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ヴィデル様の決断

心を無にして自室で身支度を済ませると、メイドが迎えに来た。


そして朝食の前にルヴァ様の執務室に集められたカサル様とヴィデル様と私に、ルヴァ様が言った。


「手紙に書いた通りリュミル宰相が事情聴取を要求している。 ……だが、恐らく聴取だけでは終わらない。リュミル宰相はエリサが魔道兵器を使ったのではないかと探っており、聴取の後に裁判を仕掛けるつもりだ」


……また裁判。魔道兵器。

……もう、何なんだろうな。


もはやリュミル宰相に対する怒りとか王家に対する苛立ちとかそういうピンポイントな感情じゃなくて。


この世の不条理に対する無力感や、それでもそこに属するしかない諦めのようなものが私の胸に広がっていった。


ヴィデル様はどんな気持ちでいるのだろう。

そう思って隣に立つ夫を見て驚いた。


薄らと、笑っていたのだ。


……この笑い方には見覚えがある。


私の父親とアジュリアの町で遭遇した時。

私を貶めた人たちへの死刑求刑を連発した時。

それらの時と、同じだった。


ルヴァ様は続ける。


「だが、裁判を起こされるのを待つつもりはない。裁判要求をされる前にこちらから要求しリュミル宰相の罪を明らかにする」


リュミル宰相の罪?


「彼はゼフェリオと内通し先の戦を引き起こした。さらに防衛省大臣を買収し情報を操作することで、我が領に不利な状況を作り出した。あくまでも我が領が勝つ前提でゼフェリオを動かしたつもりだったようだが、ゼフェリオが裏切り全軍で攻めてきたというのが事の顛末だ」


他国との内通に、大臣の買収!?


そこまでして他国に攻めさせておきながら、アトラント領が勝つ前提……って、さっぱり目的が分からない。


ヴィデル様が口を開く。


「狙いは強兵ですか」

「ああ、恐らくな」


強兵、って軍を強くするってことだよね?


「強兵と、ゼフェリオに攻めさせることがどう関係するんですか?」


私が聞くと、ヴィデル様が答えてくれた。


「ゼフェリオを突き我が領に『ある程度』の損害を与えることで、王家や貴族議会の奴らに強兵の必要性を認知させることが出来ると考えたんだろう。


平和ボケした王家や議会の奴らに軍事増強のための金を出させるには『次攻め込まれたらアトラント領が敗れるかもしれない。そうなれば自分の領地が危ない』と思わせる程度には被害を出す必要がある。


だがゼフェリオの奴らが無邪気に攻めてきたのでは我が領に被害を与えるどころか逆に叩かれて壊滅するのがオチだ。


そのため『ゼフェリオの小隊を掃討せよ』などというくだらない王命を出したり情報を操作したりといった小細工をしたんだろう」


ヴィデル様の説明に、ルヴァ様が頷いた。


「それから魔道研究所から失踪した研究員についてだが、その数は三名。恐らく全員リュミル家の王都内の屋敷に監禁されている」


そっちもリュミル宰相の仕業なの!?


「こちらはまだ確証がない。だからまず内通と買収の件でリュミル宰相に罪を認めさせ、その判決をもって屋敷内の捜索を求める手筈だ」


証拠もなしに宰相家の家宅捜索なんて、司法省でもさすがに無理だもんね。


すると、ヴィデル様から全く抑揚のない声が聞こえてきた。


「大方、魔道研究所の奴らを使って魔道兵器を作らせようとして上手く行かなかったんだろう。そこでゼフェリオに攻め込ませることで、我が領を救うためにエリサが魔道兵器を作れば、エリサを捕らえ働かせる口実が出来て一石二鳥……」


一度言葉を切ったヴィデル様は、罪人に問いただすような口調で「そう、思ったのか……?」と続けた。


私に言われた言葉ではないと分かっていても、思わず背筋が震える。


……これは、怒ってるんじゃない。

たぶん完全にキレてる。

そうじゃなきゃ、こんな声が出てくるはずがない。


「ヴィデル」


ルヴァ様に呼ばれ、一息吐いたヴィデル様はいつもの口調に戻っていた。


「前回は大臣、今回は宰相。どっちも王家の手足に過ぎません。この腐りきった王家の膿を出し切らなければエリサは一生狙われ続けます」


「お前が言うことは分かるが、司法省のオスカ大臣の力を借りて調べ続けてもこれ以上出てこなかったんだ。それにこの件はもしかすると……」


「『その可能性』は認識しています」


そう言ったヴィデル様は執務用の椅子に座っているルヴァ様の前へと歩み寄り、深々と頭を下げた。


「考えがあります。本件を私に任せていただけないでしょうか」


「……任せるのはいいが、本当にやるつもりか?」


「はい。あともう一つ、お願いがあります」


「何だ?」


「私に、クラルティ伯爵位を与えてください」


えっ!?!?


クラルティ伯爵位。

それは、ルヴァ様がお持ちの二番目の爵位。


「ヴィデル、それはつまり……」


ルヴァ様が慌てた様子で立ち上がった。


「将来、お前がアトラント辺境伯爵位を継ぐことを前提に、ということだな?」


「はい。お許しいただけますか?」


……この執務室で、数々の衝撃的な話を聞いた。


けれど、ヴィデル様のこの決断が、他の何より私の心を動揺させたのだった。


お待たせしました!!

ヴィデル様のターンが始まりました!


また、たくさんのブクマや評価ありがとうございます!そして感想がめちゃくちゃ嬉しいです!!

サイコパスなイケメンの良さを世に広めようと執筆活動を始めたので、そのあたり共感いただける方もそうでない方も、ぜひ感想お願いします!!


引き続き、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴィデル様のターン、キターーーーーー! じわじわくるカッコよさ!好き! エリサたんかわいい!大好き! 今ある思いの丈を、全力で叫ばせていただきました。
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