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おまけ: 戦略ゲーの世界で一人だけ経営SLGやってる (本文ちょっと修正版)

これは何処にでもある一つの荒稼ぎの物語。文明が享楽へと飛躍した世界。

オートメーション化が進み仕事を失いつつある人類は、仮想世界に於ける競争に稼ぎの道を見出した。単純な話、ゲームで勝ち続ければ飯に困らない弱肉強食の世。

そんな世界を生き抜く為なら……チートとハッキング以外は、何したって構わないでしょう?


ネカマにハッタリ、安地でお芋、それとついでに荷馬車で現金送れ!


参加費5万クレジット、一位は総賭け金の8割、二位三位はそれぞれ1.0と0.5割のバトルロイヤル式戦略SLG『異界伝説online-V』でやるなんちゃって経済戦争ライトノベル!


──最後に笑うのは、きっと一番『クズい』奴。


<バジル商会──アルムリア王都支店・応接間>


「どう いう 了 見 なん だっ!」


 赤髪で黄金の剣と冠を携えた男が新たな『条約(・・)』の書かれたウインドウ(・・・・・)を机の上へと叩きつけた。事が思い通りに運ばず今にも暴れ散らかしそうなこの男の名前はガーネット=R=アルムリア。この国の現国王であり、現債務者。つまり、金を貸し与えた相手がいるという訳で。


「どう、と言われましても。今の(わたくし)どもから貴方様の国へとお貸しできる金額はこの程度、というだけのことです」


「くっ……この女狐め……」


 メガネを上にクイっとしながら相対する債務者に対して淡々とそう答えた女狐──バジル商会頭取、バジルは続けて。


「こちらの提案を呑んでいただけるのであれば更なる支援をお約束できるのですが……」


 新たな条約(ウインドウ)を差し出すがそれはガーネットの手によってすぐに跳ね除けられる。


「関税自主権に実質的な領地の割譲、しかも国政参入権とかふざけているのか!?」


「ふざけてなどおりません。至って真面目な契約書です。このままカルバート連邦との戦争を続け全てを失い滅亡(強制ログアウト)するか、私の提案に乗り君臨(ログイン)し続けるか。さて、いかがなさいますか?」


 王都より離れた遥か北の地の最前線も、最早バジル商会の兵站補給のお陰でなんとかなっている状況。それも間も無く訪れる冬の調べが来れば瓦解は確実だろう。彼方にはバフ、此方にはデバフが掛かるのだから。


「……お前は、俺が負けると思っているのか?」


 怒ってもどうしようもない事を悟り、頭を抱えながらガーネットは目の前の"敵"を睥睨するが、女狐の鉄仮面は変わらない。相変わらずの清し顔。


「残念ながらその通りでございます。カルバート連邦はこの世界(マッチング)の中では随一の武力を誇る国家(プレイヤー)。それに加え彼女(ミル)は貴方の周囲の国には『手を出したら次はお前だ』と脅しを掛けており、私どもの他には漁夫も助け舟もあり得ない状況。となれば国力の比べ合いとなりますが……その差は一目瞭然ですわ」


「……ッ!」


 唇を噛み締め自己の行いを省みたって最早他に手はない。伸ばされたのが例え悪魔の手だったとしても握るしかない。さもなければ後ろから迫ってくる死神に刈り取られるのみ。


「さて、ガーネット様。如何なさいますか?調印なされるか、破棄なされるか。私に強制権などございませんので、どうぞお選びください」


「…………キチンと、助けてくれるんだろうな」


 先程までの様子とは打って変わり、弱々しく羽ペンを実体化させ、ウインドウを引き寄せる。その言葉にバジルは変わらない貼り付けたように微笑みのままに誘うだけ。

 

「勿論です。バジル商会の名に懸けまして、一度結びました契約は違えませんので」


「そう、か」


 繋がれた鎖のように重い調印を終え、最高級ソファーへガーネットは身体を預け脱力した。その顔は一周回って健康そうに見えるかもしれない。


「あ〜あ、どこでやらかしたんだ俺は。芸術勝利できると思ったのによ〜……最悪だ」


 先程までの威厳は何処へやら。淡麗な顔を無駄にして横になり、うだうだと愚痴を垂れ散らかすのみ。それはまるで、思い通りにならなくて自暴自棄になった学生のよう。


「しがない商会を開くだけの私には日々の情勢を追いかける事が精一杯でございます。そのような事柄は、貴方様の方がよくご存知なのではないでしょうか」


「うっせ。………って、今更なんだがよ。一ついいか。いや、契約のことじゃないからそのウインドウ仕舞え」


「………なんでございましょう?」


 追加で搾り取れるとぬか喜びさせられたバジルだったが、実質的な属国(・・)となってしまったガーネットからの問いにはそれを上回る喜びがあった。


「お前ってさ…………『(プレイヤー)』だろ。前から薄々思っていたが、今日の件で確信に至った」


「……ふふ」


「その笑いは肯定と受け取るぞ女狐。で、だ。それが本当だとすると前々から一つ気になってた事があってよ。種明かししてくれ──」


 


──お前の『本店(領地)』って、一体何処にあるんだ?

















<バジル商会──"本店"・頭取室>





「あぁ〜……つっかれたぁ〜……」


 契約を取りつけて我が家へと帰ってきた頭取はソファーベットにボスンと倒れ込む。見てくれこそは立派な部屋だが、実際には生活感いっぱいの私室であるここに立ち入るのはこの女狐や悪魔と呼ばれる頭取と、誰も知らない秘書くらいのもの。


「ああもうバジル様、またはしたない事をして……」


「何よー、いいじゃないー、ここには誰も来られないんだからー」


 気の抜けた棒読みと共に眠ろうとするバジルの頬を秘書のロイシーが何度も何度も叩き起こそうとペチる。しかしあまり効果はないようだ。


「いいからシャキッとしてください!外ならあんなにカッコ良い頭取様なのにどうして帰ってきた瞬間ふにゃふにゃになるんですか!?」


(あれ)はただのキャラ作りだからー。(これ)が素だからー」


「せめて起き上がってください!!」


 ベットに倒れたこんだ頭取を"30cm程“の秘書が引っ張り起こす。頭を掻きながら眠そうにするが、流石に画面に資料(ウインドウ)を叩きつけられたら起きるしかない。スーツの埃を払い、インベントリから眼鏡を取り出して掛ければいつものバジルに元通り。


「はぁ〜……それで、(わたくし)が留守にしている間に何か異変は?」


「ありません。この妖精郷(・・・)は相変わらず平和そのものです」


「そう。さっき、ガーネットに少し勘づかれたけど……まさか、私の種族が妖精だなんて分かるはずがなかったみたいね」


 普通の種族を選択した他国家(プレイヤー)達には通常知覚できない妖精だけの場所、妖精郷。バジル商会の本店()はここにある。

 

「それは良かったです」


「何はともあれ、無事にアルムリア王国を傀儡にできたもの。ガーネットの()が落とされないよう、頑張りましょうか」


 バジルが様々な制約を受け入れた上で"妖精"になったのはこの条件が大きい。この世界(ゲーム)では(プレイヤー)が倒されるだけだなく、(ホーム)が陥落した時点で敗北が確定して滅亡(強制ログアウト)してしまう。この二つの大きなリスクの半分を、ほぼ完全に切り捨てられるのが妖精の唯一にして最大の強み。しかも妖精になるためには準備期間の内に隠しクエストを熟さなければならないので知名度が少なく対策もされ難いので二度美味しい。


「……本当に奇特ですよね、バジル様の統治(プレイング)


「普通の戦争は飽きたの。どれだけ頭を使ったって、戦う以上は負けるリスクからは逃れられない。なら……最初から、私は戦わなければいい。そう思わない?」


「その結果が他人の国を乗っ取って代理戦争で共倒れを狙うだなんて外道もいいところですよバジル様」


「あら、孫子も『戦う前に勝つ事が最良だ』って言っていたじゃない」


 バジルは悪戯にクスリとそう宣うが、ロイシーの瞳は相変わらずジトッとしたまま。苦笑もなかった。


「他国を経済で支配しろという意味ではないと思いますよ」


「それは残念。さて、そろそろ魔導機関砲の開発が終わっているはずだけど、どうなったかしら」


「首尾は上々です。間も無く製造開始できるかと」


「なら纏まった数が製造できたら順次ベルガモット・バレーへと配備して頂戴。カルバート連邦は作りやすい物理偏重の軍隊だからだからよく効くでしょう」


「……妖精郷ならではの武器を現実に配備させるなんて驚きましたよ」


「あくまでも貸与だから所有権は私のまま。しかももし損害が出たらアルムリア王国に請求すればいい。国家間の戦争に於ける敗者は、勝者に骨の髄まで啜られるのよ」


 最もらしい事を言いながらバジルは資料を眺めるが、内心はそうカッコいいものではないことをロイシーは知っている。


「……本音は?」


「異界の超兵器で無双するのちょー楽しい!賞金クレジット欲しい!」


「だと思いましたよ」


 完全に役に徹しきる国王もとい頭取の率いるどうしようもない拝金主義国家『バジル商会』は、"バトルロイヤル式リアル戦略SLG"たる『異界伝説online-V』のこの世界にて、武力ではなく……経済力のみで戦うのだった。







「それじゃそろそろリアルは飯だから落ちるわ、1時間くらいで戻る」


「了解しましたー」














荷馬車で現金送れは全て詐欺です

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