俺のモノ……とは?
本話の初投稿前に、前話の遠距離通信用魔道具の説明を少し直しています。すみませんが、何卒ご了承ください。
沈黙。
ヴィデル様はこちらを凝視している。このままでは顔にも穴が空きそうだ。
「分からなかったのならもう一度言うが」
「分かりました分かりました! ばっちり承知しました!」
もう一度言われては心臓が持たないため、食い気味に口を開く。
「ならいい。ソファくらい好きに買え。……セドリックに手配させる」
「あ、ありがとうございます!」
ラ、ラッキー! どさくさに紛れて言ってよかった!
「話を戻すが、おまえの遠距離通信用魔道具の設計には、あと二つ課題がある」
「え? あと二つ、ですか?」
「一つ目は、基地局が不要なケースがあることだ。基地局という概念は、人対人の通信には必須だが、拠点対拠点の通信では不要かもしれん」
ふむ。
「例えば国境沿いの前哨基地と、この屋敷の間で通信する場合だ。この場合、相手の位置を把握している。また、前哨基地には高さがあり、屋敷との間に、現状高い建物は他にない」
「……たしかに。その場合なら、基地局を介さず直接送り合える気がします。通信速度も上がる可能性が高いですね」
「魔素による魔力の移動距離は、我々の目に見える距離とは異なるとされているから、速度については一概には言えないがな」
研究所での開発時は、拠点対拠点の通信というものを考慮していなかった。ヴィデル様は、辺境伯の子息として、様々な利用ケースを想定してきたのだろう。
「基地局の有り無しで、二パターン検証してみます」
「ああ。二つ目の課題は、通信の傍受の可能性だ」
「……考えたことがありませんでした」
「これから考えればいいことだ」
今日、ヴィデル様と話すまでは、前に作ったものと同じものを、マイペースに作り直せばいいと思っていたところがあった。
だが、未知の課題を提示されたことで、俄然やる気が湧いてきた。
所長に与えられる課題は、私にとって既知で、実証実験よりも優先度が低いと考えたために後回しにしたものばかりだった。
ヴィデル様に与えられた課題は、未知であると同時に、辺境伯領という立場からしても、少しでも早く遠通魔道具を実用化するためにも、優先度が高いと納得できた。
「ヴィデル様、ありがとうございます」
「ああ」
「やる気が湧いてきました!」
「そうか。スケジュールより早く進む分には問題ない」
ヴィデル様はそう言うと、微かに笑って、また本を手に取った。
*
夕方、ヴィデル様が出て行くと、それを見計らっていたように、執事がやって来た。
「契約書について、ちゃんと説明を聞いたか?」
そう言われ、顔が熱くなった。きっと、赤くなっている。
「……エリサ、どうした?」
「えーっと、ヴィデル様の説明は、簡略化されていてよく分からなかったので、セドリック様から説明していただけませんか?」
「やっぱりな。そうだろうと思ったんだ。ヴィデル様は合理的な方だし、目についた文字だけを拾い読みする癖があってな」
やれやれ、という口調だが、なぜか嬉しそうな執事が、契約書の記載について丁寧に説明してくれた。
簡単に言えば、私はこの屋敷の研究室にて、アトラント領の発展や人々の暮らしの質の向上のため、魔道具開発をし、アトラント領からその対価として給料を支払うというものだった。
対価の額が、予想より遥かに大きく驚いた。また、私の身の安全や開発した魔道具の保全のために、必要な措置を取るとも記載されていた。要は施錠管理のことだ。
説明を聞いた後、執事から受け取った契約書の文面を一言一句漏らさずに読んでみたが、どう拾い読みしても、なぜヴィデル様の口からあのセリフが飛び出したのかはさっぱり分からなかった。
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