これって実質、新婚では?
仕事の早いティオナが、早速足りない物を持ってきてくれたので、それらを部屋に運ぶことにした。
シーツはベッドにセットする。替えのメイド服と一緒に、ティオナのお古の寝巻きも持ってきてくれたので、それらはチェストにしまう。
寝巻きをゲットしたので、昨日着ていたボロのワンピースは捨てて良さそうだ。
奴隷マーケットで身ぐるみを剥がされたため、他に持ち物はない。これぞミニマリストである。
洗面用具とタオルは、一階のバスルームに置くのがいいだろう。
そう思ってバスルームに向かった私は、見てはいけないものを目撃してしまった。
……すでに、洗面台には歯ブラシとカップが。浴室にはバスタオルが掛かっていたのである。
落ち着け! 落ち着くんだ私!
一旦、冷静に情報を整理してみよう。……いやいやいや、これ絶対ヴィデル様の物でしょ!
だって、ここの鍵を持っているのはヴィデル様と執事だけ。ティオナは食事のときだけ執事の鍵を借りて来てくれている。
今朝、『足りない物はないか?』と聞いてくれたティオナが、タオルや洗面用具をバスルームに配置済みなわけがない。
執事は私のためにそんな気の利いたことしない。
ということは、どう考えてもヴィデル様の物じゃないか!
……はっ。そういえば、二階に鍵のかかった部屋があった。あれってもしかして、ヴィデル様用の部屋なのでは?ベッドもあるんじゃ?
ひゃー!
魔道具の研究ついでに、離れで寝泊まりすることもあったりなかったり?
ひー!
でもでも、さすがに奴隷の私をここに住まわせるなら、ヴィデル様は本宅の自室で寝るだろうな。はい、この話はこれでおしまい。
妄想がひと段落したので、また設計図に取り掛かることにする。
四時間で設計が終わると思っている、あのサイコパスのことだ。試作機もすぐ出来上がると思っているに違いない。
見た目や操作方法は後回しにして、設計を詳細化することを優先しよう。
さっきヴィデル様に渡したメモを思い返しながら、どこにどの素材を使うかを当てはめていく。
機能については、ボタンを押した瞬間の映像を映し取る機能と、映し取った映像を確認する機能、そして映し取った映像を紙などに転写する機能の三つがあればいいだろう。
……となると、各機能のボタン以外にも、映像確認用の画面や、転写する紙を置く場所なども必要だ。
しまった。そのための素材はメモに入れていない。『素材が足りないので追加で買ってきてください』とか言ったら殺されそうだから、少し時間を空けて、何気なく頼むことにしよう。
黙々と書き込みをしていると、眠くなってくる。一瞬、ベッドに行こうか迷ったが、そんなところをもしサイコパスか棒執事に見つかったらクビになりそうなので、少しだけ机に顔を預けてみる。少しだけ。
二時間後。
カチャリ。ギィ、パタン。
「おい、買ってきたぞ」
「ぐー」
「……おい」
「あ、お帰りなさい、お父様」
「私はおまえのお父様じゃない。こんなところで寝るな、このばかものが」
冷ややかな声で、急速に覚醒する頭。本当だ。お父様じゃない。やば。
「えー、あー、私はー、こちらにくるまで魔道研究所に勤めていましてね、そのときに、寝ながら設計すると効率が三倍になるとかならないとかで、そのー、……居眠りしてすみませんでした」
「本当か?」
「いえっ! 嘘です嘘です! 寝てたら効率が三倍なんてそんなうまい話があるわけ……」
「そこじゃない。魔道研究所にいたのは本当か?」
「あ、そこは本当です」
「じゃあ、遠距離通信用魔道具のことは知っているか?」
「あ、いちおう私が担当者でした、へへ」
「な、んだと……?」
「へへ」
「ばかもの! ではなぜ記録用なんちゃらの前にその話をしなかった! あれは王都から離れているアトラント領の悲願だ。我が領から出資もしていた」
「え? そうだったのですか? いや、でもあれをまた一から作るのは相当時間がかかりますよ。私が研究所にいた時点でほぼ完成に近い状態でしたから、研究所での完成を待った方が早いかと」
「いや、完成はしないだろう。……所長から父上に連絡があった。担当者が犯罪行為を犯してクビになった上、設計を読み解ける者もおらず、完成している試作機の起動方法すら分からないため、しばらく研究を凍結するとな」
「なっ!」
なんですとー!
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