二人でお買い物!
私の体の震えが収まると、ヴィデル様はさっさと腕を解き、何事も無かったかのように外の景色に目を向けた。
さっきまでは何とも無かったのに、二人きりの空間がなんだか気恥ずかしく感じてしまう。気持ちを落ち着けようと、私も外の景色に意識を集中することにした。
徐々に周囲は明るくなり、それにつれて色鮮やかな街並みが姿を見せる。
たくさんの店がある中で、煉瓦造りの素敵な建物が目に飛び込んできた。建物の前には、家具屋らしき看板が出ている。
「ヴィデル様! あれ! あそこに行きたいです!」
すると、ヴィデル様は馬車内の前方の壁にある小さなボタンを押した。
程なく、馬車が止まったので、あのボタンで御者に止まるように伝えることができる仕組みのようだ。
実家の馬車では、途中で止まりたい場合は、窓から顔を出して大声で御者を呼ぶか、大きな音のするベルを鳴らしていたから、いい仕組みだと思った。
馬車を降り、建物の中に入る。意外なことに、外からは二階建てに見えたが、天井がものすごく高い一階建ての建物だった。
四方の壁には、天井近くまでびっしりと棚が並び、様々な家具が飾られている。
大きな家具は下の方に、時計などの小さな家具は上の方に並んでいるので、テーブルが目当ての私は下の方を見て回る。
すると、とても好みのテーブルを見つけた。天板は明るい茶色の木材で、脚は黒い金属のようなものでできていて、天板の少し下に脚とお揃いの金属で出来た棚が付いているものだ。
立ち止まって見ていると、ヴィデル様は何やら店員と話し始めた。
そして、私がテーブルの値段を確認しようと値札を探していると、ヴィデル様がこちらへやってきた。
「買った。行くぞ」
はい?
「明日には屋敷に届く」
そう言い残して、ヴィデル様は店を出ようと歩き始めたので、仕方なくついて行く。
店を出る前に、後ろ髪を引かれて店内を振り返ると、店員が皆、こちらを見てニコニコしていた。
「あの、何を買われたのでしょうか?」
「テーブルだ」
「どの?」
「おまえが突っ立っていたあたりにあったやつだ」
「はぁ」
そう言うと、ヴィデル様はもうこの話は終わったとばかりに、腕を組み窓の外に視線を移した。
私が見ていたテーブルを買ってくれたのかな。それとも、ヴィデル様が気に入った別のテーブルを買ったのだろうか。
……まあ、あのお店の家具はどれも素敵だったし、どれが来るのか楽しみにしていればいっか! ヴィデル様のお金で買ってもらったわけだし!
「買ってくださって、ありがとうございます! 届くのが楽しみです」
本当は、もっとお店の中を見たかったし、魔道具屋にも行ってみたい。
でも、さっきのことがあったせいで、窓の外を見ていても、知った顔がないかを探してしまう自分がいる。
しばらくしてウィザーズネビュラに戻ってくると、先ほどの人だかりはもうなくなっていた。
しかし、馬車が進むにつれて、馬車を指差していたり、歓声を上げたりしている人が見え始めた。
絶対、ヴィデル様はこういうのは苦手だと思う。聞かなくても分かる。
ヴィデル様は身長も高く、綺麗な金髪も相まって目立ちすぎるので、馬車を降りたらどうなるか、容易に想像がついた。
私が代わりに行って話を聞いてきましょうか? と口から出かかったところで、ヴィデル様が先に口を開いた。
「日を改める。昼メシを食ったら帰るぞ」
「す、すみません……」
「おまえが悪いわけではない、謝るな。それに、あの話が父上の耳に入る前に報告したい。ちょうどいいだろう」
「あの話とは?」
「俺たちの結婚の話に決まっているだろ」
お、俺たちの結婚! なんというパワーワード! この超絶イケメンと! この私の! 結婚!
改めて確定事項として言われると、なんだか他人事のように聞こえて、全然実感が湧かない。
それに、お父上への報告! お父上への! 結婚報告!
そうか、ルヴァ様が私のお義父様になるのか。
……うん、いいね! すごくいい! 理想のお義父様の権化みたいなルヴァ様が、私のお義父様になるのだ。
頭の中で、ルヴァ様と暖炉の前で語らったり、野原にピクニックに出かける妄想が展開されていく。
黙っている私に、ヴィデル様が何やら勘違いをして、フォローを始めた。
「俺もおまえも独身で、すでに同じ家で暮らしているし、父上としても何も問題はないだろう。戸籍上、俺の妻になるだけで、実情は何も変わらん」
俺の妻! 俺の! 妻!
今度はヴィデル様の妻としての妄想が始まるのだった。
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