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カード選び

翌朝、まだ暗いうちに、あまりの寒さで目が覚めた。


急いで火の魔石に魔力を流し、部屋が暖まるのを待つ。


すると、「ぴちゃん、ぽちゃん」というリズミカルな音が洗面台から聞こえてきた。


蛇口が閉まっていないのかと思い、きつく閉めるが、音は聞こえ続けている。しかも、部屋の天井が高い上に、物が少ないせいで、音が響くのだ。


部屋が暖まったら二度寝しようと思っていたのに、これでは音が気になって眠れない。


仕方なく、今日作るつもりだった、基地局用の無限ループ回路を作り始めた。


  *


しばらく経った頃、トントンと階段を上る音が聞こえてきた。


膝掛けの下に魔道具を隠し、起動する。ベッドに隠すよりもスムーズに出来た。今度からはこれで行こう。


朝食を持ってやってきたメイド風の女の人は、昨日の女優メイドとは違う人のようだ。


だが、この人もトレイを乱暴に置いた。そのせいでまたスープが溢れた。ただでさえ具が少ないのに。


「あなた昨日、ロザリーに向かって生意気なことを言ったそうね。こんな高い場所まで食事を運んでやってるっていうのに、信じられないわ」


「私はただ、溢れたスープを拭き取るための布巾を借りようとしただけです。今のあなたのように、食事のトレイを乱暴に床に置かれたので、昨日もスープが溢れたのです。結局、ロザリーさんには断られた上に部屋にコップの水も撒かれましたが」


「あなたのその態度、本当にムカつくわね。気に入らないわ。……いいことを思いついた。今日、浴場へ連れて行ってほしければ、そこで土下座なさい! さあ!」


「いえ、結構です。絞ったタオルで体を拭きますので」


「あっそう! 勝手になさい、このゴミ女!」


おぉ。ゴミ女とはこれまたすごい啖呵だ。


ロザリーとかいう女優メイドは主役タイプだったが、この人には悪い令嬢の取り巻き役がぴったりだ。


取り巻きメイドが帰ったので、魔道具を確認する。ちゃんと三つ目の魔石が光っている。


撮れ高的にはバッチリだが、ここで一つ問題に気づいた。


音声記録用魔道具の三つの録音枠が全て埋まってしまったのである。私は、この三つのカードで戦うしかないので、カード選びは非常に重要だ。


次に誰かの足音が聞こえたら、どうするべきか。


一枚捨てて新しくカードを引くか、それとも手持ちのカードで勝負するか。かなりギャンブル性が高い。


ここはひとつ冷静に、手持ちのカードの分析をしてみよう。


一枚目は、ムチ大臣のメス犬発言。これはかなり強いカードなのでステイ。


二枚目はロザリーの水ぶちまけ高笑い。これも強いカードだが、ムチ大臣へのヘイトが溜まりすぎているため、貴重な一手をロザリーのために使うべきかは微妙だ。


三枚目は取り巻き女のゴミ女発言。これは大したことがないカードに見えて、実はいい仕事をする。一枚で二人に攻撃できるのだ。


……よし。次にムチ大臣の足音がしたら、二枚目を上書きしよう。三枚しか持てない以上、憎き大臣への攻撃カードを手厚くするべきだ。


その後、食事中も、魔道具の製作中も、常に足音に注意を払った。


そして、昼食の前に、チャンスはやって来た。どしどし音が聞こえてきたのだ。


音声記録用魔道具の二つ目の魔石に魔力を流し、隠して待った。


「エリサ・ストラード! 明日、おまえの裁判が開かれることが決まった。司法省のオスカ大臣が判決を下す、正式な裁判だ。これでおまえは正式に反逆者となる! クソ生意気なおまえを牢屋にぶち込んで、一生こき使えると思うと嬉しいよ! いや実にめでたい!」


ムチ大臣は言うだけ言って、来た時と同じように大きな音を立てて帰っていった。


魔道具を確認するが、二つ目の魔石はもともと光っていたため、ちゃんと上書きできたかは分からない。


再生して確認したいが、音量を調節できないため、爆音で再生される可能性がある。


見張りに聞かれてはまずいので、そのままにしておくことにした。


かなり強いカードを手に入れて喜んだのも束の間。


ん?裁判?


そんな話、これまでに出たことあったっけ?


私の想定では、私がここに捕まっている間に、ヴィデル様が私の無実の証拠を集めてくれて、王家の偉い人とかに掛け合ってくれて、助け出してくれるはずだった。


だが、ムチ大臣の話を踏まえると、明日までに助け出されなければ、裁判が行われ、牢屋に送り込まれるという。


……裁判でもし有罪と判決が出て、牢屋に送られたら、私はどうなってしまうのだろう。


判決が出た後にヴィデル様が証拠を持ってきてくれたら、判決は覆るのか……?


それに、アトラント辺境伯の元へは裁判の通知は届くのだろうか。


もし通知が届いたとして、アトラント領から明日の裁判に間に合うのだろうか。


――この国には弁護士や検事の位置付けの職業はなく、裁判の際には被告側、原告側ともに立会人を一人ずつ付けることができる。


人対人の事案であれば家族、会社対会社の事案であれば同じ会社の人間を立会人に指定することが一般的だ。


また、立会人とは別に証人を招集することが可能で、こちらは各側三人ずつまで指定できる。


私には、証人はおろか、立会人を引き受けてくれる家族などいない。


ヴィデル様かルヴァ様が来てくれなければ、一人ぼっちで裁判に臨むことになる。


しかも、相手は家族や元上司たちだ。被告側の席に一人で立つ私を嘲笑う姿が目に浮かぶ。


なんとなくアトラント領の方角を向いて、呟いた。


「ヴィデル様、あなたの心に語りかけています。どうか裁判までに来てください、お願いします」


……その日、無心になるために無限ループ回路を作り続け、夜中に完成した。


回路が出来ていれば、遠通魔道具の基地局もほぼ完成したようなものだ。


あとは、適当に素材を組み合わせて基地局に必要な高さを出せばいい。


眠れない私は、夜が明けるまで手を動かし続けた。


お読みいただきありがとうございます!

次話、物語が大きく動く予定です!

引き続き、よろしくお願いいたします!!

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