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麗しの騎士とイケメン執事

詰め込みました。

どうぞお読みください。

「はわわわわわ」


やっばい……。

え、これ合法?

こんな光景を合法で見れちゃっていいの?


眩しい、眩し過ぎる。

目がぁ、目がぁぁ……!


騎士服姿のあまりの神々しさに思わず目を細めていると、ヴィデル様が黒い革手袋をはめながら言った。


「おかしいか?」


「いいえっ!! 全くっ!! むしろヴィデル様がこの世に生まれ落ちたその時から身に纏っていたんじゃないかってくらいものすごく良くお似合いですので何卒ご安心ください」


「ふっ、何だその妙な喋り方は」


わ、笑った……!

キリッとしたナイトが、くしゃっと笑った……!


ヴィデル様が今サンプルを試着している騎士服はセレスティン王国騎士のもので、下は白のパンツと膝下まである黒のブーツ。


ジャケットは紺色を基調として、右肩から腰のベルトにかけてボルドー色のサッシュが掛けられている。

左側の胸元に描かれている王家の紋章や、襟や袖の縁飾りや肩章は金色。ベルトやカフスに取り付けられている装飾品も全て金で統一されている。


首元で留められている外套は表側が白でそこに濃い青で王家の紋章が描かれていて、裏側は身を潜める時のためか真っ黒に染められていた。

そして……手にはピタッとした黒の革手袋をはめていらっしゃるわけです。


好きなんですけど!!

もう全部好きなんですけどぉ!!


……他の格好も、似合うんだろうなぁ。


悪魔とか鬼とかヴァンパイアとかさぁ、とにかく人外の美形の格好なら全部似合うと思うんだよなぁ。


え、どうしたらいい?

どうしたらこの世界でそういう服を手に入れられるの?


オーダーメイドで事細かに指定して……いやでもヴィデル様に何て言えば着てくれるんだ?

……『私も同じの着るから着てください』って言ったら着てくれる気がする。


「では叙任式に間に合うよう至急調整し、完成次第お屋敷へお届けいたします」

「ああ、頼む」


私が脳内会議で忙しくしているうちにヴィデル様は採寸を終えていて、さっさと着替え始めてしまった。


王家の紋章入りの騎士服を仕立てることが出来る店は限られていて、私とヴィデル様は王都内にある王家指定の店に来ていた。


騎士服の試着や採寸を終えた後は私の服を作ると約束していて、私たちは店を出てドレスや装飾品を扱う店が集まるエリアに移動しようとした。


……ところが、店を出た私たちはなぜか王都の民に取り囲まれた。


「ヴィデル様! エリサ様!」

「英雄のお二人だわ!」

「この国を守って下さってありがとうございます!!」


ヴィデル様はにこやかな顔を貼り付けながら私の背中に手を当て、無言のまま馬車へと向かった。


「これ、どういうことですかね? 昨日陛下も言っていたんです。『英雄』って」


「……陛下の戦略だ」


「え? 戦略って何の?」


「今回の一連の件で、王家に対する国民感情が一気に悪化しただろう? レナール陛下が自ら先王の罪を暴いたとはいえ、陛下自身も元より王家の人間。だから陛下も罪人と同類ではないかと疑う国民も多くいる」


まあ、疑ってしまう気持ちも分かる。


「そこで陛下は国民感情の改善のためにいくつか策を打った。代々の王が名乗ってきた『マティアス』の名を襲名しないことや、罪人に関する情報を積極的に開示すること。そして俺たちを英雄に仕立てたのも策の一つだ」


「……仕立てた?」


「リュミル元宰相の裁判の際、俺たちは王家の策略により敵国から苛烈な攻撃を受けたが、手を尽くして領及び国を守った人間だと、そういう印象を国民に与えた」


「まあ、事実そうですしね」


ヴィデル様とカサル様を始めとして、アトラントとストレインの兵たちが頑張ったからこの国は守られたわけで。


「そこで陛下は俺と兄上に騎士の称号を与えることとし、平民の中に手の者を潜らせて先の戦を俺たちの英雄譚として流布させたんだ」


「なぜです?」


「罪人を多く抱えていた王家。即位した王子も疑わしい。そんな中、国を守った英雄が王家に組み込まれればどうなる?」


「……なるほど」


「人は自分が好む者を重用されることを好む。つまり自然と王家にも良い感情を持つはずだというわけだ」


騎士爵の授与は、単純に戦の功績ってわけじゃないのか……。


「お前も、英雄の内に含まれているみたいだな」


馬車の窓越しに外を見れば、こちらに向かって手を振る人々が目に入る。私とヴィデル様の名前を呼ぶ声も聞こえる。


無視するのも気が引けて、でもどうしたらいいのか分からずヴィデル様を見ると、私の脳内を読んだかのように言った。


「気になるなら振り返してやればいい」


ぎこちなく手を振り返すと、それを見た人々が笑顔になった。

私たちに向けられている感情が陛下によって仕立てられたものだとしても、そんな笑顔を見てはますます無視できない。


こうして時々手を振り返しながら窓の外を眺めていると、すごく気になるお店を見つけた。


くすんだ水色と焦茶で統一された外観と、バランス良く飾られた緑。

ショーウィンドウに飾られているドレスもシンプルで上品で好み。


「ヴィデル様、ここ入りたいです!」


馬車を停めて店内に入ると、ハーブっぽい良い香りがした。

キョロキョロする私を他所に、ヴィデル様はさっさと店員と話し始め、私たちは店の二階へ案内された。


そしてヴィデル様が「ありったけの生地とデザイン画を見せてくれ」とか言っているのを耳にしつつ、なぜか私はふわふわしたお姉さん店員に別室に連れて行かれた。


そこで身ぐるみを剥がされ徹底的に採寸されながら、店員さんが話し始めた。


「お二人は新婚でしょう? 下着はもう揃えられましたか?」

「え? い、いやぁ、間に合ってます……」


すると突然鋭い視線を向けられる。


「エリサ様としては間に合っていても、旦那様はそうじゃないかもしれませんよ?」

「うっ」


「固いビスチェじゃ抱き心地が悪いでしょう?」

「だ、だきごこち……」


「二人きりの時は柔らかい下着で女らしさをアピールしないと」

「はぁ……」


そして目の前に並べられたのは、前世で言うカップ付きキャミソールみたいな形で透け感のあるレースの下着。


「旦那様のお好きな色は?」

「たぶん紺とか紫ですけど……」


すると紺色のと紫色のを交互に私に当てがって、店員さんは満面の笑みで言った。


「良くお似合いです。ではこちらの二色をお包みしますね。上下セットで」


……ふわふわとそう言われて、なぜか断れなかった。


最近ヴィデル様に下着姿を見られる機会があったせいで、今の色気ゼロの下着でいいんだろうかという気持ちもどこかにあって……。


採寸を終えてまたドレスを着ると、恥ずかしいような後ろめたいような、なんとも言えない気持ちでヴィデル様の元へと向かった。


すると店主ぽい渋オジ店員が「失礼します」と言って、いくつもの生地を私の首元にあてがい始めた。


されるがままになりながら、近くのテーブルを見ると大量の生地とデザイン画が広げられていた。

見えた限りだと、デザイン画はどれも好みの感じで、生地はシンプルで上質そうなものばかりだ。


ヴィデル様と渋オジがあーだこーだ話しているのをぼーっと眺めていると、いつの間にか作る服が決まっていた。


「では完成次第、お屋敷にお届けいたします」


こうして私たちは店を後にした。


……この時は気付いていなかったけど、ヴィデル様がいつの間にか買っていた小物と、ふわふわのお姉さん店員が包んでくれた下着は、同じ箱に入れられていた。


  *


その後も何件かお店を回り食事をしてお屋敷に帰ると、ちょうど騎士服を携えた仕立て屋が訪ねてきた。


騎士爵の授与式まで日がないため、既製品で一番サイズが合う物を調整したとはいえ、かなり早い。


「お忙しい中お手間を取らせてしまい恐縮ですが、一度お召しになって確認いただけますか?」

「ああ」


ヴィデル様は騎士服を持って二階へと上がっていった。


……そして数分後。


仕立て屋と私の待つ応接室に、昼間見た麗しいナイトがやってきた。


「大丈夫そうだ。仕事が早いな」

「ご満足いただけて何よりです」


にこにことそう言って仕立て屋が帰ると、ヴィデル様が私に言った。


「お前に着せたいモノがある」

「何ですか? 今日買って下さったやつですか?」


ヴィデル様はそれには返事をせず、無言のまま二階へと上がる。

そして部屋に着くなり、騎士服の外套とジャケットを脱ぎ始めた。


ジャケットの中は黒シャツに黒ネクタイで、白パンツと黒ブーツと黒手袋も相まって、漫画に出てくる執事のよう。

……これはこれで良い。すごく。


すると、イケメン執事が脱いだばかりの外套とジャケットを持って私の前に立った。


「……まさか着せたい物って、これですかぁ!? 何で!? 私じゃサイズが……ちょっ、とぉ」


流れるようにドレスを脱がされて、あまりのスムーズさに碌な抵抗もせず受け入れてしまった自分に呆れる。


ヴィデル様は私の下着姿は見ないようにしながら、器用にジャケットと外套を着せていった。


ジャケットも外套もすごく重たくてぶかぶかで、手は指先まで隠れているし、外套の裾はかなり床についてしまっている。


ヴィデル様はそんな私をまじまじと見て、深いため息をついた。


「……死ぬほど可愛い」


ヴィデル様は苦しげに吐き出すようにそう言うと、私をひょいと肩に抱えて、すぐそばにあった仕事用の机の上に降ろした。

そして机の前に跪き、机の端に座っている私の左足をその手に取った。


……これから一体何をされるのか、見当もつかない。

けど、大事なジャケットや外套にシワが付いてしまいそうで気が気じゃない。


ひとまず外套を外そうと首元の留め具を外していると、ヴィデル様は手に持つ私の足先に口を付けた。


そして足先から足首、脛、膝へと唇がゆっくり移動して、さらに太腿へと向かおうとするのを見て慌てて金色の頭を両手で挟んだ。


「それ以上はダメですっ!」


するとヴィデル様は顔を上げずに上目遣いの視線だけ寄越して言った。


「……嫌?」


えっ、何その聞き方……。


視線は鋭いのに声は甘くて、それが妙に色っぽい。


そして、目と耳に焼き付いた色気が私の思考をみるみる鈍らせていった。


……私、嫌なのかな?

何で嫌なんだっけ? ……あれ?

恥ずかしいだけで、別に嫌じゃない、のか……?


「……嫌っていうか、このままじゃ大事な服にシワが付いちゃうし……」


自分でもよく分からなくなって、遠回しな言い方を選んでしまった。


「お前が脱ぎたいなら脱げばいい」

「……脱ぎたいけど、この中下着ですし」


「なら、俺の目を隠せ」

「へっ!?」


何がどうなってそうなったの!?


ヴィデル様はシュルシュルと自分のネクタイを外して私に手渡してきた。


「えっ、私がやるんですか!?」

「早く」


えっ、えっ!?


ちょっと待って何これ……。

イケメン執事が足元に跪いて目を瞑って私に目隠しされるの待ってるんだけど。


こんなの不可抗力。抗えない。

手が、勝手に動く。


新しい扉が開きそう……。

こんにちは、美形に目隠しする世界。


「……できました」

「これで見えないから、安心して脱げ」


『安心して脱げ』とかいう普段なら恐ろしいはずの言葉も、目隠し執事に興奮している今はすんなり耳から入ってきて、脳を介さず直接両手に伝えられた。


「……脱ぎました」


するとピタリと閉じていた膝を掴まれするりと広げられて、隙間に綺麗な顔が割り入ってきた。


「ちょっ、えええっ!? 無理無理無理!! やっ……」


眼下に広がる絵面だけでも相当やばいのに、さらに内腿に舌が這い始めて一気に頭に血が上る。


……こんなの無理。この人を止めないと。


頭ではそう思っているつもりなのに、生温かい濡れた質感も、優しく肌を吸われる感触も、嫌じゃない。


嫌じゃないということが、すごく恥ずかしい。


「ヴィデル様、止めて?」


その声は自分で聞いても全然嫌そうじゃない。

むしろ、もっとしてと強請るように甘い。


だから、ヴィデル様も止まる気配がない。


「お願いだから……止めて」


私が声を震わせると、ヴィデル様は立ち上がり目隠しを外してしまった。

私の本心すら見透かしてしまいそうな強い視線に、思わず目を逸らす。


「嫌じゃ、ないんです……。こんなことされて嫌じゃないってことが、恥ずかしいんです……」


下を向いてポツリポツリと本音を溢した私を、ヴィデル様はそっと机の上に押し倒した。


「その顔も、声も……きっとまた頭から離れなくなるんだ」


綺麗に片付けられた机の、端に寄せて置かれた書類がパラパラと落ちていくのが視界に入る。


「俺の頭はもうとっくに、お前でいっぱいなのに」


そう言って私を見下ろすヴィデル様の声も視線も、どろどろに甘い。


「エリサ」

「……はい」


「俺は今まで、お前が嫌がることや泣くことはしたくないと、そう思っていたな?」

「えっと……た、たぶん……」


「なのに今の俺は、お前の嫌がる姿も泣く顔も、見たくて堪らない」


黒い指が、私の頬を撫でた。


「覚悟しておけ」

「何を、ですか?」


私の問いに、ヴィデル様は妖艶な笑みを浮かべて答えた。


「死ぬほど俺に愛されることを」


その言葉はただただ私を喜ばせて、だからなぜ覚悟なんて要るのか、この時は分からなかった。


いいイチャイチャだったね、と思ってくださった方、ぜひ「いいね」お願いいたします!

そうは思わなかった方、次回はお仕事編になりますのでそちらにご期待ください!

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― 新着の感想 ―
[一言] 私は、ヴィデル様の、黒の革手袋に、なりたい! 夜中のテンション万歳!! やべえ、素肌に騎士服の上着だけ!いい! ドンピシャ!ブレないなヴィデル様! このままムーン一直線かと思たよ(@O@)…
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