かっこよ……
前半は遠距離通信用魔道具の説明となります。
長くなってしまいすみませんが、頑張って書いたので読んでいただけると嬉しいです。
説明苦手な方は、後半だけお読みください!
2021/11/6 遠距離通信用魔道具の設定部分を、少し改稿します。すみません。
ヴィデル様は本を置き、背もたれに寄りかかった。腕を組んでいる。かっこいい。
「ああ。空気中に漂うとされる魔素は、確かに魔力を媒介するが、魔力の向かう先を指定できるのか?」
「宛先の指定には、兄弟石を使います」
「……兄弟石とは、夫婦石のことか?」
「微妙な違いはありますが、どちらも、互いに魔力を送り合う一対の魔石を指す点は同じです」
「ふむ」
「近距離通信用と、遠距離通信用について、比較のため順にご説明しましょうか? ご存知のことも多く含まれるかもしれませんが」
ヴィデル様は黙って頷き、こちらを見つめた。その瞳には、こないだの悲しげな色はなく、いつもの力強さがあった。
「では。近距離通信用は、二つの通話機を銅線の実線でつなぎます。それぞれの通話機には、音の魔石と無の魔石が一対収容されています」
「ふむ」
「まず発信時。通話機では、無の魔石で音の波長を魔力の波長に変換します。魔力の波長が銅線を通り、受信側の通話機に届きます。魔力を受信した通話機では、発信時とは逆の手順で音の波長に戻すため、音が聞こえる仕組みです」
「続けろ」
「続いて遠距離通信用は、二つの通話機を実線でつなぎません。それぞれの通話機には、音の魔石と無の魔石に加えて、兄弟石を収容します」
ヴィデル様が頷く。
「二つの通信機は、実線の代わりに魔素を媒介として魔力を送り合うのですが、その中継地点として基地局と呼ぶ建物を作ります」
「ほう?」
「兄弟石は、確かに対の魔石に向かって魔力を送りますが、最短ルートを進むわけではありません。発信時の兄弟石の向きや、受信側の居場所によって、大きく遠回りしてしまうこともあります」
「……だから基地局を建てることで、発信時は基地局に向けて発信し、受信時は基地局から宛先の通信機に向けて発信すれば、最短距離とはならなくても安定した速度で通信できるというわけか」
「その通りです。そこで、基地局には、魔素の濃度を一定以上に保つことと、高い高度が求められます」
「通信がある程度集中しても、処理しきるための魔素濃度が必要で、魔素は物理的な壁を透過できないためだな」
「はい。魔素についてはまだ分からないことも多いですが、魔力が生じる時に副産物として魔素が生まれるという説が主流です」
「……おまえが、耐魔室が必要と言っていた理由が分かった」
「さすがヴィデル様。そうです。魔力を生じさせ続けるために、例えば火の魔石に魔力を流して火を出し、その火を無の魔石で火力を魔力に変換する、という無限ループを生み出すのですが……」
「火力と魔力の交換レートが不明なため、だんだん出力量が落ちていく、あるいはだんだん増えてそのうち爆発する恐れもあるな」
「はい」
「研究所ではどうしていた?」
「結論は出ず、試作の段階なので後回しにしていました」
「確か、隣国の研究結果として、主要な魔石と無の魔石間の交換レートが出ていたはずだ。見つけたらおまえに渡す。参考にして、耐魔室が出来たら検証しろ」
「ありがとうございます!」
「あとは、魔素の濃度に依存する以上、場所によっては送受信できない場所もあるだろうな」
「……はい。ですので、試作やテストを繰り返していく必要があると考えています」
「そうだな。だが、そのくらい問題ない。通信の重要度から、テストする地点に優先度をつけてやっていけばいい」
「そう言っていただけて、安心しました」
同じ話を所長としたときは、「送受信できない場所があるなど、通信機としてあり得ん」と言って、最初から100パーセントの品質を求められた。
でも、ヴィデル様は、優先度順に順番にやっていけばいいと言ってくれる。
同じ研究でも、同じ課題でも、上司によってこんなにも違うもの、なのか。
会話が一段落したところで、ノック音がした。執事だ。
「おや、ヴィデル様もおいででしたか。エリサの契約書が出来ましたので、お持ちしたのです。ご説明しても?」
「私から説明しておく。下がっていい」
「かしこまりました」
執事が心配そうな目でこちらをチラリと見た気がした。
ヴィデル様は執事から受け取った契約書に目を落とし、数秒後にさらりとこう言った。
「おまえはこれで、正式に俺のモノになる。そういう契約だ。分かったか」
心臓をぶち抜かれた。
……今、俺って言った? 俺のモノって言ったよね? いつもは私って言ってるよね?
あまりの衝撃に、返事が思い付かず、口から出てきたのは自分でも予想外の言葉だった。
「休憩用にソファがほしいです」
お読みいただきありがとうございます!!




