戴冠式と叙任式 〜後編〜
お待たせしました。
イチャイチャが過激になりすぎてしまい、大幅に修正し時間が掛かってしまいました。。
泣く泣くカットした部分は気に入っているのでどこかで使おうと思います。
ヴィデル様に手を引かれて会場へと戻りながら、ふと思う。
そういえば、兄や元婚約者のシアンの家は会場に来ているのだろうか?
今日ここに来るまではけっこう気になっていたのに、なんかもういろんなことがあって、すっかり頭から抜け落ちていた。
……もちろん、どっちにも会いたくない。
たぶん、一生会いたいと思うことはないだろう。
会場へと繋がっている廊下まで来ると人が増え始めたから、見覚えのある姿が見つからないことを祈りながらきょろきょろと辺りを見回していると、ヴィデル様が言った。
「……ストラード家とマックレル家なら式だけ参列して帰った。恐らくパーティーには呼ばれていないはずだ」
「あ、そうなんですね」
その答えにホッとしていると、ヴィデル様が歩きながら私を見た。
「お前、マックレル家の長男とは……」
「え? シアンですか?」
「……」
「ヴィデル様?」
「……何でもない」
何だろう?
気になったけど、ちょうどその時会場に着いて、レナール陛下とイデア王妃殿下が王族席にいらっしゃるのが目に入った。
すると間も無く、陛下の近くに控えていた従者が私たちを呼びに来た。ガチガチに緊張しながら挨拶の言葉を頭の中で繰り返し、王族席のある中二階へと向かう。
陛下は青みがかったグレーの髪に青い瞳の爽やかなイケメンで、王妃殿下はプラチナブロンドの髪に碧眼の超美人。しかもスタイルもいい。
「レナール国王陛下、イデア王妃殿下。ご紹介が遅くなりました。妻のエリサです」
「お初にお目にかかります。この度はご戴冠おめでとうございます。謹んでお祝い申し上げます」
無難な挨拶を終えて頭を上げると、陛下が厳しい表情をしていた。
挨拶かお辞儀か歩き方か……。
何か粗相があったかと心配になっていると、陛下は予想外の言葉を発した。
「クラルティ伯爵夫人には、まずお詫びしなければならない。これまでセレスティン王家が貴方に対して行った暴挙について、大変申し訳なく思っている。あのようなことは二度と起こさない。そう、約束する」
……国王陛下からの、謝罪の言葉。
私に酷いことをしたのは、別な人たちだ。
『過去の』王家の人たち。
なのにこの方は王家の代表として自分のことのように謝ってくれた。そして、二度と起こさないと約束してくれた。
自分は無関係だったと切り捨てて知らん顔することだって出来たのに。
「……過分なお言葉を頂戴し、ありがとうございます」
「それから此度の戦での功績に加え、魔道通信省の元で魔道研究を行ってくれること、心から礼を言う」
「……陛下にそのように言っていただけるなんて、滅相もないです」
さっきからなんとか会話のラリーを続けているけど、私の返し方これで大丈夫?
失礼な感じになってない??
不安すぎて隣のヴィデル様をチラリと見ると、目だけで笑ってこっちを見ていた。
「……それにしても、あんなに女性を毛嫌いしていたヴィデルが結婚し、さらに夫人のために大臣になるとはな。昔のヴィデルに言っても絶対に信じるまい」
「陛下、その話は……」
ヴィデル様が止めようとするのが聞こえなかったかのように、陛下は続けた。
「私が王として立つ時にはそなたに側で支えてほしいと言ったのを覚えているか?」
「……はい」
「それに対してそなたが何と返事したかも、覚えているか?」
「……いえ」
気まずそうに床に視線を落とすヴィデル様と、綺麗な青い目を悪戯っぽく輝かせる陛下。
「あの時ヴィデルは『殿下には脚が二本ありますので私の支えなど不要でしょう』と言ったんだ……くくく」
「陛下!」
耐えきれないというように笑い出した陛下に、ヴィデル様がムッとしたような声を上げた。
仲の良さが伝わってくる。
こんな風にやり込められているヴィデル様を見るのは初めてで、新鮮。
「分かった分かった、この話は終わりだ」
……あ、思い出した!
陛下と話す機会があったら言おうと思っていたことがあったんだった!
「あの、陛下。発言をお許しいただけますか?」
「勿論だ」
「私と魔道研究所との契約破棄に際して、陛下にご助力いただいたと聞きました。ありがとうございました」
感謝の気持ちを込めて、丁寧にお辞儀をした。
「そうか、あれはそなたのことだったな」
陛下は私のことをまじまじと見て言った。
「クラルティ伯爵夫人は、類い稀な魔道具師としての才能を持つ上、可憐で篤実な女性なのだな。ヴィデルが夢中になるのも頷ける」
真顔でサラサラとそう宣い、隣に座る王妃殿下に「なあ、イデア?」と聞く陛下。
軽やかに社交辞令を吐かれ、麗しい青い瞳と碧の瞳に同時に見つめられて、みるみる赤くなる自分が情けない。恥ずかしい……。
しかも、美を具現化したような王妃殿下がにっこり笑って「ええ、本当に可愛らしい方だわ」とか言うから本気で居た堪れない。
大理石の床を見ながらここに穴を掘って入るにはどうしたらいいかと考えていると、王妃殿下がさも名案というように言った。
「お二人の結婚披露宴はこれから開く予定だと耳にしたのだけれど、城内のホールを使っていただくのはどうかしら?」
えっ!? お城で!?
いやいやいやいや、それはない!
「そうだな。王家に連なる二人の『英雄』の披露宴ともなれば、城で開き盛大に祝うのがいいだろう」
……『英雄』? 今陛下、英雄って言った?
どういうこと??
いろいろ意味が分からなすぎてパニックになっていると、ヴィデル様があっさりと「ご厚意に感謝致します」と受け入れた。
嘘でしょ……。
お城で披露宴だなんて、もう考えただけで無理……。
この時、私の頭の中はお城での披露宴のことでいっぱいになってしまって、陛下が『英雄』と言った意味については深く考えなかった。
*
なんとかパーティーを乗り切ってお屋敷に帰り、さっさと着替えようと自室へ向かおうとすると夫に手を掴まれた。
「え?」
……あ、一つ俺の言う事を聞け、ってやつかな?
そう思い至って、手を引かれるままヴィデル様の部屋に入る。
そして、ヴィデル様は部屋のドアを閉めるなり私の目を見て言った。
「妖精を独り占めしたい」
その破壊力に、息が止まる。
「城で……皆お前のことを見ていた」
「……はい? 皆が見ていたのはヴィデル様ですよ?」
「兄上も陛下も他の奴らも皆お前のことを褒めていた」
「社交辞令、お世辞です」
「お前が一番綺麗だった」
「そっ、それはヴィデル様の目がおかし……ぐっ」
反論を続けていると顎をがっと掴まれ「煩い」と言われた。
そのまま怒った顔が近づいてきて、息がかかるほどの近さになる。
ヴィデル様の視線は私の目から口元へと移動して、もう一度「煩い」と言いながら唇が落とされた。
顎を掴んだままの手の力とは裏腹に、触れ合う唇は本当に優しい。
「……寝る支度をしてこい」
唇が離れてそう言われて、素直に従おうと思うのになぜか顎が掴まれたままで。
不思議に思ってヴィデル様を見ていると、言葉とも息ともつかない何かを溢し、私を抱きしめた。
「あの……?」
「俺が脱がせる」
「えっ!? いや、それは……」
「言う事聞くって言っただろう?」
「え? 一つ聞いたでしょう?」
独り占めしたい、ってやつじゃないの?
「俺はまだそれが何か言ってない」
「……確かに言われてないです」
「お前は風呂以外ならいいと、そう言ったな?」
「……はい、言いました」
ヴィデル様は腕を解いて、私の顔を覗き込んだ。
「脱がせたい」
心臓が跳ね上がった。
慌てて目を逸らしたのに、逸らした先に回り込まれてまた目を合わされ追撃される。
「エリサ?」
……もぉ〜、ずるい!!
こんなんされたら無理!!
「……分かった、分かったけど、ドレスを脱いだらすっごく変な格好になるから見ないでくださいね?」
おねだりに完敗した私に出来るのは、ささやかな交渉くらい。
「下着姿ならこの前見たが、綺麗だった」
「ほ、褒めてもダメなものはダメなの!」
「分かった」
そう言ったヴィデル様はなぜかクローゼットに向かい、一枚のシャツを手にして戻ってきた。
そしてまた私の前に立つと、背中に手を伸ばしてボタンを外し、チャックを丁寧に下ろしていく。
肩からするりと袖が外されると、ドレスはふぁさっと音を立てて床に落ちた。
今日のドレスはスカートが広がらないタイプだったから、スカートの形を整えるものは身につけておらず、私はビスチェとスリップだけの格好になる。
するとすぐさまシャツを羽織らされた。
……脱がせるの上手すぎない?
ボタン外すのもチャック下ろすのも、流れるように全部スムーズだったよね?
しかも私の前に立ったまま、背中側を見る事なくやり遂げたよね?
シャツのボタンを下から順に留め始めた男らしい手を眺めながら、疑問を口にした。
「なんでそんなに……脱がせるのが上手、なんですか……?」
すると、ヴィデル様は手を止めずに言った。
「お前のことばかり見ていたからな」
そしてシャツのボタンを一番上まで留め終えると、甘く微笑んで言った。
「可愛い」
「ちょっ、とぉ……」
このままじゃ脳みそ溶かされて殺される。
そう思ってじりじりと後ずさる私に、甘い誘いの声が届く。
「おいで」
その初めて聞く優しい言い方にキュンとしてしまって、広げられた腕の中に収まる以外の選択肢なんて見つからなかった。
「明日、騎士服を作りに行く。お前の服も作ろう」
ヴィデル様の騎士服姿という夢のような光景を想像した私は、二つ返事で承諾したのだった。
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次回はデート回、
『英雄』と言った陛下の思惑が明らかになったりします。
引き続きよろしくお願いします!!




