俺のわがまま
お待たせしました!!
やっと、やっと完成しました。
読みにきてくださって、ありがとうございます!
翌朝目を覚ますと既にヴィデル様の姿は無く、『数日留守にする』という書き置きが残されていた。
……こんなこと、初めてだ。
数日ってどれくらいなんだろう。
昨夜、仕事が残っているヴィデル様に遠慮してしまって聞きたいことが聞けなかった。
朝になったら聞こうと思ってたのに……。
どうしてヴィデル様は魔道省大臣になろうとしているのか。
なぜ私を魔道研究所の所長に指名しようと思ったのか。
私は所長になんて向いていない。
数十人規模の組織のトップなんて私に務まるとは思えない。
それは、私の働きぶりを見てきたヴィデル様もよく分かっているはずなのに。
『お前が変わる必要なんて無い』って言っていたのに、なんで所長に指名するって言ったの?
所長になったら王都の研究所務めになるだろう。
そうしたら、アトラント領のお屋敷の皆や料理長の美味しいご飯と離れることになる。
……それに、城内にある大臣用の執務室で働くヴィデル様とは離れて仕事をすることになる。
……寂しい。
……嫌だ。
変わりたくない。
今までの生活に戻りたい。
今すぐにこの想いを伝えたいのに、疑問に答えてほしいのに、その相手はいない。
――毎日毎日、悶々としながら待つこと七日。
ヴィデル様が漸く帰ってきた。
そしてその日はこないだの裁判からちょうど十日後、特別裁判の開廷の日だった。
*
特別裁判の開廷前日にセレスティン王国中に貼り出された文書には、次のことが書かれていた。
『以下の事案について貴族議員による投票を行い判決を下すべく、特別裁判を開くものとする。
一、国王陛下マティアス四世は有罪か否か
ニ、国王陛下マティアス四世を死刑とすべきか否か
三、以下の諸大臣は有罪か否か
外交省オードラン大臣
産業省ドゥメール大臣
国土省デュエム大臣
防衛省グラック大臣
魔道省バルテー大臣
本裁判は国王陛下の代理としてレナール王太子殿下に承認され執り行うものである。
また、国王陛下が有罪判決となった場合、先の裁判にて判決が保留されていたリュミル宰相の有罪判決、及び死刑が確定する』
国王陛下を含む王家の人間が同時に六人も裁かれる裁判など過去に例が無く、さらに判決次第では国王陛下と現宰相の死刑までもが確定するかもしれない。
その衝撃的なニュースに当然セレスティン王国中が大騒ぎになり、特別裁判の開廷前から傍聴を希望する国民が王城へと詰めかけ、王城の周辺まで人で溢れた。
裁判当日の朝に何食わぬ様子で帰宅したヴィデル様と話をする暇もないまま、私たちも裁判所へ赴いた。
けれどあまりの人の多さに王城に近づくことすら難しく、貴族議員の一人であり投票権のあるルヴァ様以外は裁判所に入ることは諦めるしかなかった。
騎士に付き添われて人混みの中へ消えていったルヴァ様と、用があるというヴィデル様を残し、カサル様とリュカさんと私の三人はお屋敷へと戻った。
――そして、開廷から八時間後。
もう日が暮れようという頃、ルヴァ様がお屋敷へ帰ってきた。
カサル様とリュカさんと私を集め、ルヴァ様はこう告げた。
「……特別裁判の投開票の結果、被疑者六名全員の有罪判決と国王陛下の死刑判決が下った。つまり、リュミル宰相の死刑も確定した」
そう聞いた直後、慌てた様子の使用人がやってきて、王城からの使者が来ていると言った。
その場にいた皆で使者が待つ玄関ホールへと移動すると、騎士姿の使者はこう言った。
「国政に空白期間を作ってはならないとのレナール殿下のご意志により、レナール殿下の即位および新たな大臣の議決のため貴族議会が緊急召集されました。アトラント辺境伯には至急参内いただきたく、ご足労いただけますでしょうか?」
「もちろんだ。すぐに向かうとしよう」
ルヴァ様は脱いだばかりの式服のジャケットを羽織り、使者に連れられて王城へと出掛けていった。
――その日、ルヴァ様とヴィデル様が揃って帰宅したのは夜の十一時を過ぎた頃だった。
使用人から二人の帰宅の知らせを聞いて、急いで玄関ホールへと向かう。
私と同じようにホールへと降りてきたカサル様とリュカさんと一緒に待っていると、間も無くルヴァ様とヴィデル様が到着し、私たちを見るなり執務室へ集まるように言った。
そして執務室に着いてすぐ、ルヴァ様が口を開いた。
「貴族議会による、レナール王太子殿下の即位および大臣任命についての議決の結果、レナール王太子殿下の即位が可決され、ヴィデルが魔道省改め魔道通信省の大臣に任命された」
……私の想いを伝えることも、疑問への答えをもらうことも出来ないまま、ヴィデル様は本当に大臣になってしまった。
しかも魔道通信省って何……?
魔道も通信も両方担当するってことなら、ヴィデル様めちゃくちゃ忙しくなるじゃん。
カサル様とリュカさんがヴィデル様に向かってお祝いの言葉を口にしているのが聞こえたから、慌てて私も「おめでとうございます」と言った。
けれど、口から出た自分の声は小さくて、全然感情がこもっていなくて、でもどうしようもなかった。
ルヴァ様は続けた。
「また、セレスティン王国軍について、王都軍を第一王国軍、アトラント領軍を第二王国軍、ストレイン領軍を第三王国軍と称することとなった。軍全体が最高司令官であるレナール国王陛下の直轄となり、カサルが第二王国軍の司令官に任命された」
カサル様が怪訝な顔で「司令官、ですか? 防衛省はどうなるのです?」と聞いた。
「組織としては残る。が、防衛省が王国軍に直接指示することは出来なくなる。また此度の戦の経験から、現場同士での調整や現場判断を従来以上に許可することとなった」
ルヴァ様がそう答えると、ヴィデル様が口を挟んだ。
「つまり兄上は、レナール陛下に次ぐ軍指揮権を持つ三人の司令官のうちの一人になったということですね」
「ああ。先の戦でのストレイン領との巧みな連携や卓抜した指揮力が評価された結果だ」
ルヴァ様は「それから」と言いながら、くるくると丸められている上質な紙の文書を広げた。
「先の戦についてレナール陛下から文書を預かっている。
『此度の戦に係るアトラント領の功績に対し、クラルティ伯爵およびカサル・アトラント卿の二名に騎士爵を授与する。また基地等の被害への報償として王都内の土地を与える』
とのことだ」
大臣になっただけじゃなくて、騎士の称号まで……。
ルヴァ様の話を聞けば聞くほど、ヴィデル様の存在が遠く感じられる。
文書を元のように丸めながら、ルヴァ様は続けた。
「レナール国王陛下の戴冠式、並びに大臣と軍司令官の叙任式は二日後に執り行われる。だが式を待たず明日参内するようにとのことだ。また、騎士爵の授与式については日取りが決まり次第通達が出されるそうだ」
先ほどからずっと硬い表情と口調で話していたルヴァ様がやっと表情を緩め、笑みを浮かべた。
「ヴィデル、カサル。お前たち二人のことを、私は心から誇りに思う」
ヴィデル様とカサル様が揃って頭を下げると、ルヴァ様はヴィデル様に向かって言った。
「大臣に任命されるには、国王陛下の推薦を得た上で貴族議員の三分のニ、数にして三十以上の賛成票を集める必要があった。
議員との伝手を持たないヴィデルにとってかなり不利な状況だったにも関わらず、わずか十日のうちに賛成票を集め終えたとは……。正直、驚いた」
ヴィデル様はいつもの表情で、なんてことないように言った。
「端的に言えばエリサのおかげです」
……え? どういうこと?
不思議そうな顔をしている私を見て、ヴィデル様が説明を始めた。
「票を集められたのは遠距離通信用魔道具のおかげだ。領地が王都から離れている領主にとって、遠距離通信用魔道具の設置は出来るだけ早く進めたく、他に遅れを取りたくないはずだろう?」
「それは……そうだと思います」
「アトラント領には開発済みの遠距離通信用魔道具があり、各地への設置を進めたい。だがそれはあくまで我が領としての事業であり『国としての事業』ではないため各省や設置場所の領主との調整に相当な時間が掛かることが予想される」
「つまり……?」
「このままでは設置場所をかなり絞り込む他無いから『その際は』協力してほしい、と言って回ったんだ。 ……簡単に言えば、遠距離通信用魔道具を早く自領に設置したければ俺に協力しろということだ」
ルヴァ様が「なるほど」と言って何かを納得した様子で話し始めた。
「ヴィデルが大臣となり遠距離通信用魔道具の設置が『国としての事業』になれば、自領への設置も早く進むはずだと勝手に期待した議員が賛成票を入れたわけか」
ヴィデル様は「はい」と返事をした。
ずっと立ったまま式服のままで話していたルヴァ様は漸く上着を脱ぎ、椅子にゆったりと腰掛けて言った。
「それにしても……ヴィデルが爵位を求めたのが、大臣になるためだったとはな」
「……え?」
思わず声を上げた私をルヴァ様は優しい顔で見て言った。
「国王陛下による大臣の推薦にあたり満たすべき前提条件として、領地を保有する爵位保持者であること、それが五年以内に新設された爵位ではないことなどがある。ヴィデルはクラルティ伯爵位を継いだことでその条件を満たしたんだ」
……そういう、ことだったんだ。
クラルティ伯爵位を求めたあの時既に、ヴィデル様は大臣になることまで考えていたんだ……。
「今日はもう遅い、細かな話はまた明日することにしよう」
ルヴァ様がそう言って、その場はお開きになった。
ルヴァ様の執務室を出るなり、ヴィデル様はリュカさんに話があるといい、二人はリュカさんが過ごしている客間へと消えて行った。
きっと、大事な話なんだろう。
それくらい分かる。
でも、私だって話したいのに……。
この七日間、ずっと待ってたのに……!
胸の中を渦巻くのは、苛立ち、怒り、嫉妬、そして寂しさ。
……こんな気持ちのまま、ヴィデル様に会いたくない。
だからヴィデル様の部屋で待つことはせず自室へ入り鍵を掛けた。
ドレスも、ペチコートやらビスチェやらも脱ぎ捨て、スリップと下着だけになってベッドに飛び込み布団を被る。
今日はこのまま寝てしまいたい。
何も、考えたくない。
必死に目を瞑ってじっとしていると少しずつ微睡んできて、でも眠ることは出来ないまま一時間ほどが過ぎた。
「エリサ……起きているか?」
ドアの向こうからそう聞かれ、返事をしないでいると「ガタ」とドアが鳴った。
そして足音が離れて行ったからホッとしていると、少しして早足の足音が近づいてきて「ガチャリ」と鍵を開ける音がした。
えっ!? 外から鍵開けれるの!?
こんな格好じゃ出るに出れず布団の中でじっとしていると、「エリサ」と呼ばれた。
その声はいつもより小さくて、どこか不安気で、さっきまでの苛立ちや怒りがみるみる消えていく。
「布団から、出てきてくれ」
「……出ません」
「具合でも悪いのか?」
「違います」
「じゃあどうしたんだ?」
「分からないです、自分でも」
足音が近付いてきて、布団に手が掛けられる。
「取るぞ」
「ダメです」
即座に拒否したにも関わらず布団を剥ぎ取られそうになって、慌てて上体を起こして布団を引っ張り「取らないで!」と抗議する。
けれど布団は私の手からするりと逃れてしまい、スリップ姿を思いっきり見られてしまった。
その瞬間、ヴィデル様は思いっきり顔を背け、耳元を赤らめた。
そして、私のことを見ないようにしながら剥ぎ取ったばかりの布団で私の体をぐるぐる巻きにした。
ヴィデル様は、ジャケット姿のままでベッドの端に腰掛けて言った。
「すまなかった」
私が黙っていると、ヴィデル様がポツリポツリと話し出した。
「お前が乗り気でないのは分かっていた。所長になりたいと思うような性格でないことも、アトラント領の屋敷から離れたくないであろうことも、全部……全部、分かっている」
「……え?」
……分かって、た?
「エリサを所長にするのはエリサのためじゃない。俺のためだ。俺がお前と片時も離れたくなくて、お前を側に置きたいからだ」
私に背中を向けて座っているヴィデル様は下を向いていて、その肩は、少し震えていた。
「それを……お前のためだと言ってお前の逃げ道を無くした」
その声は、聞いていて切なくなるほど切実で。
「全部、俺のわがままなんだ」
……そう、言われた瞬間。
気付けば布団から飛び出してその背中を抱き締めていた。
「ヴィデル様のわがままなんて、嬉しいに決まってるじゃないですか」
そう言って、腕に力を込める。
「私、ヴィデル様の側にいたい。離れたくない。あなたの側に居られるなら所長だって何だってやります。だから、こっちを向いて?」
するとヴィデル様は徐ろにジャケットを脱いで私の肩に掛け、ジャケットごと私を強く抱き締めた。
温かい。ヴィデル様の匂い。
「でも……どうして所長になったらヴィデル様の側にいられるんですか? 研究所で働くことになるでしょう?」
そう聞くと、ヴィデル様はサイドテーブルにいつの間にか置かれていた一枚の書面を取り上げ、私に差し出した。
その王家の紋章入りの書面には、こう書かれていた。
『クラルティ伯爵夫人エリサ・アトラントを魔道研究所の所長に任ずる。
魔道通信省大臣の執務室にて職務を行い、研究所職員は全て所長が任命する。
また、魔道通信省大臣が離任する時、いかなる理由であってもその任期を終えるものとする』
ヴィデル様の執務室で働いて、職員は全て私が決める。
ヴィデル様が大臣を離任する時、私も所長を辞める。
そういうことだ。
文末には、ヴィデル様の署名と大臣印が並んでいた。
ヴィデル様が大臣に任命されたのはついさっきなのに、いつの間に作ったのだろう。
「これって……」
……まさか、これを作るために議決が終わるまで王城で待っていたの?
そうじゃなきゃ……大臣に任命された後じゃなきゃ、大臣印なんて使えないはずだ。
ヴィデル様は再び私の横に座り、こう言った。
「魔道研究所は、一度解体し作り直す」
「え? 解体、ですか?」
「ああ。魔道研究所はエルスト元所長の不祥事や研究員の失踪など問題続きで、採算も合わず解体は避けられない。だから作り直すことにしたんだ」
新しい、魔道研究所……。
「お前がやることはこれまでと何も変わらないし、俺とお前の関係も変わらない。ただ場所が変わるだけだ。職員はお前が選んでいいし、要らなければそれでもいい。全部お前の好きにしていいし、面倒なことは全部俺がやる」
ヴィデル様は、隣に座る私の目を見て淡々と言う。
でも、口調に反してその視線は切実で、まるで何かを懇願するかのようだった。
「それから、陛下が与えてくださる王都内の土地に俺たちの家を建てる。そこへお前と仲の良いメイドも気に入りの使用人も皆連れてくればいい。内装も外装も全部お前の好みに合わせる」
さっきから、ヴィデル様はまるで夢のような話をしている。
この人は、私の願いも、望みも、全部分かっている。
それなのに、何かを恐れるかのように矢継ぎ早に喋り、私に口を挟ませない。
ヴィデル様は「それから……」と言ってそっと私の片手を取った。
「ひとまず王家はキレイになったはずだが、ゼフェリオにエリサの情報が伝わっていると考えるとアトラント領にいるより王城にいるのが安全なはずだ。俺かリュカが必ずお前の側にいるし、通信は全て俺が監視するから何かあればすぐ気付ける」
「……もしかして、私を所長にするのは王城で過ごせるようにするためですか……?」
「ああ」
「……通信を監視できるように、省の名前まで変えたんですか……?」
「ああ。これからの通信は魔道が主体になるからとか適当に理由を付けて殿……陛下を説得した」
「……リュカさんを、私の護衛にしたんですか……?」
「いや、リュカは俺の補佐官にした。あいつは剣の腕だけでなく管理面でも優秀だから、エリサの護衛のためだけに選んだわけではないが……。兄上に取られる前に説得できてよかった」
だから、さっきリュカさんと話をしてたんだ。
自分が不在の時にも私を守れるよう、信頼できる人を側に置くために……。
何でも勝手に決めちゃうくせに、それは全部私のためで、全部私が喜ぶことで、それなのにそれを自分のわがままだと言う。
……こんな愛され方、私は知らない。
遠慮も、お礼も、謝罪も、する隙が一切ない。
全部ヴィデル様のわがままだと言うなら、私はただ喜んで受け取るしかない。
「俺は今後、主に王都で暮らすことになり王城内の執務室で過ごす時間が増えるだろう。お前が所長になれば、お前も俺の執務室で仕事ができる。直属の部下になるのだから、誰にも文句は言わせない。だからお前は今まで通りに……」
それなのに、ヴィデル様は私に断られるのを恐れているのだ。
だからずっと、不安気な目をしているのだ。
涙が、溢れた。
「泣くほど……嫌なのか?」
「嫌じゃない! 嫌じゃないです。そんな……夢みたいな職場と楽園みたいな家を用意すると言われて、嫌なわけないでしょ!」
突然、堰を切ったように喋り出した私に驚いたヴィデル様は、私の涙を拭こうとした手を宙に浮かせたままピタリと止めた。
「所長なんて務められる自信無いよ? 無いけど、困ったらヴィデル様が助けてくれるんでしょう?」
ヴィデル様は「ああ」と頷く。
「ヴィデル様と離れるのが嫌だったけど、ずっと一緒に居てくれるんでしょう?」
「もちろんだ」と言って私の目元を拭った愛しい人は、次から次へと溢れる涙のせいでその輪郭がボヤけている。
「でもね、一つだけワガママ言わせてください」
「一つでなくていい。いくつでも言え」
……出会った頃は、二つ質問があるって言っても一つに減らされたのに。
今は、いくつでもワガママを言えと甘やかされる。
そのことが、その確かな変化が、より一層私を多幸感で満たしていく。
苦しいほどに愛おしくて、切なくなるほどに愛されているのを感じる。
だから、堂々とワガママを言う。
それをヴィデル様がどう感じるか、今の私は知っているから。
「『魔道研究所』じゃなくて、『魔道研究室』にしてください」
「……そんなことでいいのか?」
「私の中で、魔道研究所っていう組織も、所長と呼ばれる人も、嫌な思い出しかないんです」
目の前の綺麗な顔に片手を当て「それに」と続けると、ヴィデル様は私の手のひらに軽く頬を擦り付けて、視線だけで続きを促した。
「ヴィデル様の執務室で仕事をするなら、研究室の方がぴったりでしょう?」
するとヴィデル様は私の手のひらにそっとキスをして、「そうだな」とだけ言った。
「私はヴィデル様のわがままを聞くし、ヴィデル様も私のワガママを聞いてくれるなら、これでおあいこですね」
そう口にすると、自然と笑みが溢れた。
ヴィデル様は私をぎゅっと抱き締めて、かと思えば息が苦しくなるほど長いキスをして、そしてまた強く抱き締めた。
「お前がいい。お前以外考えられない。エリサと二人がいい、何もかも」
「私も、同じです。ヴィデル様と」
言わなくても、私の気持ちは伝わっているだろうと思う。
でも……私の言葉を聞いたヴィデル様が、こんなにも優しい顔をするから。
だから、何度でも伝えたい。
「ヴィデル様のことが、大好き」
「俺も、同じだ。お前と」
そう言って破顔したヴィデル様があまりにも愛おしくて、思わず抱き締めた。
それだけじゃ足りなくてキスをして、それでもまだ足りなくて、また抱き締める。
その一連の流れが、さっきヴィデル様にされたのと全く同じだとハッとする。
愛情の表現の仕方を他に知らないことが、もどかしかった。
……さっきのヴィデル様も、同じ気持ちだったのかもしれない。
より一層腕に力を込めながら、そんな風に思った。
――こうして、ヴィデル様は魔道通信省の大臣となり、私は魔道通信省直属の魔道研究室の室長となった。
一方で、私たちの結婚披露宴は三週間後に迫っていた。
王家の一員となった夫と、王家に連なる組織の長となった自分の結婚披露宴ともなれば、それはそれは盛大に執り行われることになるとは、この時の私はちっとも分かっていなかった。
本編のキリのいいところで、番外編を書こうと思っています。
(ヴィデル様が閻魔大王役ということだけ決定済み)




