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モノ扱い

一日分の洗濯を終えても、洗濯用魔道具に特に問題はなく、乾燥後はしっかり乾いていることも確認できたため、緊急用ベルを鳴らした。執事に報告するためだ。


鳴らしてすぐ、執事本人が来てくれた。


「セドリック様、洗濯用魔道具の改造は完了しました。また、本日分の洗濯も終えております」


「そうか。よくやってくれた。礼を言う」


「ありがとうございます」


「それで、使い方は?」


「はい。洗濯物と洗剤を入れ、このボタンを押すだけです」


「……事前に聞いてはいたが、やはり信じられん。本当に、ボタン一つで動くのか」


執事は、洗濯用魔道具と、洗濯後の衣類やタオルを見比べている。


「ええ。魔道具を扱えない人や、魔力のない人でも使えます」


「これは……大発明だぞ! 素晴らしい! この邸宅内だけで使うには惜しいな」


「お褒めに預かり光栄です。ヴィデル様にお許しいただけたら、ぜひ領内に広めていきたいと考えております」


「うむ。おまえを見直したぞ。初めは生意気な小娘だと思ったがな、これほどの才能と技術だ。多少捻くれていても大目に見ようではないか!」


「はぁ」


「それでな、ここに来る前に、ヴィデル様とお前の処遇について話をしたんだがな。お前は明日からは奴隷扱いではなく、使用人として扱うことにする」


「あの、奴隷と使用人では何がどう変わるのでしょうか?」


実家のストラード家には奴隷がいなかったため、よく分からない。


「違うのは大きく三つ。一つ目は給与の有無。二つ目は雇用契約の有無。三つ目は個室の有無だ。おまえの場合、個室については離れの部屋をそのまま使ってもらうことになるがな」


ふむ。そういうことか。いい話ではある。


「なるほど。ありがとうございます。契約にあたり、何かこちらですることはあるでしょうか?」


「契約書は私が用意する。ルヴァ様の許可をいただいた後、おまえと内容を確認しサインしてもらうことになる」


「承知しました。お手数をお掛けしますが、よろしくお願いいたします」


「そういえば、いつまでもおまえと呼ぶわけにはいかないな。名を教えてくれ」


「はい。私、エリサ・ストラードと申します」


執事が息を呑み、黙った。そして、頭を下げた。


「……エリサ嬢。何卒、これまでの数々のご無礼をお許しください。まさか、ストラード家のご令嬢とは思わず……」


「いえ、セドリック様、頭をお上げください。奴隷として売られていたことからお分かりかと思いますが、私はこちらに来る前に家を勘当され、もうストラード家の令嬢ではありません。他の使用人を呼ぶのと同じように、エリサとお呼びください」


「しかし……」


「勘当された元令嬢など、恥ずかしい過去です。どうか、お願いいたします」


「うむ。分かった。このことはヴィデル様はご存知なのか?」


「いえ、お伝えしておりません」


「そうか。契約書を見ていただくルヴァ様と、ヴィデル様には私からお伝えするが、それでよいな?」


「はい。異論ありません」


「そうか。何か質問はあるか?」


「一つだけ。離れの鍵を私にも持たせていただくことは可能でしょうか?いつもティオナさんに食事や身の回りの物を持ってきてもらっており、申し訳なく」


「……それなんだが、鍵を渡すことはできないんだ」


おっと、これは予想外だ。使用人に昇格したなら監禁も解かれると予想していたのに。


「差し支えなければ、理由をお伺いしても?」


「……アトラント領の魔道具開発は、ルヴァ様がヴィデル様に一任されておる。つまり、エリサはヴィデル様の管理下に置かれている。そして、そのヴィデル様が、エリサをアトラント領の資産として扱うとおっしゃったのだ」


んん? しさん? どういうことだ?


「エリサが魔道具を通じてこの領にもたらす価値は計り知れない。それは分かるな?つまり、単刀直入に言うとだな、エリサが領外に逃げ出したり、誰かに盗まれたりすると大きな損失になるから、施錠管理するように、ということだ」


うっひゃー! 完全にモノ扱いである。


……でも、こう言われたと思おう。『大事な宝物は、無くしたり盗まれたりしないように、宝箱に入れて鍵をかけておきたいんだ』ってね。


「鍵をいただけないのは承知しました。ただ、私のためにティオナさんが損をすることだけはないようにしていただきたいのです」


「分かった。ティオナとも話しておく」


「ありがとうございます」


「では離れまで送る。疲れただろう、よく休むといい」


じーん。普通に優しい。もう怖くない。もう怖くなーい!


洗濯室を出ると、使用人たちがズラリと並んでいて驚いた。さらに、私を見るなり、一斉に拍手してくれたのだ。


「ありがとう!」


「すごいぞ!」


口々にそんな言葉をかけてくれる。こんな風に皆に暖かく受け入れてもらえるなんて、二日前には考えられなかった。


……いろんなことがあったが、ここへ来てまだたったの三日しか経っていないのだ。


使用人たちの中に、ティオナを見つけると、ウインクしてくれる。好きだ。


そして、縦長の白い帽子をかぶった渋いおじさまが目に入った。え? あれが料理長? 好き。


皆にお辞儀をして裏口を出る。裏庭から空を見上げると、たくさんの星が瞬いていた。


とてもいい日だった。


お読みいただきありがとうございます!

今後、少しずつ登場人物が増えていきます!

引き続き、よろしくお願いします!

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