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白い手

作者: 神名代洸

それはとても綺麗な手だった。

まるで作り物のように透き通った手。

窓から出ている手だけを見て僕は美しいと思った。

だけど体が見えない。一体どんな美人さんが出てくるのかをいつまで経っても待っていたのだが、見えることはなかった。

そう…それは…見えていたのは手だけだったからだ。

手だけが空中に浮いている。

恐怖しかなかった。

何で?どうして?

わからない。


その手が徐々に僕のところに近寄ってくる…。

焦る僕。

逃げようとするも両足は動かなかった。

何故?

分からない。


でもね、僕の頬を冷たいその手が触れた時僕は意識を手放した。いや、無くしたと言った方がしっくりくる。

次に目が覚めた時には僕はその場で倒れたままの姿だった。あれは一体なんだったんだ?

夢でも見たのかもと思ったが、それは間違いだった。だって今目の前にその手が浮いていたから。





そもそもなんでそんなことになったのかは分からない。

あれは確か…そう、何を思ったのか観光地で耳にした不安なことが原因かも。

そう、そこは確かに観光地ではある。だが、自殺の名所でもあったのだ。そんなの僕がわかるわけが無い。知らなかったんだ。観光地なら色んな人が多々来るからパワースポットか何かなのかと勘違いしていた。

だから怖い話は耳にしたくなくてとっととその場を後にしたのだ。


自宅に帰ってからもしばらくは落ち着かなくて、ダチに連絡して遊ぶ事にした。

それはゲーセンでカラオケをする事かな。

あっ、そうそうボーリングもしたな。

4人だったから対戦もしたっけ。

めっちゃ面白かった。

でも時間が過ぎるのは早くて4時間も遊んでしまっていた。

ダチは皆それぞれが用事がある為時間が来ると帰ってしまった。当然僕も遊び相手がいない為、自宅に帰る事になる。


「はぁ〜、楽しかった。お金も使ったけど疲れたよ。」


疲れた体にむち打って僕はお風呂に入った。そして今日の事を思い出していた。ダチとの遊びは確かに楽しかった。話も面白くて色んな話をしたっけ。

面白い話、ずっこけた話。思わず吹き出す話など。

でも中でも1番盛りあがったのが怖い話だった。だが僕はあいにくとあまり得意では無い。けどダチに話を合わせて真剣には聞いていなかったのだが、そんなのすぐにバレてますます怖い話で仲間は盛り上がる。

やめてくれよ〜得意じゃないんだよとは言えなかった。ますます付け上がる奴らばかりだったから。ダチの一人が怖いこと言う。


「なんかさ、視界に不思議なものが入ってくるんだけど…何だろ?」「?。何何?」「あっ、アレなんだけど…。」ダチの一人がそう言いながら指さす方角にあったのは等身大のマネキン。片腕がなかった。

まぁ少し汚れがついてたから年季が入ってるんだなと思った。能面なので表情がないだけマシかな。だってあったら逆に怖いと思わないか?笑ってて片腕が無いとか……。


でもなんでこんなところに一体だけあるのかは謎だった。

ここ、ボーリング場だぞ?

マネキンなんか飾っておく場所なんてないはず。

みな頭を傾げたが従業員でも無い為分からなかったのでそのまま知らん顔をして遊びに夢中になってた。

客がどんどん来るともう場内はボールの転がる音でうるさく話をするのもちかづいてしなければならなかった。


2ゲームやった所で一旦休憩し、各々飲み物を買いに自販機へ。僕はそのままトイレも済ませようと1人でトイレに向かった。


その場所は等身大のマネキンがある場所の近くだったが、ようをたしたくてたまらなかったから無視してトイレへ。

終わったら僕も飲み物を買いに自販機へ向かった。

適当にジュースを買って皆と合流したが、ワンゲームで終わることとなった。

まだ時間はあったが、仲間の一人が用を思い出したという。そしたら他の二人もなんか用事を思い出したって…なら何でもっと早く言ってくれないのかと思ったが、僕がいない間に家族から電話でも入ったのかとも思い、お開きをすることとしたのだが、ゲームの間中…なんかみんなの視線が僕を見てる気がして気になって仕方がなかった。


だからどうしたと聞くわけにもいかず、僕は黙って黙々とボールを転がし続けた。

最後のターン。

自分が最初だから転がしたらボールを片付けようと待ち構えていたが、一向にボールが出てくる気配がない。

詰まったかな?と思ったところでガタンと音がして何かが吐き出された音がした。てっきりボールかと思ったのだが出てきたものを見て思わず叫んだ。

「手?手だ!」

びっくりしたのは僕らだけじゃない。

それを見ていた近くのレーンにいた人たちも驚きと恐怖で叫んだ。

もうパニックになってたね。

パニックは連鎖し、裏方の機械室に死体があるんじゃないか?とか…誰かが機械に巻き込まれた…とか。

従業員はパニックになりながらもその手を見ようと近寄ってきたが、従業員が来た途端白い手はパッと消えた。

あり得ないことが起きたのは皆わかっている。

その様子をたまたまビデオに撮っていた人がいて、見るとやはり白い手が写っていた。

何だったんだ?アレは?

僕らのレーンの近くにいたもの達は慌ててその場から逃げ出すと、周りにいたもの達も何事かと思ってつられて道具を片付けに動く。

そしてそれは連鎖して入り口に近い場所にいたもの達は出口に急ぐ。ゲームをしにきた人たちはなぜこんなに皆慌てて出ていくのかわからず、出入り口を塞いでしまう。

押し合いへし合いが始まり、ザワザワと人の声がホール内で反響する。

係の従業員が裏に回り音楽を止める。

そうするとシーーンとする。

お客は皆小声でボソボソと話し声を出しながら何とか出ようとする。

いたちごっこだ。


真っ昼間からこんなこと起きたことがない為皆動揺している。が、誰かが叫んだ。



「幽霊が出た!」



それだけで皆の反応は変わる。

入ろうとしていたもの達も皆ではじめた。思うところは一緒なのだ。誰も怖い目に会いたくはない。

ここは建物の2階にあり、出入り口にはエスカレーターが昇り降りする為あるのみなので、焦るとドミノ倒しとなる。それがわかってても皆焦ってしまい、何度こけそうになったことか。

それでも少しずつ人の波はできてきて、エレベーターにどんどん吸い込まれていった。

僕はダチと離ればなれになってしまった。それほどの混みようだったから。

下に降りた時には周りには知らない人ばかりでみなその場で立ち話をしていた。


「誰が見たんだ?霊を……。」

「いや、知らない。だが若いもんが言ってたのは確かだ。」

年配の男性がそう答えた。

「もしかしてそう言っておいて人が少なくなったらボーリングをしようという魂胆かも。」

「いや、それはないと思うよ。だってビデオを撮っていたって言うグループが再生してるのをチラ見したけど確かに人の手だった。」

「え?あんた見たの?本物だった?」

「いや、それは分からないが血は出てなかったと思う。」



僕は1人で何をしてるんだ?

ダチはどこ行った?

帰ったのか?

僕を置いて。

用があるとか言ってたけど今更聞けないよね。本当かって。

多分あの場から逃げるための口実だった気がしてならない。


だけどなんであそこに出たんだろう?

まるで誰かを追いかけてるみたいな……まさか…僕じゃないよね?でもよく考えてみるも自分が関係している気がしてならない。だって初めにあの白い手を見たのは観光地だった気がする。

それからそれから……。



風景画を何枚かとってたっけ。

だからそれを見てみようと思ったんだ。特に意味は無いけど……。

だけどね?

おかしな事に気がついた。

どの写真にも必ずどこかに映り込んでいたのだから。

恐怖しかないよ。

ほんとに〜。


その写真は持っていたくなくてトイレの洗面台で火をつけて燃やしたよ。

幸いにも大した煙ではなかったのかブザーはならなかった。

ホットしてその場を後にした。


トイレを出たところではまだ人が大勢いたが、僕はもうあえて無視して建物から出た。

外は風もなく昼間ということで蒸し暑かった。夏だから仕方ないかと1人で納得してトボトボと乗ってきた自転車のそばまで来るとダチの自転車は一台もなかった。先帰りやがったかとちょっとだけイラッとしたが、もう気にしないでおくことにした。

自宅まできたが、さてもし僕に霊?がついていたとしたらこのまま家に入るのはどうだろうと思い、自宅にいるはずの母さんを呼んで塩を持ってきてもらった。

両肩から塩を貼り付けてパンパンと叩く。

全身終わったらようやく自宅に入った。その姿をじっと黙ってみていた母さんは変な顔してたっけ。

その母さんを押して玄関から中に入る時もう一度だけ辺りを見回したが白い手はどこにも見当たらなかった。



その日の夜、ダチの1人から電話があった。

どうやら何かあったようだ。

聞いてみた…。

ダチ曰く、玄関のチャイムが鳴ったから出てみたが誰もその場におらず、辺りを見た時にあの人形が立っていたのをみたという。

マジ勘弁。ヤバイよ。

僕のところじゃなかったのは良かったけど、ダチのところって……どうしたらいい?どうしようもない。無理だ。何も出来ない。

僕は電話をきったあとその場でがたがたと震えていた。

そんな姿を見た母が不安そうな顔をする。


「何かあったのかい?母さんではなんにも出来ないかもしれないけど話すと少しは楽にならないかい?」

「あ〜、ムリっぽい。ほんとマジでヤバいからさ。母さん聞いたら腰抜かすよ。」

それを聞いただけで真っ青になり、そそくさとその場からいなくなった。

やっぱりこの反応が普通なんだよな〜。



それから暫くは誰とも会うチャンスがなくて例のダチとも話す機会がなくてどうなったのか不安だった。

チャンスが訪れたのはそれからなんとひと月後。

だけど怖いことにダチの姿は無かった。どうやら自宅から1歩も外に出てないそうだ。

けどダチの自宅を僕は知らない。

ダチの連れを探して一緒に行ってくれるかそれとも住所を教えてくれるかと聞いてみたら会うのはちょっと……と言葉を濁し住所を教えてくれた。

何かあったんだろうか?

僕には皆目検討がつかなかった。

でも多分、いやきっと良くないことに違いない。

夏だと言うのに悪寒が走った。


アパートの1階の端っこがダチの部屋となる。

緊張した……。手に汗をかきながらチャイムを押した。

【ピンポーン、ピンポーン……】

部屋に音が響いたが誰か出てくるという気配がない。

あっ、そうだと知り合いにダチの携帯番号を聞いていたのでその携帯番号をうってみる。

するとね?

部屋の中から音がするんだ。

これ、携帯の着メロと違う?

じゃあ、ダチは部屋の中?

何してるんだ?


ドンドンと玄関のドアを叩いても反応がないということは何かあったかもしれないと僕は直ぐに警察に電話をかけて簡単に事情を説明した。オカルトは信じて貰えなかったが、部屋の中で携帯がなってるのに出ないと言ったらお巡りさんは緊張した顔でついてきてくれた。問題の部屋は鍵がかかっていた為管理人に連絡をしてもらい合い鍵を出してもらうことが出来た。

もちろん管理人もついてきた。何かあったら困るからだ。

警官を筆頭に僕、管理人と部屋の中に入るとそこにはダチが部屋の中心で倒れた姿で発見された。警官は直ぐに脈を確認するも時すでに遅しだったようだ。真剣な顔をして部屋を出ていった。パトカーから連絡を入れるのだろう。それは僕にもわかった。顔を見て僕は固まった。だって真っ青になった顔のままだったから……。何があったのか僕には皆目見当もつかない。

警官なら調べてわかるかもと期待した。

ただ時間はかかるかな?


僕は昨日一緒に遊んだメンバーにダチが一人亡くなったことをLINEで伝えた。既読がついて返事がすぐ来た。


「マジか?なんであいつが?」

「僕にも分からないよ。でもあの白い手が関係してる気がしてならないんだ。警官に話したら信じてもらえるかな?」

「それは無いな。オカルト体験があってそれからおかしくなったって言ったって信じるわけないよ。警官ってそんなもんだろ?」

「だけど一応言っておいた方が良くね?」

「俺は意味ないと思うけど、気になるなら言ってみたら?まぁ、だいたい想像できるけどな。」

僕は話してみようと思って警官を探し、話をしたがわかっては貰えたか自信はない。多分友人の言う通りなんだろう……。そんな気がした。


どうしたらいいんだろう……。

残った3人で話し合ってみた。

でも解決の糸口は出てこなかった。

みな顔色は悪い。

僕もそうだが、ほかの2人はまだ直接的には霊の白い手を直に見た訳では無い。間接的に見ただけだ。

だが、まだ恐怖があっても僕ほどじゃないと考えた。

それがあとになって後悔する事になるとは予想だにしなかった。僕は直に見た1人として警戒を強めた。だけどそんな僕の行動を嘲笑うかのようになんとまた僕の所に現れたのだ。

しかもその時には母さんも一緒だったのだ。

母さんは初めて見た恐怖でその場で失神した。その方がかえってよかったのかもしれない。手が飛んでくるのを見たからだ。

指をでたらめに動かして飛んでくる様はB級映画に出てくるゾンビ映画のようだった。

唯一は血が垂れてこないことかなぁ。

余裕かましていたわけじゃない。


ただ、血を見ていないぶん冷静でいられたのは事実。

玩具と思えばいいと勝手に思っていたのだ。

だけどそれが目の前からいきなり消えて首を後ろから掴まれた時には慌てて逃げようとしたのだが、手が届かなくて振り解けない。息が出来ないことに苦しみながらなおも必死に逃げようとした。でも徐々に意識が遠のいていく。今気絶したらまずいと必死に意識を保とうとしたが、頭に血が溜まっていくのを肌で感じて恐怖で固まってしまった。

死にたくない。

まだ、……やりたいことたくさんあるんだ。母さんもあのままにしておけない。グググッ。負ける…もんか!

僕は必死になって手を掴み両手で引き剥がすことに成功した。酸素が一気に肺に流れ込んできて咳が止まらない。


息が整ってきた時周りを見たがあの白い手はどこにも見当たらなかった。もしかして母さんの所かと焦ったが、そこにもいなかった。消えてしまった。

一体どこへ?


ダチの事も頭をよぎったからLINEを送ったが、すぐ全員既読になったからホットしたよ。じゃあ、あの手はどこへ?



それ以降僕の前から姿を消した白い手は今どこにいるのか分からない。

ただ、僕はそれ以降常に周りを気にするようになった。




「ねぇ、あそこにあるのディスプレイされた可愛いマネキンだね。」「うん、そうだね。でもなんか足りないよね〜。」

「うんうん、そう。あっ、手がないんだ。」

それをたまたま聞いた僕は喋っている人の方を振り向くとディスプレイされた人形が一体あった。

それは確かに無かった。

まるであの手が無いマネキンを見た時を思い出す。

ただ違うのはカツラが被せられている事だけ……。

でも気になり足早にその場を去った。


その人形はまるで僕を見ているかのように立たされていた。

僕は気味が悪くて見ないようにしていた。

そう、人形なんてほとんど同じだからね…。


人形なんて見たくない。

だから…………。

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