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旅のメンツ

ルヴァ様から届いた手紙には『今回の件について、リュミル宰相が事情を聴取したいと仰っている。カサル、ヴィデル、エリサの三名で王都の別宅へ向かうこと』と書かれていた。


……大変なことになった。


聴取は別にいい。王家からの呼び出しはもう慣れっこだ。

それより、メンツが問題だ。


昨日の今日で、その『三人』で半日も馬車に乗らないといけないなんて!!


アリーシャ様から「出発は早い方がいいわ。準備が出来たら出発なさい」と言われ、仕方なく準備を始めようと部屋に戻った。


すると間も無くしてティオナが大きなトランクケースを持ってやってきた。


「あら? それ、ティオナのカバン?」

「ふふ、違うわよ! もちろんエリサのカバンよ。アリーシャ様が、エリサが遠出する時に備えて必要な物を揃えて下さっていたのよ」

「ええっ!?」


いつの間に!? なんて優しいお義母さまなんだろう。


「アリーシャ様、お優しい方よね。出発の前にお礼を言うといいわ。それから、ドレスや身の回りの物は私が詰めておくけど、魔道具関連で持っていくものはある?」

「あ、あるわ。ありがとう、ティオナ。じゃあ衣類とか日用品はお願いするわね」

「任せて!」


自分で用意するよりティオナに任せた方が忘れ物もないだろう。ありがたい……。


『今回の件の事情聴取』ということは、魔道具無効化の魔道具を持って行く必要があるだろう。けど、カバンには入らないから馬車の荷台に入れてもらおう。


そうして荷物の用意を終え、普段着用のワンピースからお出かけ用のドレスに着替え、アリーシャ様にカバンのお礼を言うと、あっという間に出発の時間になった。


本宅の正面玄関へと向かうと、玄関前の広間にピシッとしたスーツに身を包んだヴィデル様とカサル様が立っていた。


うわー! 二人ともカッコいい!!


ヴィデル様は珍しく明るめの紺色のスーツに、シンプルなシャツを合わせていた。シャツの色は白に見えたけれど、近くでよく見るとほんのり紫がかっている。似合う。


カサル様は光沢のあるチャコールグレーのスーツに真っ白なシャツを着ている。シャツには素敵な飾りボタンが付いていて、それがカサル様らしく感じた。


「お待たせしました」


私がそう言っても二人はその場を動かない。

不思議に思っていると「お待たせして申し訳ありません!」という聞き慣れた声がした。


振り返れば正装したリュカさんが立っていた。


あ……リュカさんもカッコいい。

この方、どことなく中性的な雰囲気があるのは全体的に色素が薄い感じがあるからだろうか。

髪の銀色より少し明るいグレーのジャケットに白いシャツと黒いパンツを合わせている。


ヴィデル様から聞いたことだが、リュカさんはアトラント辺境伯家を代々補佐するローレン子爵家の次男なのだそう。

こういう服装が似合うのも納得だ。


リュカさんが広間に着くと、カサル様がアリーシャ様に向かって「では行って参ります」とお辞儀をしたので、私たちもそれに倣う。


アリーシャ様と使用人たちが見送ってくれる中、カサル様とヴィデル様が先に玄関を出たので、二人の後ろをリュカさんと並んで歩く。

歩きながらヒソヒソ声で「リュカさんは護衛役で呼ばれたのですか?」と聞くと「私も護衛のためかと思ったのですが、ヴィデル様から話し相手にと言われまして」と返ってきた。


話し相手!? 誰の!?


「どういうことか、ご存知ですか?」


と逆に聞かれてしまった。


もしかして、もしかすると。

カサル様と私に会話させないため、だったりする……?


カサル様は割と気さくに周りに話しかけるタイプ。一方ヴィデル様はああいう人なわけだから、自然と私とカサル様が喋る時間が生まれるはずだ。


そこへカサル様と仲の良いリュカさんが車内にいれば、自然と二人が会話するって寸法なのでは??

まあ、私の考えすぎかもしれないけど。


馬車に着くと、カサル様とヴィデル様が向かい合わせに座っていたから迷わずヴィデル様の隣に座った。

私の向かいにリュカさんが座ると、間も無く馬車は出発した。


そして案の定、カサル様とリュカさんは会話を始めた。

ストレイン領の馬の質や兵の動きがアトラント領のそれとどう違うのか、といった話を楽しげにしている。


隣のヴィデル様は窓の外を見ているような考えごとをしているような。

顔が見えないし、分からない。


私はこういう時間はいつも、頭の中で魔道具のアイディアを練ったり回路案を作ったりするのだが、ちょうど考えたいことがあった。


それは、今取り組んでいるドライヤー的魔道具の出力量制御の仕組みを何に応用できるかだ。前世の家電を一つ一つ思い浮かべては、頭の中でマルバツを付けていく。


「ヴィデル様」

「ん?」


この『ん?』って声、久しぶりに聞いたな。

好き。


「魔道具の出力量を、魔石一つ分か二つ分かをスイッチで制御出来る仕組みを考えついたのですが、生活用魔道具以外に使い道はありますか?」

「……魔道武器にも応用できるな。例えば魔石一つ分なら中距離攻撃、二つ分なら遠距離攻撃といったように飛距離を制御出来ればかなり役に立つ」

「なるほど。でも、新しい武器は勝手に作っちゃダメですもんね」

「いや、作る物を予め魔道省大臣に申請して承認を得れば何も問題はない」


私たちの話が聞こえていたらしく、カサル様とリュカさんが興味津々で会話に参加してきた。


けれど武器の話や戦闘の話は私にはさっぱりで、男性三人の議論を黙って眺めていた。


……今のところ、無事にカサル様と話さずに来ている。

リュカさん効果は抜群だ。


ところが、途中で馬を替えがてら食事休憩を取ることになった際、遂にその時が来てしまった。


馬を替える際にトラブルがあり、困った御者がヴィデル様を呼びに来たのだ。

そして、その間に付近に食事が出来る店を探してくると言ってリュカさんが馬車を降りてしまった。


カサル様と、二人になってしまった。

そして、話しかけられた。

……話しかけられてしまった!!


「ゼフェリオとの戦の後、ヴィデルが一度屋敷に帰ってきただろう?」


質問形式なので返事不可避です!

ヴィデル様ごめんなさい!!


「……はい」


「戦後の処理をしている時、ヴィデルが珍しくうわの空でね。何かあったのかと聞いても何も無いと言うんだけど、気がかりなことがあるなら用を済ませておいでと言ったら『ありがとうございます、三時間で戻ります』と言って飛ぶように出て行ったんだ」


戦闘用の服で、帰ってきたときのことだ。


カサル様は優しい顔で続けた。


「エリサの無事を確認したかったんだろう。ヴィデルが私に『ありがとうございます』と言ったのは、それが初めてだった。あいつはそういう時いつも『申し訳ありません』と言うからね」


「そうだったのですね」


私もこの前初めてヴィデル様に『ありがとう』と言われた。


ヴィデル様の、変化。


「とても大切なんだね、君のことが」

「え?」

「エリサはとても魅力的だから気持ちは分かるけど。ヴィデルは幸せ者だな」


そう言ってカサル様はにっこり微笑んだ。


ちょ、ちょっとカサル様! さらっとお世辞吐かないで!

そういうの慣れてないから照れる! リアクションに困る!!


「あの、その、えーっと」


赤くならないで私の顔!

ヴィデル様、今は戻って来ないで!!


こんなところ見られたらあらぬ疑いをかけられて殺されそう!!


「あ、ヴィデルが戻ってきた」


げっ!!


その直後、御者がヴィデル様のためにドアを開けた。


青ざめて! 私の顔! 早く!!


馬車に乗り込もうとして、中にリュカさんがいないことに気付いたヴィデル様に思いっきり睨まれた。

しかも狼狽える私を視認したのか、さらに怖い目になった。


誤解です!!

早まらないで!!


と、ヴィデル様に向かって視線だけで必死にアピールしていたつもりだったのだが、無意識に面白い顔をしていたらしい。

ヴィデル様とカサル様が私を見て、同時に「ふっ」と笑った。


良かった、許された……。

そう思ったのも束の間。


リュカさんが戻り「近くに良いお店を見つけました」と言うので馬車を降りた途端、ヴィデル様に後ろから腕を掴まれた。


先に降りたカサル様とリュカさんと十分距離が空くのを待って、鬼が口を開いた。


「寝る前に俺の部屋に来い」


ぜ、全然許されてなかった〜〜!!


たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます!!

評価や感想もとても嬉しく、励みになっております!


次話からヴィデル様のターンが始まる予定です。

引き続き、よろしくお願いします!

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[一言] ヴィデル様のターン 楽しみにしておりますw
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