表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/73

合鍵

ノック音のあと、少し間があってから、カチャリと鍵が開く音がした。


部屋に入ると、執事は言った。


「エリサ、何かね?」


以前より、ずっと口調が優しい。別人のようだ。


「セドリック様、お忙しい中すみません。ヴィデル様が購入してくださった、このあたりの物資を仕分けしたく、そのための棚や箱を用意いただけないでしょうか?」


「ああ、分かった。本宅で使えそうな物を、すぐこちらに運ばせる。足りなそうであれば、手配して明日には届くようにしよう」


「ありがとうございます!」


「それでな、ちょうど私からも話があるんだ。昨日言った契約書についてだが、その……エリサとの契約はちと特殊になるため、いつもの使用人契約書から修正が必要でな。少し、待ってくれ。給料は今日分から計算するよう手配しているからな」


「あ、はい。契約開始については、私はいつでも大丈夫です」


「すまんな。ヴィデル様の文案をルヴァ様が却下されてな……。まだ決着がついておらんのだ」


「なる、ほどです」


あれかな? 私を施錠管理するところでモメてるのかな?


まあでも、何でも離れに運んでもらえるし、呼んだらすぐ来てくれるようになったし、特に問題はないんだよなぁ。


あ、そういうやり取りがあったから、今日の執事は十秒で飛んできたのかも。


「では、また何かあれば呼んでくれ」


そう言って執事が出て行くと、入れ替わりでジルがお昼を持ってきてくれた。


「エリサさ〜ん、お昼です。今日のお昼は、シチューとお魚のフライです。温かいうちに召し上がれ〜」


「ありがとうございます、ジルさん。忙しいのに、離れまで運ばせてごめんなさいね」


「ぜーんぜん、気にしなくていいですよ〜。普段お庭に出る機会が無いので、今日みたいに天気の良い日は特に、気持ちがいいですし。あと、私のことはジルって呼んでくださいね〜」


「じゃあ、お言葉に甘えて、ジルと呼ばせていただくわね。ジルも、私のことはエリサと呼んでちょうだい」


「はい、ではでは今後はエリサと呼ばせていただきます〜。ふふ、嬉しいです。じゃあ、食事が終わる頃にまた来ますね〜」


ジルはツインテールを揺らしながら出て行った。


やはり、お昼にもおかずが付いている。思わず顔が緩む。


ニコニコとお昼を食べていると、私にとっては神出鬼没な上司が現れた。相変わらずノックしてくれないため毎度心臓に悪い。


「構わず食え、質問がある」


「はぁ」


『構わず食え』と、『質問がある』を一文にまとめるのはこの人くらいではないだろうか。


「開発にあたり、人手は不要か? まあ、おまえほど魔道具に精通している人手を探すのは難しいが、多少扱える者を補佐として付けることはできよう」


「うーん。不要です」


私は、一人作業好きの、チームワークが苦手なタイプである。合わないタイプの人と作業するくらいなら、自分のペースで仕事ができるほうがずっといい。


「そうか。他に欲しい物はあるか? もちろん、開発のためにだが」


「それでしたらあります。遠通魔道具の開発やテストにおいて、防火、防風などの機能や防音機能の付いた研究室が欲しいです。全面を耐魔素材で覆った建物のイメージで、二階の個室ほどの広さがあれば十分です」


「ふむ。父上が、研究所への出資が不要になった分、予算をおまえの開発に回してくださると言っている。おそらく、それくらいは賄えよう」


「ありがとうございます」


「他には?」


「あとは、そうですね。足りない素材や魔石の買い出しをどなたかがやってくだされば、特には。……あ! 遠通魔道具のテストは、一人では出来ませんので、誰かに手伝ってもらう必要があります」


「それぐらいは私がやる」


なに?ヴィデル様と、「もしもーし? きこえますかー?」ってやるのか……。受話機越しのイケボか……。いいね。


「では、他には何もありません」


「そうか。そこの本は片付けておけ」


「二階のお部屋にですかね? あの部屋は鍵が掛かっているのでは?」


私がそう言うと、ヴィデル様はポケットから鍵の束を取り出し、二つのうち一本を外すと無言で放ってきた。


ナイスキャッチしたそれは、つまり、合鍵である。


そのまま、ヴィデル様は出て行ってしまったので、ニヤけた顔を見られずに済んだ。


食事中に行儀が悪いのは分かっているが、食事中に合鍵を渡すヴィデル様が悪いのだ。


ダッシュで二階へ行き、ドキドキしながら鍵を開ける。何となく、『失礼しまーす』と言いながらドアを開けた。


部屋の中には、なんと! ベッドが! あります! しかも! なんか! 良い匂いがします!


私の部屋と同じ作りだが、窓の位置が逆のため、家具の配置も逆になっている。また、ヴィデル様の部屋には本棚があり、本がびっしり詰まっていた。


そのせいで、二つのベッドが壁越しに隣り合わせに並んでいるではないか……。


フラフラと一階に戻り、ヴィデル様が読んでいた本を持ち上げると、表紙には『魔道科学の発展と領地経営』と書かれていた。他は、『魔道具による通信の未来』と、あとは外国語で書かれていてよく分からない本だった。


ヴィデル様の部屋の本棚の空いているところに本を差し込み、なんとなく深呼吸をする。うん、やっぱり良い匂いだ。


部屋を出て鍵をかけると、自分の部屋のチェストに鍵をしまっておくことにした。離れから出ることはないが、ポケットに入れたまま無くしたら大変だからだ。


一階に戻ると、急いで残りのお昼ごはんを食べるのだった。


お読みいただきありがとうございます!

ブクマや評価、とても嬉しいです!

引き続き、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ