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上司と打ち合わせ!

「エリサさん、おはようございまーす。朝ごはんお持ちしましたよ〜」


目を覚ますと、ツインテールのかわい子ちゃんが、ドアの外から顔を出していた。


んん? ティオナじゃないぞ? ティオナのテールはシングルであって、ツインじゃない。


「ありがとうございます。寝坊してしまってすみません。あの、あなたは?」


「いえいえ、昨日はお疲れ様でした〜。私はジルと申します。今日はティオナはお休みなので、私がお食事お持ちしました」


「そうだったのですね。どうもありがとうございます」


「一階のテーブルに置いておきましたので、ぜひぜひ、温かいうちに食べてくださいね〜。ではでは、失礼しまーす」


帰りかけたジルが一瞬動きを止めて、また口を開いた。


「忘れるところでした。料理長が、今日の夜ごはんはエリサさんのお好きな物を作ってくださるそうです。後ほど伺いますので、何が食べたいか、考えておいてくださいね」


「分かりました。とっても嬉しいです」


ジルはぺこりと会釈すると、今度こそ帰っていった。


……ティオナは元気な天使、ジルはふわふわした天使。料理長は渋オジで天才。みんな好き。


そっか、ティオナは今日は休みなのか。昨日、執事に『ティオナが損をすることのないように〜』みたいなことを言ったばかりだったので、一瞬ティオナが私の担当から外れたのかと思った。


ティオナが私のせいで損をするのはいやだけど、ティオナに会えなくなるのもいやだな。


とりあえず、朝ごはんを食べよう。


一階へ降りていき、顔を洗って口をゆすぐとさっぱりした。


テーブルの上には、トマトの香りのする赤いスープと、パンと、なんとオムレツが載っていた。


使用人にレベルアップすると、おかずがつくようだ。これでますます食事が楽しみになった。


あ、夕食は好きな物作ってもらえるんだっけ! 何がいいかなぁ。やっぱりお肉かなぁ。久しぶりにフルーツも食べたいなぁ。悩む。


結局決めきれず、ジルが食事を下げに来てくれた時に「お肉とフルーツが食べたいです。あとは料理長にお任せします」と答えた。


さて、今日は何をしよう。やるべきことも、やりたいこともいろいろある。


よし。まずはスケジュールを立てよう。そして、出来たらヴィデル様に見てもらって問題ないか確認しておこう。


この世界の暦は、前世と基本的に同じだ。一年365日、一日24時間。一年は12ヶ月。


ただ、微妙に違うところが二つある。


一つ目は、1月から11月までは30日ずつで、12月は35日ある点。


二つ目は曜日の種類で、前世でいう日曜から順に、光、月、火、水、木、金、闇の曜日となっている点だ。


一つ目については、前世よりむしろ分かりやすくていいと思っている。


二つ目については、光から始まって闇で終わると覚えてすぐに慣れた。闇の曜日は安らぎを意味し、休みである。光の曜日は、明日への活力を意味し、休みである。つまり週休二日だ。


この世界にもカレンダーはあるが、離れには置いていなかったため、紙に線を引いて曜日と日付を書き、手作りする。


私がここに来て四日目。なんとなく、四日前の日付に丸を付けた。


ティオナが毎週同じ曜日に休みであれば、その曜日の列も印を付けようと思った。今度ティオナに聞いてみよう。


手作りカレンダーを見ながら、今度は前世でいうエクセルで表を作るような感じで、スケジュールを作り始める。


とりあえず、遠通魔道具の実用化の目処である四ヶ月後までのスケジュールがあればいいだろう。遠通魔道具用の開発作業と、記録用魔道具の開発作業に分けて書き込んでいく。


……うーん。こんなところだろうか。


ここで、ノック音無しのカチャリ音。ヴィデル様が来た。


しまった。一旦、全力で頑張るバージョンのスケジュールを引いたため、この後各作業の期間に少しずつ余裕を持たせようとしていたのだ。


ところが、何も言わずにヴィデル様は二階に上がって行った。おや?


私の部屋に興味はないだろうから……あの開かずの部屋か。


すごーく気になる。何があるんだろう。でも、覗く勇気はない。


まあ、今のうちにスケジュールを修正してしまおう。


期限切れは怒られそうなので、本当はもっと余裕を持たせたい。でも、あんまり余裕を持たせすぎるとバレそうだ。


そのため、随所に余裕を持たせつつも、ご納得いただけるスピード感になるよう調整した。


ヴィデル様が降りてきた。ギリギリセーフだった。


分厚い本を何冊か抱えたヴィデル様はこちらに来ると、私の斜め向かいの椅子に座り、本のページをめくり出した。


沈黙。


とりあえず、スケジュールを見てもらおう。


「あの、ヴィデル様」


「ん?」


本から目を上げずに返事をするヴィデル様。


「ん?」だけで、ものすごくかっこいい。声もいいし、この斜めの角度から見るお顔もすばらしい。


「今後の魔道具開発のスケジュールを引いてみたので、ご覧いただけますか?」


「ああ。見せてみろ」


スケジュールを見せ、簡単に説明を加える。


「ふむ。まあいいだろう。念のため確認するが、これは全ておまえ一人で作業する前提のスケジュールだな?」


「はい。何か問題ありますか?」


「いや……。研究所では何人で遠距離通信用魔道具を開発していたんだ?」


「私一人ですが?」


「そうか……。遠距離通信用魔道具に必要な素材や魔石のメモは出来たか?」


「いえ、まだです。先日購入いただいた素材や魔石を今日これから整頓し、数を確認して不足分をメモするつもりでした。あらかた足りるとは思います」


「ふむ。ここにある物で足りるほどなのか……。これは調べる必要があるな」


「何をです?」


「遠距離通信用魔道具の開発には、我が領からも出資をしていたと言ったが、王家や他領からも少なからず出資されていたはずだ。それなのに、実態はおまえ一人で開発していた上、素材や魔石も大した量は必要としない」


「‥‥確かに、出資額は聞いていませんが、何に使っていたんでしょう? ちなみに、私のお給料は他の研究員と同じだったはずです」


「わかった」


そう言うと、ヴィデル様は本をテーブルに置いて出て行ってしまった。

 

この後、部屋の資材の整頓をしようと思っていたから、うるさくしたら怒られるだろうかと気になっていたので助かる。


さて、これほどの資材の仕分けだ。棚や箱なんかが欲しい。


躊躇いなく緊急用ベルを鳴らすと、執事が十秒でやってきたのだった。

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