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通達

「ヴィデル様、エリサさん、夕食をお持ちしました。白身魚のグリルに、季節の野菜サラダ、インゲン豆のポタージュとフルーツです。ごゆっくりお召し上がりください〜」


ヴィデル様と一緒の夕食は久しぶりだ。


ジルが退出した後、いただきますをして食べ始める。相変わらず、特に会話はなく、カトラリーとお皿が触れ合う音しかしない。


本当は、ヴィデル様に聞いてみたいことはいろいろある。けれど、ヴィデル様が悲しい気持ちになるかもしれない質問はしたくない。


聞いてみたい質問には、何らか悲しい要素がある気がして、聞けずにいた。


あ、悲しくならなそうな質問を思い付いた。


「ヴィデル様の好きな食べ物は何ですか?」


「特にない」


「うーん。じゃあ、今、目の前の夕食に足りないものは何だと思いますか?」


「……肉」


「なぁんだ、好きな食べ物あるじゃないですか! お肉、私と一緒ですね!」


「別に好きだとは言っていない」


「でも、足りないな、あったらいいなとは思ったんですね?」


「ああ」


ヴィデル様は、好きなものを足りないものとして認識しているのかもしれない。それか、本当に好きなものがなくて、あったらいいな、くらいの感覚なのかな。


「おまえは、いつでも美味そうにメシを食うな」


「そりゃあ、美味しいごはんはいつだって美味しいごはんですよ」


「出されれば何でも食うし」


「美味しいものしか出てこないんですよ」


「……明日から、また出かける。しばらく戻らない。おまえの魔道具を借りていくぞ」


「あ、はい。私だと思って大事にしてくださいね!」


「ああ、大事に使わせてもらう」


調子の良いことを言ったのに、ヴィデル様が真面目な返事をするので、何だか恥ずかしくなってしまった。


  *


翌朝、朝食の時間よりも早く起きたが、もうヴィデル様は出かけた後だった。


朝食の後、何だか手持ち無沙汰で、音声記録用魔道具をもう一つ作り始めた。


ヴィデル様が次に帰ってきたときに、あのイケボを録音するつもりだった。


半分ほど出来たところで、執事がやって来た。


「エリサ、ルヴァ様がお呼びだ。今から行けるか?」


「……はい」


良い話じゃないことは、容易に想像がついた。


執事に連れられて、ルヴァ様の執務室へ向かう。ドアの前で深呼吸して、ノックする。


「ルヴァ様、エリサです」


「入ってくれ」


ルヴァ様は、ヴィデル様と違って表情豊かで、感情が顔に出るタイプだ。


そのルヴァ様の表情が、明らかに曇っている。


「王城から、通達が届いた」


「……どんな内容ですか?」


ルヴァ様は、机の上の手紙を両手で持ち上げると、感情を殺した声で読み上げた。


「……エリサ・ストラードに関する二つの事案について、被害者、被疑者双方の事情を聴取した結果、エリサ・ストラードは二件とも有罪と判断した。


 テレシア・ストラードに傷害を負わせた件では、被疑者の部屋から見つかったナイフが。魔道研究所の出資金横領の件では、高額な給与明細がそれぞれ証拠として提出されている。しかし、被疑者の無実を証明できる物的証拠は提出されていない。


 家庭内の傷害事案はまだしも、国庫から拠出された出資金を含む金を横領した罪は重く、王国への反逆罪とも取れる。そのため、本来ならば司法のもと判断し刑に処されるべきだ。


 だが、被疑者が類稀なる魔道具開発の能力を持つことを踏まえ、熟慮の結果、王家による厳格な管理の元、被疑者に遠距離通信用魔道具の開発を続ける機会を与えることとする。


 なお、アトラント辺境伯当主においては、本手紙を受領次第、被疑者を王城まで輸送する責務を果たすよう求める。……以上だ」


とうとう反逆罪ときた。言いたい放題だ。


本来であれば、「罪を犯したことを証明できる証拠」の有無によって有罪、無罪が判断される。


ところが、今回の件では「私の無実を証明できる証拠」が提出されていないから有罪だという。その理屈がまかり通るのであれば、誰でも有罪にできてしまう。


被害者ぶっている人たちが提出したという証拠は、確実に捏造されたものだ。多少なりともきちんと調査、検証すれば捏造されたことが分かるはずである。


それなのに証拠として有効だと判断しているということは、王家の思惑なのかヘルゲン大臣の独断なのか知らないが、何か裏があるはずだ。


だが、私が無実である証拠さえ出せれば状況は変えられる。


証拠。


……そういうことだったんだ。きっとヴィデル様が、あの二つを使って、私の無実の証拠を集めて来てくれる。「俺を信じろ」と言ってくれたのだから、信じよう。


それなら、私がやるべきことは一つだ。


「ルヴァ様、ご用事で近々王都へ行く機会はあるでしょうか?」


「あるにはある」


「では、そのときに私も王都へ連れて行っていただけますか?」


「それは構わないが……」


「ありがとうございます。いつ出発されるのですか?」


「明日の予定だ。だが、君にとって明日というのは急過ぎるだろう?」


「いえ、いつ通達が来てもおかしくないと、心の準備はしていました。それに、準備するほどの荷物はありません。明日、私も連れて行ってください」


「……君の雇い主として、王城行きを回避できなかったこと、申し訳なく思っている。今回の件は、余りにも横暴で強引だ。引き続き、出来る限りの手を打つよ」


「ルヴァ様が謝られることではありません。ご厚意に感謝いたします」


お辞儀をして執務室から退出すると、執事が待っていてくれた。


私に気を遣ってか、それともかける言葉が見つからなかったのか、執事は黙って研究室へと付き添ってくれた。


お読みいただきありがとうございます!

引き続き、よろしくお願いいたします!

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