り易いように目に見える形で封印していたため、まさか空間魔法を利用しているとは考えが及ばなかったのである。


「別段難しいことじゃないのにねぇ。思い込みってやつだね」

「全くだな」

 ふたりは苦い顔で言うと、大魔法使い見習いとハクも頷いた。


「さっすが魔塔初の外部魔術師見習いじゃん! 魔力は悲惨だけど、その分着眼点はいいんだねぇ」

 アロンが褒めているのかけなしているのか解らないことを言っている。


「空間魔法を使われているとなると、封印されていた場所を探し出すことは困難ですね」


 シモンはため息まじりに零す。時空の切れ目に封印していただけでなく、人の目を逸らすような、見つけられないような……目くらましのような術も施されているのかも知れなかった。


 移動魔法を駆使して全ての事件現場と思しき場所をまわりにまわった大魔術師見習いたちは大きく肩を落とした。報告を兼ねて山小屋に帰って来て、そこで話を聞いたのだ。


 疲労感も倍増である。


「封印した場所が判れば何か手がかりがあるかもと思いましたが」

「現場に痕跡も殆どなかったしね。ふりだしに戻るだね」


 あわよくば中で魔石にでもなっていることが確認出来れば、このまま警備機関に捜査を任せても大丈夫だろうという気にもなれるであろうに。

 彼らのそんな葛藤を知ってか知らずか、フェンリルはシモンがお土産にと買ってきたお菓子を食べながら口を開く。


『その『封印されし者』の移動経路などには規則性はないのか?』

「地図を見る限りでは見受けられませんね」


 広げられた地図を確認すれば、南下したり東へ行ってみたり、時に戻ってみたりしている。一見して法則や規則に則って動いているようには見えなかった。


「今は何処にいるのでしょうか……」


 長い時間封印されていたということは、力をだいぶ削がれていることだろう。

 過去に魔塔や魔界が回収した封印は、既に生を終え魔石に変化していたものが殆どだという。

 それらの魔物や魔族と比べても古い人物であろう大悪魔(仮)は、何処へ行ってしまったのか。


「……ブヒン……」


 人が大勢いるため身体を人間の男性ほどに小さくしたユニコーンが、眉を顰めるような表情をした。現実には眉がないのはご愛敬である。


「ブフン、ブヒヒヒ、フフフンヒ?」

「そうだねぇ。そのまんまじゃ消滅しちまうだろうから、魔力を回復させるために負の感情に引き寄せられているんじゃないかい?」


 おばば様が答えると、ユニコーンが再び地図につぶらな瞳を落とす。

 他の者たちもつられて地図を見た。


「ブヒ、ブヒブヒブヒ。ヒンフヒヒヒン?」

「まあ、段々力が戻ってくりゃあ、周囲の感情をコントロールして事件を起こすよう誘発する事も出来るんじゃねえか。……精神干渉っつーか、いわゆる闇落ちさせるのは得意中の得意だろうからな」


 魔人の答えに、エヴィ以外の全員がうんうんと頷いた。


「……フヒン……」


 蹄を長い鼻面なのか口元なのかの下に添えて考え込むユニコーン。

 ユニコーンの言葉を再度頭の中で繰り返す面々。


 エヴィだけがユニコーンの話していることが解からなかった。毎度毎度、どうしてみんながユニコーンの言葉が判るのか疑問である。


(……魔力の差なのでしょうか、ですぜい……?)


 何となく腑に落ちないまま手がかりはないかと、エヴィもみんなと同じように地図に書かれた日付と簡単な事件の要約を見つめる。


「……ブヒン!」


 ユニコーンは弾かれたように顔を上げると、壁際に貼ってあるカレンダーの前に移動し、蹄で何度か叩く。そして地図の一点を指し示し、蹄で頭をわちゃわちゃした後にエヴィを指し示す。威張ったように前脚を組みながら大きく鼻息を吐き、再度頭を蹄で指した。


「ブヒ、ブヒン! ブブブ、ヒンヒンブヒン!」


(ハゲ……私の……? クリストファー王子!?)


 何となくだが言っているだろうことを理解すると、先程指示(さししめ)した日付と地図の場所を確認して顔を上げる。


「確かにその国にはハゲ王子がいるねぇ」

「何となく、そっち側に向かって移動しているのは確かにだな。偶然だろうが……」


 おばば様と魔人の言葉に、ハクが付け加える。


「……ユニコーンの言う通り、説明会以降事件が起きていないね。潜伏しているのかいい餌を見つけたのか」


 どういうことなのかと思いながらも、何となく悪い予感がするのは気のせいではないだろう。


「え、ハゲ王子ってなに? エヴィの元婚約者ってどういうこと!?」


 話の意味は判れど、全く意味がわからないアロンがユニコーンとエヴィを交互に見ながら首を傾げた。

 おばば様が気遣わし気にエヴィに視線を向けた。ここは隠すべきでもないと思い小さく頷く。


「……その子はとある国の元王太子の婚約者で、元王太子妃候補だよ」


 鳩が豆鉄砲を喰らったとはまさにこの事をいうのであろう。

 アロンとシモンが大きく目を見開いて、エヴィを見た。


「……たぶん、良い家柄のお嬢様だろうとは思っておりましたが……」


 そう言って絶句するのはシモン。

 心底驚いたのだろうアロンが、声を張り上げた。


「ハゲ王子の元王太子妃候補って、めっちゃパワーワード!」

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