起章 4
どうやら僕は生きているようだ。
いや、少し違うか。
まず先ほどの会話を思い出す。
聞きなれた日本語じゃなかった。
何故聞いたこともない言葉を理解でき、喋れたのかが解らない。
次に身体。
間違いなく縮んでいる。
今までの半分くらいのサイズになっている。
動かすことは問題ないようなのでそこは一安心だ。
また、腕や足のムダ毛も殆ど無くなっているし、なによりも下着の中を見ても毛が無かった。
間違いなく幼児になっている。
部屋の中を見回してみるとベッド以外は質素な机と椅子があるだけで床や天井、壁は木の板が貼ってあるだけだしテレビやコンセントなんて見当たらなかった。
先ほどの女性が開けたガラスのない窓から外を見ようとしたけど、今の身長では届かなかった。
机の傍にあった椅子を持ってきて踏み台にして外を見ると、そこにはまるでアニメでよく見る農村のような風景が広がっていた。
視界の殆どを畑と山と空で占め、家のような建物は点在するだけだ。
視界の奥に川が流れており、傍に風車がある。
道路は土が申し訳ない程度に平らに均されているだけで見慣れたアスファルト舗装なんてされていない。
雑多な騒音も聞こえないので車もないのだろう。
そして一番の衝撃は電線はおろか電柱がどこにも見当たらないことだった。
胸が「ドクン」と波打った。
もしかして・・・
・・・これが異世界転生?
ヤバい。なんだろうこの気持ち。
今まで妄想の中でしかなかった異世界に、今自分がいる。
あの時一郎のカノジョを庇って斬られて死んだはずなのに、こうして異世界で生を受けたなんて。
そう思うとまた胸が波打った。
「オーケーオーケー、落ち着くんだ」
僕は生前?のマンガとアニメ、ラノベで培った知識を総動員させ心に平静を取り戻そうとしたけど失敗した。
顔が熱くなるのが解る。
胸のドキドキも止まらない。
それはそうだ。
だって僕は今憧れの異世界に転生することができたんだから!
・・・でも待てよ?
僕、異世界転生あるあるのチート能力貰うイベントやってない気がする・・・
女神さまにも精霊にも悪魔にも会って話した記憶がない。
異世界転生=チート能力じゃないのか?
今までどれだけ異世界転生したら貰おうと思っていた能力考えたと思ってるんだよ!?
伊達に中二病歴10年越えてないんだぞ!?
そう考えると何だか悲しくなってきた。
折角の異世界転生がチート能力がないなんて、転生して失敗じゃないか・・・
この持ち上げられたテンションのアップダウンをどう処理していいか戸惑っていると、部屋の外から女性の声が
「シュウ、いつまで出てこないの?ご飯冷めちゃうわよ?」
と聞こえた。
同時に僕のお腹の音も聞こえた。
僕はご飯を食べるために部屋から出た。
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