人生で二度目の裁判 〜後編〜
シリアス回はあと1、2回くらいの見込みです。
その後、いろんなイベントや甘々回が控えているので更新がんばります!!
※前話のタイトルを改稿しました。変えたのはタイトルだけです!
陛下は大きなため息をつき、こう続けた。
「リュミル宰相は情報を流す『振り』をしただけだ。レナールやアトラント辺境伯が何を手に入れたのかは知らんが『そこに何が書かれていようとも』それはあくまでゼフェリオを翻弄するための罠であり真実ではない。つまり、彼の行動は諜報活動の一環であり内通などではない。
次に情報操作とやらの罪状についてだが、ゼフェリオ軍が我が国の光の通信の符号を解析したという情報が得られたため、『ゼフェリオの方角』からの通信は取り継がないよう私が指示した。皆はそれに従ったまでだ。
そして戦はリュミルが誘発した訳ではなく、時をかけ罠を巡らせゼフェリオを叩く計画の途中でゼフェリオが勝手に暴走しただけだ。
上記の証拠は全て私の執務室の書庫に揃っているはずだ。司法省が暇なのであれば勝手に調べればいい」
一度言葉を切った陛下は、心底忌々しそうにレナール殿下を睨みつける。
「私の跡を継ぎ次代の王となるお前が、自国の宰相を相手取りこんな馬鹿げた裁判を起こすなど……とんだ間抜けに育ったものだ」
しんと静まり返った法廷内で、オスカ大臣が口を開いた。
「陛下、それほど重要な証言が有るのでしたら、なぜそれを判決の前に仰らなかったのですか?」
陛下の顔はますます険しくなり、ついに口調にも怒気を孕み出した。
「我が国の諜報活動並びに他国侵攻の戦略だぞ!? ベラベラと民の前で喋ることではない!」
「ではいつ仰るつもりだったのです?」
「裁判の後で司法省に申し入れ、後日再審すれば良かったのだ」
陛下はそう言いながら、皆を見下ろす位置にある王族専用席から立ち上がり、ゆっくり下へと降りてきた。
そしてレナール殿下の前に立ち、圧倒的な威厳を感じさせる口調で言い放った。
「見損なったぞレナール。今回の件を受け、後継を鍛え直す……いや、考え直す必要すらありそうだ」
王位継承順位の入れ替えを仄めかす発言に、法廷内は凍りついた。
そしてあちこちで憶測が飛び交い始める。
「レナール殿下と第二王子の王位継承順位を入れ替えるということか?」とか「まだ可能性の話だろう?」といった声がそこら中から聞こえてきた。
陛下の発言は、本当のことなの?
それとも、陛下がこの件を揉み消すためについた嘘なの?
私たち、大丈夫なのかな……?
レナール殿下も……。
予想外すぎる展開に不安になり、隣のヴィデル様を見る。
横顔も綺麗なその人は、前を向いたまま小声で「心配するな、想定内だ」と言った。
「でも……」
先日のルヴァ様とカサル様の会話が思い起こされる。
『もし陛下がこの件に関与していたら、リュミル宰相に責任を押し付けるか、この件を揉み消すかのどちらかでしょうか……揉み消されるのが一番まずい。リュミル宰相含めこの件に関わった罪人の罪を一切問えなくなってしまう』
リュミル宰相が罪に問われなければ、私はまた誰かに狙われるのかな……。
悪い方へと進み出す思考と増していく不安に、体から血の気が引いていくようだった。
すると突然、ゴツゴツとした大きな手で自分の手が包まれたのを感じた。
いつもは冷たいその手が、今は温かい。
「絶対に大丈夫だ。それに……そろそろ来る頃だ」
今度は私の顔を見て、ヴィデル様はそう言った。
何が来るのかと聞き返そうとしたけれど、ちょうど陛下が話し始めたから口を噤むしかなかった。
「余計なことをして役人の仕事を無駄に増やすな。ただでさえ司法省からは役人が不足しているとオスカ大臣から苦情が入っているのに。……なあ、オスカ大臣?」
陛下がオスカ大臣にそう問いかけたから、皆がオスカ大臣に注目した。
……その時。
慌ただしく法廷内へ飛び込んできた役人が、オスカ大臣のもとへ駆け寄り耳打ちした。
役人が話し終えて頭を下げると、オスカ大臣は興奮した様子で「何ということだ!」と大声を出した。
「何だ、騒々しい」
オスカ大臣は、そう言った陛下にではなくレナール殿下に向かって頭を下げた。
「……申し訳ございません、殿下」
「一体どうしたというんだ?」
頭を下げたままのオスカ大臣が言う。
「殿下より城内の金庫、書庫の『差し押さえの準備』を依頼されておりましたが、手違いがあり既に全ての差し押さえと内容物の接収を終えたとの報告がありました」
勢いよく立ち上がる大臣たち。
そして傍聴席から罵声が飛んだ。
「何だと!?」
「司法省は一体何をしている!」
オスカ大臣はゆっくりと顔を上げて続けた。
「それから……殿下はまず御身の潔白を示すために殿下の私室及び『王族専用の金庫、書庫』の検閲を依頼されておりましたが、こちらが全て完了したようです」
それを聞いた陛下は、抑揚の無い声で呟くように言った。
「……王族専用の金庫、書庫を……検閲しただと……?」
「はい。そして王族専用の書庫から、先ほどの陛下の発言と食い違う文書が発見されたようなのです」
オスカ大臣が淡々とそう言うと、陛下はついに怒鳴った。
「レナールっ!! どういうつもりだ!!」
レナール殿下は何も言わず、目の前で憤怒の形相を見せる陛下を落ち着いた様子で見つめ返している。
そして、オスカ大臣が毅然とした口調で言った。
「司法省は、陛下の証言が事実であるのか厳密に調査せねばなりません」
オスカ大臣は一度言葉を切り、傍聴席をぐるりと見回して続けた。
「また、同書庫からは大臣の買収を謀った旨の書面も見つかったようですので、諸大臣の金庫、書庫の検閲も速やかに実行いたします」
「大臣の買収だと!?」
「誰なんだ!? 今ここで名乗り出ろ!」
法廷内はまたもや大騒ぎとなった。
けれど、オスカ大臣は騒ぎを鎮めようとはせずに話し続けた。
「検閲の結果次第では、司法省から特別裁判を要求することになります。本来であれば、特別裁判は陛下に承認いただくべきものですが、検閲が終わるまでは対象者との対面及び書類のやり取りも禁止されております」
オスカ大臣は「一体どうしたものか」と、呟くにしては大きな声で言った。
それに呼応したのはレナール殿下だった。
「オスカ大臣、私は既に検閲を終えた身だ。陛下の御身の潔白が証明されるまで、私が陛下に代わり承認を行おう」
「承知致しました、殿下」
まるで物語のシナリオのように着々と話を進行する二人に、陛下は体を震わせて怒りを表すだけだった。
……そして。
オスカ大臣は開廷時と同じように厳かな口調で言った。
「これにて、本日は閉廷とする」
法廷内が一段と煩くなる中、レナール殿下はヴィデル様に視線を寄越した。
するとヴィデル様は、殿下に向かってほんの少し頷いてみせた。
……その二人の様子を見て、今日起きたことは全てヴィデル様の計画の内なのかもしれないことに、やっと思い至ったのだった。




