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魔道兵器は絶対ダメ

ルヴァ様の部屋からヴィデル様の部屋へと戻る間もずっと魔道兵器について考えていた。


戦いのことなんてさっぱりだから、何が戦場で役に立つのかちっとも分からない。

それに、攻城戦の最中に城の周りを爆発なんてさせたりしたら味方まで巻き込んでしまいそう。


何か、いい方法ないかな?


スプリンクラーみたいな道具で眠り薬をばら撒く?

……そもそもばら撒いて効果があるような眠り薬なんてこの世界にあるのか?


ゼフェリオとセレスティンのそれぞれの王様の声で『戦い止め』って音声を流す?

……そんな小細工で止まるわけないか。そもそも王様の声なんて録音できないし。


城の周りの地面を崩落させる?

……そんな仕組みさすがに思いつかない。それに加減を間違えれば城内の人も死ぬ。


全然ダメ。何かヒントが欲しい。

そう思ってヴィデル様を見れば、いつもと変わらない様子でソファに座って書き物をしていた。


「あの、ヴィデル様。ゼフェリオは魔道大国だとおっしゃっていましたが、戦いでも魔道具を多用してくるのですか?」


「……ああ。ゼフェリオは剣や弓といった武器はほぼ使わず魔道具をメインに使ってくる。だからゼフェリオとの国境の防衛を担うアトラント領では、以前から対魔道具戦に特化した守りを固めているんだ」


「耐魔素材とかを使って、ですか?」


「そうだ。兵が持つ盾や、城門や食糧庫などの施設の壁には耐魔素材を使っている」


「なるほど。ちなみにゼフェリオを攻撃するのにはこちらも魔道具を使うのですか?」


「攻城戦では、城門が破られない限りは剣や槍といった近接武器はほぼ機能せず、魔道具にしろそれ以外の武器にしろ遠距離武器が主になる。ゼフェリオは魔道具に対する備えが強固だから、物理攻撃の遠距離武器が一番有効だ」


「遠距離武器、ですか……」


「……さっきから武器のことなど聞いて、お前は何を企んでいるんだ?」


「いえ、何も。ただ知りたかっただけです」


「いいか、ゼフェリオの狙いが分からない上、おそらく今回は王都軍も我が領の敵だ。絶対に余計なことを考えるなよ」


「王都軍が敵? どういう意味ですか?」


王都軍ってセレスチアにいるセレスティン王国軍なんだから味方でしょ?


「まず、王都軍は通常王都の守備を行うだけだから、耐魔素材の防具などではなく無駄な飾りの付いた普通の防具を使っている。また防衛戦の際に間違っても王都の民に攻撃しないよう、使う武器は近接武器が主となる」


ん? それと王都軍が敵って話とどんな関係があるの?


「そして、二日後に我が領の軍と合流した際に食糧や武具の補給をさせろと言ってくるはずだ」


えーと、つまり。

対ゼフェリオ戦で有効な武具を持たない王都軍が、アトラント領にやって来て食糧や武具を寄越せって言うってこと?


「あれ? 王都軍に渡す分の食糧や武具までアトラント領内に蓄えてあるものなんですか?」


「……だから、あいつらも敵だと言っているんだ」


「えっ!? じゃあそのままじゃ碌に使えない王都軍のためにアトラント領の軍のための大事な大事な物資を出せってことですか!?」


「そういうことだ。攻城戦は物資が持つかどうかが勝敗を分ける一番大事な鍵になるが、それを『味方』に邪魔されるというわけだ」


なんだそりゃ!!!

めっちゃムカつく!!!


思わず怒りで頭が真っ白になった。

そんなこと、あっていいの!?


「……エリサ?」


返事をしない私を怪訝に思ったのか、ヴィデル様が書き物の手を止めてこちらを見ている。


その目を真っ直ぐに見て、聞いた。


「ヴィデル様は、いつ出立されるのですか?」


「この後だ」


え? 思ったより早い。

……あ、前哨基地の守りをカサル様と交代するから二日後に着くんじゃ遅いのか。


ヴィデル様がソファから立ち上がって、私の前に立った。

私を見下ろす赤みを帯びた黒い瞳に浮かぶのは、怒りと思いきや不安一色。


「いいか、狙いはお前かもしれないんだ。頼むから屋敷で大人しくしていてくれ」


そう言ってヴィデル様は私の髪を片手でそっと撫でた。こんなこと、初めてだ。


さすがにこんな国と国の戦いの原因が私なんてことは無いと思うけど、それについては黙っておこう。


「ヴィデル様、私……ヴィデル様やカサル様を助けたいんです。何か私に出来ることはないのでしょうか?」


「……無い」


「でも!」


食い下がる私の喉に、ヴィデル様の片手が強く当てられた。


「魔道省大臣の許可なく魔道武器や魔道兵器を作り戦場で使ったりしたら、一生牢屋から出られなくなるぞ」


「えっ!? そんな!!」


日用の魔道具はそんな許可なんていらないから、知らなかった……。


ヴィデル様の手が私の喉から離れ、そのまま私の背中に回される。もう片方の手も同じように背中に回され、両腕で優しく抱きしめられた。


「……エリサ、お願いだ。基地へ行くのはお前を守るため、そのために目障りなゼフェリオを潰すためだ。頼むから大人しく守られてくれ」


本当は、言い返したい。

私だってヴィデル様のことを守りたい。

そのために何かしたい、って。


でも、勝手に魔道具を作り戦場で使った時点で終身刑。


完全に私の出る幕じゃない。

ていうか出た瞬間に舞台から退場、二度と舞台に上がることは許されない。


「……はい、ヴィデル様」


そう言うことしか出来ない自分が、魔道具を取ったら何も残らない自分が、情けなくて悔しくて涙が込み上げてきた。


肩を揺らす私を抱きしめる腕に、力がこもる。


「泣くな。いつも通りヘラヘラしていろ」


口調とは裏腹に優しい腕と、シャツを濡らしてもそのままでいてくれるヴィデル様に甘えて、しばらくそのまま泣き続けた。


……五分後、いっぱい泣いてスッキリした私が涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げると、ヴィデル様が「ふっ」と笑った。


そしてまた、さっきよりも強い力で抱きしめられた。

まるで私と離れたくないって言われているみたいで、勝手に顔が熱くなる。


私もヴィデル様と離れたくないです、って気持ちを込めて、力いっぱい抱きしめ返した。


明けましておめでとうございます!!

今年もよろしくお願いいたします!!


2021/1/3 追記

戦い編はあと二、三話で終わる予定です。

ヴィデル様の気持ちの変化のため必要なパートで、すみませんがもう少しお付き合いいただければと思います。

なお、戦い編の後は、一大イベントのあと、平和な魔道具開発編をお届けする予定です。


ブクマがどんどん減っていくのを見て、みなさんが求めている方向ではないと感じつつも、サイコパスが甘々になるところを描きたくてこの方向に進んでいる次第です。


また読みにきてくださったら嬉しいです。

よろしくお願いします。

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