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第1話「わたし、プラキュアやります!」(1)

私、剛力勝子、今日から中学2年生!今日は始業式なんだけど、目覚まし時計をかけ忘れて遅刻しちゃいそう!いっけなーい。急げ急げ!ちなみに、ベンチプレスは180kg、スクワットは250kg、デッドリフトは230kgだよ!


その刹那だった!眩い光の線が、勝子の音速を越えるようなスピードで勝子の元へ駆けてくる。

しかし、サバンナのライオンをも超越する勝子の動体視力は、その光の中に何らかの"モノ"があることを確かに捉えていた。すかさずその隆々とした上腕筋を駆使して、その光りの中の"モノ"を掴み取る。


勝子は両手に、フワっとした感触をまず知覚した。よく見てみると、それはトイ・プードル、いや、ティーカップ・プードルと呼ばれるような小さい小さい濃い茶色のプードルだったのである。


「よう。」そのプードルは、低いが決して渋くはない下品な声で唐突に勝子へそう呼びかけた。


「あなた喋れるの!?」かつてシベリアの僻地でヒグマと対峙した勝子とて、トイプードルが喋るという光景を目にするのは初めての体験であった。驚くのは無理もない。


「ガハハ。驚いたか、嬢ちゃん。」つぶらな瞳ながらも、そのトイプードルは耳障りの悪い、品のない笑い声をあげる。


「おっと。いけねえ。無駄話はここまでだ。驚いてるところ悪いが、単刀直入に話を進めるぜ。俺には名前なんてないんだが、まあ、山本って呼んでくれ。」


「山本...さん?」勝子は話の流れの速さについていけてないようである。


「そして、嬢ちゃん。早速で悪いが、アンタには伝説の戦士プラキュアになって貰うぜ。」


「プラキュア...?」全く聞き覚えのない単語に勝子は首をかしげる。


「まあ、説明するより、実際なってみてもらう方が早いさ。この棒を手に持って高く掲げながら、変身!って言ってみてくれ。」何かに急かされるように、山本は勝子に先端に薄いピンクのハートが逆さに付いている濃い肌色の棒を肉球から勝子に投げ渡す。


受け取った勝子は言われるがままにポーズをとり、「変身!」と声を発した。


すると、学校のブレザー姿だった勝子は、白とピンクを基調とするフリルで覆われた半袖の上着と、濃いピンク色のこれまたフリルのついた大きなスカートという姿に"変身"したのである。もっとも、勝子の逞しい四肢が露わになっているものの、何故か不釣り合いという感じはしなかった。


「イイ身体しとるじゃないか、嬢ちゃん。ところで、肩借りるぜ。」サラっとセクハラまがいのことを言いながら、山本は体を屈めた後に勢いよく伸ばし、勝子の肩に飛び乗る。「これから俺の言うところに向かってくれや。」


「ワタシ、学校遅刻しちゃうんだけど〜」顔を顰めながら、勝子は不満を申し立てる。


「嬢ちゃん、そんな格好じゃ学校行けねえだろ。そんな大した用じゃねえから、時間はかかんねえよ。用が済んだらその格好を解いてやるから。」


「えぇ〜!?そんなやり方、卑怯だよお!」勝子はそう嘆きつつも、その鍛え抜かれたハムストリングと大腿四頭筋を駆使して、膝を高く上げながら勢いよく山本の指示どおり駆けていった。


向かった先は、隣の市との間に掛かっている大きな橋であった。野次馬と制服を着た警察官が橋の手すりの上に立つ長髪の少女を取り囲んでいた。


警察官がやさしく語りかける。「君、落ち着いて。その剃刀をしまって、こっちに戻ってきてよ。」


語りかけた先にいた少女は、眼鏡をかけており、制服姿であった。


「あれ、うちの制服だ。」勝子はすぐに気がついた。


「私、もう死にます!」泣きながら剃刀を左手首にあてて叫ぶ。


「なんか、自殺のテンプレみたいな光景じゃねえか。」山本は不謹慎な笑いを堪えられないでいた。


「止めなくちゃ。」笑う山本に対して、勝子は真剣な眼差しでその様子を見る。


勝子は野次馬を掻き分けて、少女に近づいていった。


「君!何をやっているんだ!下がりなさい!」警察官の注意も虚しく、勝子は剃刀を持った少女の元へ素早く駆け寄り、自慢の肉体を跳躍させて手すりに登り、少女の隣に立ったと思ったら、少女の頭を守るように抱き抱え、一緒に川の中に落ちていった。


「何をやってんのよ、嬢ちゃん。」川に落ちる直前咄嗟に勝子の肩から降りていた山本は、そう呆れながら、びしょ濡れになって川岸に這い上がった勝子らを迎えた。


「えへへ。考えるより先に身体が動いちゃって。」勝子はショートヘアを掻きながら弛緩した笑みを浮かべる。


「あなたは、大丈夫?」勝子は、掛けていた眼鏡がなくなってしまった少女に声をかけた。


「どうして...どうして、私なんかを助けるのよぉ!」少女は訳も分からず泣き叫んでいた。


「なんでって上手く言い表せないけど...自分を大切にしてほしいなって。」勝子は優しく微笑んだ。


少女は嗚咽しながら泣き続けた。


「大丈夫か!?」橋の上にいた警察官たちも勝子たちの元へ駆け寄って来た。


「こんな無茶をしちゃ駄目じゃないか!」警察官は続けて勝子に注意する。


「ごめんなさい。」勝子は苦笑いしながら謝る。


「でも、君たちが無事そうで良かったよ。」警察官は安堵した。


「はっ、はっ、はっ。どうやら、"実験"は上手く行かなかったようですな。」渋くダンディで上品な声が、土手の上から聞こえてきた。


土手の上に目を向けると、白いシルクハットを被りサングラスをかけ、鼻と口の間に整えられた髭を蓄えたふくよかな中年男性が、上半身に紺色のスーツを纏って立っていた。


「あなた誰...?」勝子はその紳士に問いかけた。


「おめえは...そうか、今回もおめえの仕業か。」相変わらず瞑らな瞳を土手の上に向けながら、四つん這いの山本は呟く。


「ははは、山本サンですか?お久しぶりです。」中年男性は不敵な笑みを浮かべる。


「おいお前!何だその格好は!?」異変に気づいた警察官が中年男性の元へ駆け寄る。


それもそのはず、中年男性は腰から上までは完璧に整えていたが、その下は何も履いていなかったのである。


「来い!公然わいせつの現行犯だ!」警察官は中年男性に手錠をかけようとする。しかし、たちまち中年男性は手錠を持った警察官の手を捻り、足をかけ、組み伏せる。


「いきなり手錠だなんて、ジェントルじゃありませんねえ。紳士の風上にも置けません。」中年男性はホルスターに手を伸ばし、拳銃を手に取り、撃鉄を起こして銃口を警察官の頭に突きつけた。


「銃を下ろせ!」相勤の警察官は、慌てて拳銃を手に取り、中年男性に銃口を向け、撃鉄を起こした。


いつもなら平穏な朝の土手で、著しい緊張が走っていた。

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