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奴隷ってこんなに自由なんだ……

設計図を描くのに熱中しすぎて、あっという間に時間が過ぎていった。


魔道研究所に入ってしばらくした頃、所長に頼み込み商品開発部を立ち上げたが、『とにかく遠距離通信用魔道具を作れ』と指示されてしまった。


そのせいで、毎日、遠距離通信用魔道具の設計と試作に明け暮れた。試作機でのテストが成功しても、安定性がどうのとか、魔石消費を抑えろだの、あれこれと所長にダメ出しを受けた。どうやら王家にも納品しようとしていたらしく、チェックが厳しくなったようだった。


前世の記憶にある家電などを参考に、作りたい物やアイディアは山ほどあったが、結局作ることは出来なかった。


だから、ヴィデル様 × 金儲けで、すぐにピンときた物があったのだ。


部屋の壁に掛けられた昼時計の針が真上に近い。もうすぐお昼の時間だ。


この世界の時計には、昼時計と夜時計の二種類がある。


昼時計は上に弧を描く半円型で、太陽が東から西に進むにつれて、針が左から右に動いていく仕組みだ。針が真上なら、正午ということになる。


夜時計は、下に弧を描く半円型で、月の動きにつれて針が右から左へ動いていく仕組みだ。


よく出来ていると思う。


壁に掛けられた時計とは別で、目の前のテーブルの上に分解された時計が一組置いてある。他にも、日常で使用される様々な魔道具が分解されている。


どうやら、魔道具を分解しながら設計図を起こすことで、魔道具の仕組みを理解しようとしているようだ。


ヴィデル様本人がやっていたことなのか、私の前任者がいたのかは分からないが、それなりに魔道具の仕組みを理解していると思っていいのかもしれない。


ドアのノック音。続いて鍵の開く音。


「エリサ! お昼よ! 調子はどう?」


ドアを開けて、トレイを抱えたティオナが笑顔で入ってくる。仕事が増えたのに、嫌な顔一つしない。天使だ。天使はポニーテールだったんだ。


「ティオナ、ありがとう。仕事を増やしてごめんなさいね。調子はばっちりよ」


「それはよかった! 離れって言っても裏口からすぐだし、気にしなくていいのよ。何か、足りないものはない? あ、二階は見てみた?」


「……行こうと思っていたのに、すっかり忘れていたわ」


「ふふっ。じゃあ、今一緒に見ちゃいましょ? 足りないものがあれば、食事を下げるときに持ってきてあげる」


「ありがとう、お願いしたいわ」


美味しそうなシチューと柔らかそうなパンを横目に、二階に向かう。


同じような大きさの部屋が二つあり、一つには鍵がかかっていた。もう一つの部屋には、ベッド、机と椅子、チェストが置かれていた。前世でいう六畳くらいの広さだ。


「ここがあなたの部屋ということね。シーツ、タオル一式、着替え、それから洗面用具が必要ね。後で持ってくるわね」


「本当にありがとう、ティオナ。こんなに良くしてくれて、とても感謝しているわ」


「いいのよ、困ったときはお互い様よ」


ティオナが困ったとき、今の状況の私にできることがあるのか分からないけれど、絶対に力になりたいと思った。


一階に降りてくると、そのままティオナは出ていった。私はシチューと向き合う。


ブラウンシチューの中には、少しだがお肉が入っていた。なんということだ。薄々気づいてはいたが、ここのシェフは天才である。


あまりの美味しさにさっさと完食すると、先ほど描いた設計図を手に取る。


機能、組み込む魔石、回路はおおよそ決まったから、あとは見た目や操作方法について一枚描けばいいだろうか。


カチャリ。鍵の開く音。


ここのところ、ティオナは必ずノックをしてくれる。ノックがないということは……。


「出来たか。見せてみろ」


ヴィデル様である。


「まだ緊急用のベルを鳴らしておりませんが?」


「私はこの後外出する。今見せろ」


ベルの意味なーし! なるほどね、院長の回診スタイルなのね。


しかも、あんな漠然とした依頼からたったの四時間ぽっちで、新しい魔道具の設計図が描き上がるわけないじゃない。


……まあ、今回はたまたま出来たけども。けども!毎回四時間で出来ると思わないでほしい。


しぶしぶ描きたての設計図を差し出す。


「……これは、昔から頭にあったアイディアを図に起こしたもので、映像記録用の魔道具の設計図です。鏡の魔石、水の魔石、光の魔石を組み合わせ、このレンズ部分に映した映像を記録させます。そして、記録した映像は紙などに何回でも写しとることができます」


「ふむ」


「今の状態では、映した映像の明度の差を読み取るため、白から黒の間の色味の映像になってしまいます。赤や青といった色相は読み取れません。ここについては改良の余地があるでしょう。…‥以上です」


「おまえはコレを使って、どう領地を豊かにするつもりだ?」


「ヴィデル様を広告塔として売り出し、広告料で儲けます」


「なんだと? もう一度言ってみろ」


「ヴィデル様を! 広告塔として売り出し! 広告料で! 儲けます!」


「ばかもの!」


「どこがですか!」


「私にそんなチャラチャラしたことをさせる発想が、だ!」


「手段を問わないと言ったのはヴィデル様ではないですか!」


「限度があるだろう! 私にヘラヘラ笑って愛想を振りまくような真似ができると思うか! 思わないだろう!」


「ヴィデル様は、ヘラヘラ笑う必要も、愛想を振りまく必要もありません。ヴィデル様は、ただそこに居てくださるだけでいいんです。あとはこちらで勝手にいい塩梅に加工しますから」


「……いいや、だめだ」


あともう一押しか。


「ご存知ありませんか? ヴィデル様の肖像画が高値で取引されていることを。これっぽっちも似ていない絵で、ですよ。それが、本人そっくりの絵を大量に刷ることができるだけで、その価値は測りきれません。それをドブに捨てるおつもりで?」


「……」


「これは、領内外を問わず、見目麗しいと評判の高いヴィデル様にしか出来ないことです。ご英断を……」


「……私は気の進まないことはやらないからな」


勝利。


「かしこまりました。試作機の作成に取り掛かります。必要な材料のメモはセドリック様にお渡しすればよろしいですか?」


「今書け。外出ついでに買ってきてやる」


「御意」


思いつく限りの工具、使えそうな素材、必要な魔石をメモに書き、ヴィデル様に差し出す。


ヴィデル様は、引ったくるようにしてメモを奪うと何も言わず出ていった。


入れ替わりに、食器を下げに入ってきたティオナが目を丸くしていた。


辺境伯子息が自らパシリを名乗り出たのだ。しかも、元令嬢とは知らない奴隷が書いた買い物メモを持って、である。


案外、彼はサイコパス属性だけでなく、ツンデレ属性も備えているのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公とヴィデル様の掛け合いが面白すぎで楽しいです。
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