撮影会
翌朝起きたときには、日はすっかり昇っていた。いつもなら、誰か起こしに来てくれてもいい時間のはずだ。
一階へ降りていくと、テーブルに小さな紙が置かれているのを見つけた。
ジルからの手紙だ。
「昨夜は帰りが遅かったと聞いているので、起こしませんでした。起きたらいつでもいいので、ベルで呼んでくださいね〜」
……ありがたい気遣いだ。最近寝不足だったので、おかげでぐっすり眠れた。
ヴィデル様はもう出かけたのか、姿が見えない。でも、今日からの私は今までとは一味違う。上司がいなくても、さぼらずにしっかり働くのだ。
そして、ヴィデル様に、「おまえがこんなに出来るやつだとは思わなかった。見直したぞ」と言わせてみせる!
こうして、私はベルを鳴らしてジルを呼び、朝食の用意を頼みつつ、朝食を待つ時間も惜しんで記録用魔道具の試作機を作り始めた。
誰もいないのをいいことに、朝食がテーブルに並んだ後も、朝食を取りつつ製作を続ける。
一分一秒も惜しかった。
いつ王城から通達が来るのかも、いつまでに来いと言われるのかも分からないが、それまでに絶対に完成させたい。
ヴィデル様がこれをどう使おうとしているのかは分からないけれど、とにかく信じて前に進もうと心に決めたのだ。
それに、もし本当に王城で働くことになったら、絶対に寂しくなる。ヴィデル様の顔写真を持って行けるなら、それだけでも頑張る価値は十分ある。
この日、私は寝ている時間以外のほとんどを製作に費やした。
そして、夜遅くまで作業を続けたが、ヴィデル様は帰ってこなかった。
*
――王都から帰ってきた日から四日が過ぎた。
毎日朝から夜中まで製作を続けた結果、なんと! たった四日で記録用魔道具の試作機が完成してしまった。
多少余裕を持たせていたとはいえ、スケジュールより三日も前倒しての完成だから、かなり頑張ったと思う。
何度かテーブルや椅子を被写体にして試したが、動作に問題なく、ちゃんと紙に写しとることができた。
だが、人物もうまく写せるかは分からない。特に、髪の毛や服などは、輪郭がぼやけてしまいそうで不安だ。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、執事が研究室へやってきて、こう言った。
「この屋敷には、エリサやヴィデル様のように魔道具に詳しい者は他におらんが、何か手伝えることはあるか? 人を付けてやることはできる。遠慮なく言ってくれ」
「セドリック様……! ありがとうございます! 実は、ちょうど誰かにお願いしたいことがあり、大変助かります!」
「分かった。誰を寄越せばいいんだ?」
「今日この後、ジルを少しお借りしても良いでしょうか?」
「ああ、すぐに呼んでこよう」
「ありがとうございます!」
ジルを指名したのは、一番ふわふわしているからである。ジルのふわふわのツインテールがしっかり写れば、髪の毛の課題はクリアと言っていいはずだ。
程なくしてジルがやって来た。
「私でお役に立つでしょうか〜? 心配です……」
「ぜひジルにお願いしたいことがあるの。仕事中にごめんなさい。手伝ってもらえる?」
「私に出来ることなら、もちろん手伝います。何をしたらいいですか〜?」
「モデルになって欲しいの」
「ええ〜! モデルに〜? 私がですか〜?」
こうして、メイド服の天使を相手に、撮影会が始まった。
あくまでも、今必要なのは機能的なテストであり、どんなポーズをとるかは全く関係ない。
けれど、照れているジルの余りの可愛さに、つい、いろんなポーズを依頼してしまう。
「くるりと一回転お願いしまーす! 目線はこっち! そうそう! ちょっとエプロンを摘んでみて……素敵だわ! そのままソファに座って! 立って! 次はキッチンに……」
「あ、エリサ、後ろ……」
夢中で撮影する私に、ジルが小声で言う。
「え?」
振り返ると、そこには四日ぶりのヴィデル様の姿があった。
ジルはヴィデル様に礼をすると、やっと解放されたとばかりにそそくさと退出する。
「ヴィ、ヴィデル様! お帰りなさい!」
「……ああ」
「これ! 見てください! 完成したんです! 記録用魔道具! ちゃんと動きます! 見てください!」
ヴィデル様の元に駆け寄り、記録用魔道具を掲げて見せる。
「……俺は、疲れているんだろう。おまえに、あるはずのない尻尾が生えている」
「え?」
「寝る。後でよく見せろ」
そう言って、ヴィデル様は二階に上がって行ってしまった。
ジルも帰ってしまって手持ち無沙汰になった私は、先ほど撮影したジルの写真を眺め、この屋敷のメイド達の写真集を作ったら飛ぶように売れるだろうな、と考えていた。
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