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絶景

夕食の時間になって、レイアと、休みのはずのティオナがやってきた。


「あれ? ティオナ、今日はお休みよね?」


ティオナは、大きな袋を手に持っていた。


「これ、エリサのお洋服よ! 食事の後、着てみてくれる? サイズが合うか、心配なの。エリサと私は体型が似ているから、私と同じサイズで問題ないと思うんだけど……」


「ティオナ、ありがとう! ええ、着てみるわ!」


夕食の後、ティオナに渡された袋を開けると、淡い水色のワンピースと、若草色のワンピース、それに寝巻きが二着入っていた。


寝巻きは、ティオナのお下がりがあるから、一着と頼んだけれど、ティオナが気を回してくれたのだろう。


水色のワンピースは、ウエストより上の部分はタイトだが、裾に向かって少しだけ広がるデザインで、全体的にシンプルだ。けれど、襟や袖などが白の繊細な飾りレースで縁取られていて、私の好みだ。


若草色のワンピースは、袖やスカートはふんわりとしていて、ウエストは搾られている。こちらもシンプルだが、ところどころ濃紺のレースで飾られていて、とても素敵だった。


自室に鏡がないのがとても残念だ。一人ファッションショーを終え、もう寝ようかという頃、ヴィデル様が研究室に帰ってきた。


二階へ上がってくる足音がして、部屋の前で止まった。


「起きているか?」


「は、はい! なんでしょう?」


「明日、朝から出かける。付いてきたければ付いてこい。寝坊したら置いていく」


「行きます行きます! お供します! ちゃんと起きます!」


明日に備えて慌ててベッドに入った。五分で寝た。


  *


……エリサ、朝よ


……エリサ、起きて


目が覚めた。窓を見ると、まだ外は仄暗い。


絶対に寝坊できないというプレッシャーから、『夢の中で、自分で自分の名前を呼んで起きる』という大技を編み出してしまった。


ヴィデル様はまだ寝ているかもしれないので、そうっと一階へ降りる。


顔を洗おうと洗面所に行くと、ちょうどシャワーを浴びてバスルームから出てきたヴィデル様と出くわした。


……鼻血が出るかと思った。


下半身にはバスタオルが巻かれているものの、上半身はほぼ裸である。


髪を拭いたのであろうフェイスタオルを首から掛けてはいるが、何にも隠れちゃいない。


髪を伝って垂れてくる雫が、めちゃくちゃセクシーだ。


それに、ほどよく鍛えられた肩や腕、引き締まったウエストから目が離せない。


私が唖然として動きを止めていると、ヴィデル様が口を開いた。


「突っ立っていないでさっさと支度しろ。俺の準備ができたら出るぞ」


そう言って、目にかかる髪を軽くかきあげる姿に、また釘付けになる。


が、この方は本当に、自分の準備が終わったら出発するだろう。


一瞬で顔を洗い、全速力で着替えを終わらせねば置いていかれる。


先ほどの絶景を脳内で繰り返し再生しながら、まずは冷たい水で目を覚ましたのだった。


  *


支度はなんとか間に合った。……いや、正確には、ぎりぎり間に合わなかったというべきか。


ヴィデル様が馬車に乗り込み、出発した直後、御者が叫びながら追いかけてくる私に気づいて止めてくれたのだ。


でも、馬車に乗ってしまえばこっちのものである。


今日の私は、久しぶりの外出にワクワクした気持ちにぴったりだと思い、若草色のワンピースを着ている。


斜め向かいの席に座って窓の外を眺めているヴィデル様は、濃紺のジャケットとパンツに、パリッとした白シャツを合わせている。


こないだみたいな、ゆるっとした白シャツもいいが、こういうパリッ! キリッ! みたいな白シャツもすごく良い。


ヴィデル様の上下の服の色と、自分のワンピースのレース飾りが同じ濃紺であることに気付き、なんとなくニヤニヤしてしまう。


「今日はどちらの町へ向かうのですか?」


「アジュリア。アトラント領内で一番大きな町だ」


アジュリアならば私も知っている。


種類を問わず様々な魔道具屋が立ち並ぶエリア、通称『ウィザーズネビュラ』が特に有名で、魔道具の売り買いのため、領内外から多くの人が訪れるという。


また、魔道具を求めて集まる人々を目当てに、飲食店や日用品店、衣料品店なども数多く店を構えており、昼夜を問わず賑わう町なのだそうだ。


魔道具に目がない私としては、ぜひ一度行ってみたかった場所だ。


「ヴィデル様は、ウィザーズネビュラに用があるのですか?」


さりげなく、行き先を確認する。


「ああ。他にも何箇所か用がある」


「分かりました」


アトラント家のお屋敷からアジュリアまでの道は、ところどころ舗装されている道もあるが、未舗装の道も多く、馬車はそこそこ揺れる。


窓の外の長閑な景色を見ていると、眠くなってくる。今朝はものすごく早起きしたのだ、仕方あるまい。


うとうとして頭が揺れる度、窓ガラスにぶつかり、「ゴン」と音がした。


三回目の「ゴン」の後、ヴィデル様が私の隣に移動し、私の頭を掴んで自分の肩にもたれさせたことを、私は知らなかった。


お読みいただきありがとうございます!

頑張ります!

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