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25 山の麓の小さな家では

「魔塔長は案外食わせ者だね」

 ハクはニコニコしながらふわふわの尻尾を揺らしている。


「あの人畜無害そうなのはポーズだからな。そのくらいじゃなきゃ変人だらけの魔塔なんて管理できるわけないだろう」


 マーリンと一緒に見ていると火の粉か飛んで来そうなので、おばば様の山小屋に避難しては寛いでいるフラメルが言った。


 見た目は優しそうなお爺さんであるが、口調がやけに若々しい。

 何となく『らしくなさ』が気になっていたエヴィだが、先日遂に本当の姿(八十歳を超えているが、肉体はニ十歳くらい)を見たために今では納得である。


「アンタは何で人ン家で通信魔法を使っているんだい」

 おばば様がいつもの仏頂面でフラメルに文句を言っていた。


「いや、エヴィも見たいでしょ?」

 そう言って振り返る。


「……確かに気にはなっておりました」


 ルシファーが下した処罰が厳しいものなのか、それとも優しいものなのか、エヴィには解らなかった。


「ブヒヒヒフン!」

『……ああ、ぐぅああぁ!』


 何だか温かな視線で声をかけて来る一頭と一株に、エヴィは碧色の瞳を瞬かせた。


『今度狭間の森へ行って、自分の目で確認してみるといい、と言っている』


 いつもの如く可愛らしい見目に似合わない口調で話すフェンリルに、なるほどと言いながら頷いた。


(確かに、そうですわね)


 処罰が正式に言い渡された為、確かめたところでどうというわけでもないのだが。

 それでもワーラットの消滅を危惧するエヴィのために、それなりに気遣われたものなのだということは解る。


 本人が罪を悔い改め、人生を再生できるように――


「被害に遭われた方々は大丈夫なのですか、だぜい?」


 魔塔が警備機関に対応した内容を詳しく知るフラメルに瞳を向けた。

 フラメルは、あー……と言いながら首元を掻く。


「意外にあいつら、無駄遣いせず貯め込んでいたんだよ。それをわかる範囲で分配して、かつ不足分に関しては謝罪の手紙と共に、魔王が私財で補填したらしいぜ」

「えっ!?」


 驚いたエヴィが声をあげ、フラメルだけではなく周囲を見渡す。


「あれだろ? 魔族が人間に迷惑をかけたから……今までも魔族が人間に金品的な迷惑をかけた場合、解っている分は補填していたみたいだからな」


 魔人が詳しく教えてくれた。


(補填したって……)


 エヴィの暮らす国でも被害者があんまりにも多大な被害を受けてしまい、生活が立ちいかなくなってしまっている場合などは何らかの救済処置が取られることはあるが。

 とはいえ、王が直接被害額を補填するなどというのは聞いたことがない。


 人間に迷惑をかけたくないという心意気なのか。

 本来は被害者の心のケアとかが必要なのであろうが。謝罪が出来たのは良かったとはいえ……関わり合いが断絶されている今、金品を返す以外に補填する術もないのであろう。


「まあ、魔王ってくらいだから金はたんまり持っているから大丈夫さ。精神的なショックはともかく、健康被害は特にないだろうからねぇ」


 おばば様がもうひとつの気にかかっていることをさらりと言った。


「髪も戻るのでしょうか?」

「薬の効果が抜けさえすれば、毛根が生きているところには生えて来るさ」

「……それなら、良かったですぜい」


 瘦身茶に関しては全く効果を感じなかったという者が殆どだったそうだ。

 ただ高いお茶を飲むという行為を繰り返していただけだと思うと、なかなかにショックであることだろう。


「旨い話には裏があるってやつだな」

 魔人が腕を組んで頷く。


「しかし、毛生え薬は良い商売なのかもしれないねぇ」


 おばば様が人相悪い顔で言った。魔人も極悪人顔で大きく頷く。


「やせ薬は無理だが、毛生え薬は何とかなるだろ。絶対儲かるぞ!」

「……ちゃんとしたものを売りなよ」


 フラメルがジト目でふたりを見ては、ため息まじりに言った。


 ハクは相変わらずニコニコしながら真っ白な耳をピコピコと動かし、フェンリルとユニコーンは肩を窄めては首を左右に振っている。


『……ぁぁぁぁ!』


 マンドラゴラは恐ろしい顔のふたりを見て、涙を浮かべながらエヴィの足元に駆け寄った。


『ZZZZZZ』

 タマムシは相変わらずマイペースに、ソファの片隅で呑気に昼寝をしている。

 サラマンダーは楽しそうに、くるくると部屋の中を泳ぐように飛び回っていた。

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