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新婚生活?

ここから、第二部です!

――あれから二ヶ月が過ぎた。


二回目のプロポーズの後、私とヴィデル様の結婚について、まずルヴァ様に報告をした。


ルヴァ様はとても喜んでくださった。そして、『二人とも、おめでとう。これからは家族として、よろしくね、エリサ』とおっしゃった。


いつか妄想した、ルヴァ様との暖炉の前での語らいや、野原でのピクニックが現実になると思うと、ときめきが止まらなかった。


……家族。


私の元々の家族は、私に酷いことをした。


義妹や義母は、血のつながりは無いのだから、そこに愛情がなく憎しみしか無かったのだとしても、仕方なかったのだと割り切れる。


でも、父親は、血のつながった家族だ。それに、今回のことについて我関せずを貫いた兄だって、血のつながった家族だし、昔はとても仲良くしていた。


私は家族に恵まれなかったんだ。結婚や、今後赤ちゃんが産まれたりなんかしちゃったりした時にも、私にはもう祝ってくれる家族はいないんだ。そう思った。


でも、ヴィデル様との結婚が決まったことで、私に大切な家族が二人もできた。


これからの人生を共に過ごす家族を、自分で選ぶことができるのは、素晴らしいことだ。素直にそう思った。


まだお会いしたことのない、お義母様のアリーシャ様や、お義兄様のカサル様とも、仲良くできたらいいな、と思う。


それに、このお屋敷には、私を大事に思ってくれる人たちがたくさんいる。お屋敷の皆に結婚の報告をした際、ティオナと、そして意外なことに執事も泣いて喜んでくれた。


ずっとここで暮らせるのだと思うと、幸せな気持ちでいっぱいだった。


「……ティオナ、私、ティオナと出会えて本当に良かったわ」


ティオナは今、私の自室で、私の髪をブラシで梳かしてくれている。


「ふふ、突然どうしたの? 私こそ、エリサと出会えて良かったわよ! 憧れの夫人付きメイドになれたわけだし、夢も叶ったわ!」


「でも、私は、立場上あまり社交の場に出ることも無いと思うし、飾りがいもないでしょう?」


「別に、飾りたてる相手が欲しくて夫人付きメイドを夢見てたわけじゃないわよ? そうじゃなくて、私が支えたいと思う人に一番近くで寄り添って、働いていけたら素敵だな、と思っていたの」


「……ティオナ」


「ふふ、だから、その相手がエリサでとっても嬉しいわ」


「ティオナ〜!!」


思わず、座ったまま上半身だけ振り返り、ティオナに抱きついた。


ティオナは優しく私の頭を数回撫でると、こう言った。


「さぁさ、エリサ様、もうすぐ朝食のお時間ですわ。お支度を済ませてしまいましょう」


「ええ、ティオナさん。髪を結ってくださる? 一番簡単なやつでいいわよ?」


そう言って、私たちは笑い合ったのだった。


  *


私とヴィデル様は、既に籍は入れたため、正式に夫婦となった。


だが、私の、元婚約者との婚約が破談になったばかりということを考慮し、結婚式などのお披露目の場はもう少し先に開く予定だ。


……正直、ヴィデル様がそういう場が苦手で面倒だから先送りにしている可能性もある。


とはいえ、私自身もそういう場が苦手だから、流れに任せるつもりでいる。


そして、私たちが甘々な新婚生活を送っているかというと、そうではない。夫婦らしいことはおろか、カップルがするようなことすら何もしていない。


結婚が決まった後、『私たちはどこで暮らすか?』という話を、ルヴァ様や執事を交えてしたのだが、ヴィデル様が今のままでいいと一点張りだった。


実際、私もそのほうが気がラクなので、私たちは今まで通り研究室の離れで生活している。つまり、寝室も別々なままだ。


……いつか、ヴィデル様といちゃいちゃと一緒に寝る日が来るのだろうか。今のところ、全く想像できない。


「エリサ、今日の予定は?」


朝食を取りながら、ヴィデル様が聞く。


「はい。今日は、本当はヴィデル様の広告用の素材写真を撮影したいのですが、そうではなく、遠通魔道具の通信傍受対策機能付きのの通話機を試作します……」


「それでいい。撮影は、遠距離通信用魔道具が完成したらいくらでもさせてやる」


「えっ!? 本当ですか?」


「ああ。だからとっとと完成させろ」


「分っかりましたー!」


とまあ、こんな具合に、ご褒美をちらつかせる上司にこき使われている。


結婚する前と、何も変わっていない。


……あ、変わったことがあった。ヴィデル様が、私のことを『エリサ』と呼ぶようになったことだ。結婚する前は、基本的に『おまえ』と呼ばれていたから、これは嬉しい変化である。


「……そういえば、おまえが作った改善版の洗濯用魔道具、アジュリアで好評だそうだ。商工会議所の所長から手紙がきていた」


あれ、今『おまえ』って言ったな……。ま、どっちでもいっか!


「そうなのですね! 設計図に不明点は無さそうでしたか?」


「ああ、今のところ問題なく、このレベルの記載であれば製造に着手出来そうだと書かれていた」


「それは良かったです!」


このお屋敷で改造した洗濯用魔道具について、少しずつ領内に広め、やがては国内外へ広める計画が少しずつ進んでいる。


まず、アジュリアの町で何軒かの家庭や店舗で試しに使ってもらい、感想や意見を踏まえて設計を改善していった。


そして、改善版の洗濯用魔道具を使ってもらい、問題なければ、その設計を元にアジュリア内の魔道具工房で製造してもらう計画となっていたのだ。


この件について、アジュリア側の窓口はアジュリア商工会議所の所長であるランドルさんが担当してくれている。


ランドルさんのところには、ヴィデル様と何度か会いに行ったので、すっかり顔見知りである。……ランドルさんは、会いに行く度に珍しくて美味しいお菓子を出してくれるので、好きだ。


「頑張ったな。褒美だ」


そう言って、ヴィデル様が何かを持ってこちらに来た。何だろう。ドキドキ。


「目を瞑れ」


「え!? な、何ですか?」


怖い。が、仕方なく目を瞑る。


繊細な何かが、首に触れた。


ヴィデル様はいつまで経っても何も言わず、椅子に座る音と、食事を再開する音が聞こえてきた。


「いつまで目を閉じてるんだ」


なにーー!! ヴィデル様が! 目を! 瞑れって! 言ったんでしょうが!


文句を飲み込み、そうっと目を開けて首元を見る。


するとそこには、繊細な金の鎖があり、鎖の先には、赤と黒が混じり合ったような小さな宝石が付いていた。


……ヴィデル様の瞳の色と同じ色だ。それに、金の鎖は、ヴィデル様の髪の色だ。


「ヴィ、ヴィデル様〜〜〜! う、嬉しいです。これ、いただいていいんですか?」


「失くすなよ」


「絶対失くしません! 絶対外しません! 肌身離さず身につけます!」


「やっぱり、おまえには首輪が似合うと思った。似合ってるぞ」


ん? 首飾りではなく? あの人、今、首輪って言った?


でも、そんなことはどうでもいい。


ヴィデル様が自分の色の物を贈ってくれたことが嬉しすぎて、名前も知らない宝石をしばらく眺め続けたのだった。


お読みいただきありがとうございます!

第二部は、毎日とはいかなくても、あまり間を空けずに投稿していきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いします!

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