28 その頃某国では
こちらにて三章完結となります。
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四章開始は1/9を予定しております。
再びお会いできますことを楽しみにしております!
今回のニセ薬(育毛剤・痩身茶)並びにニセ護符騒動は、三か国に渡った被害が報告された。いずれも国境を接する近隣の国々である。
説明会と名打たれた各会場では、被害者たちが集められて被害の実態を説明された。
警備機関の役人が説明する内容に、落胆の騒めきが響き渡る。
「占い師様が、我々を騙していたなんて……」
「薬師様もグルだったのか!」
騙されていたと知り憤りを隠せない者、嘆く者が思い思いに嘆きの声をあげていた。
そんな中、動揺する者たちも少なからずいたが、声の大きな人々の陰に隠れてしまっていた。
様々な声が湧き上がる中、役人が静粛に、とよく通る声を張り上げた。
幸いにも犯人たちが騙し取った金をほぼ保管していたこと、足りない分は手持ちの金品を換金して返金に充てて欲しいと訴えたこと。更には謝罪文として被害者に充てた手紙が読み上げられた。
――本当は騙し取った金は意外に残っていただけで半分にも満たない。持っていたものを売り払ったとて雀の涙であろう。残りはルシファーの私財から補填される。魔王から補填されていることは口外しないよう、マーリンに重々言づけてある。
本来はすべからく開示すべきなのであろうが……関係が断絶して長いことから、魔界や魔王と言ったところで作り話にしかとらないであろうというところが大きい。別の意味で動揺する人間も少なからずいるだろうということもある。
また、そう多くはないものの人間界で活動している魔族もいる。人間界では魔族ということは隠すように魔界で定められているのだが、万が一バレてしまった時にいわれのない差別や中傷などを出来る限り受けないようにとの配慮もある。
たった一人のために、真っ当に暮らしている魔族が魔族というだけで攻撃されるのは幾らなんでも忍びない。
謝罪文はルシファーと薬師、占い師双方の希望によって記されることとなった。
……それらを魔塔長・マーリンがイイ感じに脚色した。
警備機関には魔族が関わっていると報告済みだが、優秀な魔法使いが在籍する魔塔に全てお願いすることにする、的なことを遠回しに言われた。
まあ騎士や兵士とはいえ、一般の魔族ならまだしも高位魔族など普通の人間が太刀打ちできない可能性が高いため、見ない・聞かないが一番無難というものなのであろう。
「騙された金が返って来てよかった」
「随分ため込んでいやがったんだな」
会場から出て来た被害者たちが口々に何かを言いながら歩いている。
説明の後には念のために健康診断と、魔塔の人間によって呪いなどではないので心配ないという説明がなされた。
痩せなかったことも髪が生えなかったことも腹立たしいが、被害金額が戻って来たことでホッとしている者が多いのであろう。一部の者たちを除いて、それ程暗い雰囲気ではない者が多く見えた。
「しかし、金も返って来たのに他国の獄舎で一生投獄って、かなり厳しい処罰だなぁ」
ひとりの男が禿げあがった頭を掻きながら言った。
「嘘をついて騙したんだもの。そのくらい当然だわよ!」
大柄な女性が眉を顰めながらきつい口調で返す。
「……まぁ何にしろ、悪いことは出来ねぇってことだよなぁ」
そう言って男が、効かない魔法陣の描かれた護符を放り投げた。
あれ程願い縋った護符であるが、偽物の欠陥品だと聞かされ、ゴミでしかなくなったからだ。
一方で、捨てられた護符を拾い上げて握りこむ人々がいた。
「……私はこれで救われたんだ……効く人とそうでない人がいるだけで、全くのデタラメではないと思う」
「私もだ。全く髪は生えなかったけど、これを持っていたお陰で九死に一生を得たんだ!」
もちろん役人の説明は聞いた。しかし、心から信じたものをそう易々と『インチキだ』と受け入れられない人間もいるのであった。
「占い師様は、親身に我々の言葉を聞いてくださったのに……」
既に信仰や狂信という域に入っている人々には、事務的な説明だけでは納得することなど出来る筈がないのであった。
占い師と薬師はバレないように極短い周期で各地を転々としていた。
それゆえに、短い時間でまさかそこまで心に巣くってしまうとは、誰も考えなかったのである。
ある国の説明会場にクリストファーの姿もあった。
元々高圧的なところのあるクリストファーは、そこまで彼らに傾倒してはいなかった。だけれども、自分の身の上に起きた数々の不幸については本気で払いたい・消したいと思っていたひとりである。
(……クソッ! 本当にツイていない!)
会場となった教会の長椅子に座ったまま固く拳を握りしめる姿があった。
再びカツラ生活に戻った彼の頭は、まだらに禿げ上がっている状態であった。薬の効能が抜ければ、大半が生えて来るであろうとの診断であった。
悔しさに奥歯を噛み締めながら会場を後にした。
そしてしばらく歩いた後、路地裏のごみ捨て場に、石に魔法陣の描かれた護符を投げ捨てたのであった。
******
「そう混乱もなく終わりましたよ」
マーリンが、魔法陣の改善のために魔塔にやって来たエヴィに説明会の様子を語って聞かせていた。
いろいろと忙しかったのであろう。どこかヨレヨレとした感じのマーリンの微笑みは、いつもよりも疲れが滲んでいるように見えた。
「それは大変お疲れ様でした」
丁寧にお辞儀をしながら、ふと疑問を確認してみることにした。
「……身体は問題ないということでしたが、心のケアはなさるのでしょうか」
「心のケアですか……?」
マリーンが小さく首を傾げる。
悪い奴らはあの占い師と薬師だけではない。過去にもニセ薬を掴まされたり、インチキ魔術の詐欺被害に遭った人間は数多くいるのだ。
しかし健康被害があったならまだしも、いまだかつて心のケアを試みたという話は聞いたこともない。
「はい。お薬や護符に頼られる方の中には心が弱って縋っていらっしゃる方もいらっしゃるかと……」
心配そうに眉を寄せるエヴィに、どう言ったものかとマーリンは腕を組んだ。
エヴィの言っている意味も理由もわかるが、現実的には国や機関にそこまでの配慮や余裕があるようには見えなかった。
「確かに仰る通りですが、残念ながらそこまで対応することは例がないかと思います。余程半狂乱になっているとか、衰弱しているなら可能性はありますが……解り難いのもありますし、人員的にも金銭的にもそこまでの余裕がないことが多いかと思います」
真摯に説明をしてくれるマリーンの言葉に、エヴィも納得せざるを得ないと解る。
(確かに。今すぐに如何こう出来る問題でもありませんね……)
疲れているマーリンに無理を言い続けるのも憚られ、エヴィは小さく頷いた。
(おばば様やみんなに聞いてみることにいたしましょう、ですぜ)
そう心の中で呟いたのであった。
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