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1 男は騙され、汚い手を使う

神は英雄に勝利を与える。


英雄は勝利への欲求にとらわれる。


神は明確な強敵を作る。


英雄は敵に心をとらわれる。


英雄は力を求め、与えられた才能を磨き続ける。


神は再び勝利を与える。


そして、圧倒的な力を手に入れた英雄にとって勝利とは状態へと変わる。




青年にとっては敗北とは状態であった。


彼にはただ一度の勝利もない。


剣、拳、魔法、勉学・・・すべての勝負においてあったのは黒星。


異世界から伝わったとされるジャンケンというものですら、


勝ったことは一度たりとも。



最初はなぜ、俺はこんなにも敗者なのか?


一度くらい勝てそうなのに。


誰にも勝つことができない。




努力が足りないのか?


幼い時にそう考えた俺は友人との遊びすらせずに、


己の体をいじめ抜き、


勉学に身をやつし、


あらゆる武器の訓練をした。



けれども勝てない。


剣の素人、槍の素人、自分より歳下の子供にすら負けた。


何者にも、


どんな能力を手にしても無駄だった。


その能力が戦闘、テスト、その他において役に立たないのだ。


一切の努力が発揮されない。


普段の生活や演武において他に追随を許さない域に至ったとしても。



努力が足りないのか、


心が弱いからか?



・・・鍛えても鍛えても無駄。



そして、完全に諦めたころ、


俺は友人からの助言により、


ある占い師のもとに行った。



・・・絶対敗北・・・。



占い師は俺のスキルを確認し、


それを発見した。


それが俺にあるユニークスキル。


運命の名。



故に彼はその状態に抱く感情などはなかった。



負けることが当たり前。


敗北は神から決められた運命。



・・・そんな運命を俺は呪う。



「どうだ?


君さえよかったら・・・。」


いつもならここで続きを言わせないように断るのだが、


今日は違った。


いい加減真面目に考えた。


「・・・このギルドの教官にならないか?」



最期に名指しの討伐依頼が入った・・・いや、きっと入れてくれたのだろう。


最期のはなむけか。



依頼相手はこの国だった。


国の依頼ということと、


王女が同行者ということということからも簡単な依頼なんだろう。


荷物持ち兼回復役という条件だったこともいい判断材料だった。



俺は普段通り・・・いや、いつも以上に念入りに準備をして向かう。



「なあ、これっていいかんじじゃね。」


「ええ、中村くん、こっちも終わったわ。」


「中村くん、怪我してますよ。


私が治してあげます。」


「サンキューっ!」


「勇者様、気を抜いては・・・。」


「・・・はあ・・・馬鹿が。」



・・・けれども簡単なんてそんなことはなかった。


同行者の詳細を聞いていなかったことが悔やまれる。


てっきり勇者召喚前の訓練だと思っていた。


すると、そこには異世界召喚された勇者がいた。


魔物を討伐する腕から考えて、


勇者たちの能力は個々にはかなり高い水準にあることが予測される。


隙があまりにも多すぎるが、おそらくは並みの兵士では相手にならない程度だろう。


よって、回復役としての職務は必要なく


勇者の友人の1人がやっていた。


実質ただの荷物持ち・・・小型のマジックバックを魔物から守る役だ。


要するに一切いらない役。


確かにこれはやること自体はかなり簡単な仕事だ。


けれどもこれはいくら何でもない。


・・・これは何かある。この後何かしら重要なことをさせられるのだろう。



一応、教官の研修の一環なのかと思い、


勇者の観察はした。



勇者たちを見ていてわかったことがある。


・・・こいつらは戦いを舐めきっている。



「王女様、これより先は・・・。」


俺がこれから先は危険だと助言をしようとするが、


それは制される。


・・・なるほど・・・こいつらに少し痛い目に遭ってほしいのか・・・。。



だから俺を・・・。


俺の最後の仕事にしては丁度いい。


・・・勇者を戒めた存在となれるとはギルドマスターもいい仕事をする。


ものは使いようだとはこのことだ。



案の定、思惑の通り、勇者たちは満身創痍の状態となる。


彼らは痛い目を見たのだ。



・・・けれども予想外な事態が起こる。



「ふん、弱い、弱すぎるわ。


今代の勇者この程度?」


魔族が現れたのだ。


強力な魔力に身体能力を持った存在。


明らかにここら辺の敵にしては強すぎる。


そう言えば王女がこんなことを呟いていた。


「・・・リア・デスドーサ・・・。」


一体誰のことかはわからない。


だが、彼女の怯えようからは余程まずい相手だったのだろう。



俺はもちろん戦いが始まる前に、勇者を止めた。


撤退も進言した。


けど突っ込んで行った。


・・・ままならないものだ。



そして今、ようやく状況を理解した賢者が口を開く。


「・・・これは無理だ、逃げるぞ、中村。」


剣を杖のようにして立ち上がった勇者は答える。


「はあ?何言って・・「落ち着かないと、死ぬぞ。」


2人の視線は交錯する。


「・・・わかった。」


賢者の言を信じたのか、


勇者はそれを受け入れる。


「・・・わかりました、私が囮に。」


王女は自らを犠牲にせんとする。


「それは・・・。」


俺の言葉に同意の声が上がる。


それは賢者のものだった。


「それはいけない。あなたはこの国の王女だ。


あなたはこの先も必要な人材。」


そして続く。


「丁度いいのがいるでしょう?」


賢者は初めて笑顔を見せた。


なんて気分の悪い笑みだ。



・・・クソ野郎が・・・。



結果として、


うまい具合に俺は囮に仕立て上げられた。


王女は反対したが、眠らされて連れて行かれてしまう。


女二人は申し訳なさそうな顔をしていたが、なにもいうことなく賢者に従う。


確かに賢者の言うことは正しいと感じたのだろう。


・・・自分たちが生き残るには。



相手の魔族にとって取るに足らない存在と認識したのか、


逃げるやつらを追おうとはしなかった。


「殿はあんた?」


女はつまらなそうに聞く。


「・・・。」


俺は言葉を失っていたのだが、無視されたと思った女はこちらに突っ込んでくる。


高速の槍が突き出される。


「はっ!」


俺は避ける。


次々と槍を突き出されるが、


それも軽く回避していく。


身体能力の減衰幅は思ったより小さい。


かなりの強敵だ。


これ以上減衰しないように気をつけなければ。


嘆きをどこかにやり、戦闘に集中する。


まず、俺は地面に攻撃をし、粉塵を巻き上げる。


相手は急のことに回避の体制をとる。


相手は片手で目を庇っている。


普通の人間ならここで隙をついて攻撃だろう。


しかし、俺は逃げる。


次に、俺は魔物のえさを撒き、魔族にけしかける。


「ちっ!」


現れた魔物どもを薙ぎ払っていく。




他の魔物にダンジョンの罠を起動させ、


矢、槍、落とし穴、毒ガスそれらを魔族に・・・。



俺は相手の猪突猛進さを利用し、汚い手を限りなく多く使った。


・・・自らの手を汚すことなく・・・。


まあ、俺の勝利条件だから仕方がないと言えば仕方がないが・・・。



すると、長期戦を覚悟していたんだが、相手になぜか焦りが現れた。


俺は逃げ回る。


「追い詰めたわ。」


扉を開き、ある部屋に入る。



その部屋とは・・・


「スキル禁止エリアっ!?」



最期は後ろからの背中をバッサリ。


「グッ・・・!」


女は倒れ伏す。


・・・やはりいろいろと当たりをつけておくものだな。


いろいろな無茶のおかげか、


魔族を虫の息まで追い詰めた。


・・・あと一撃・・・か・・・。


おかげでまだそれなりに余力がある。


全力で走って帰ることくらいは・・・。


そんなことを考えていた時だった。



どこからともなく笑い声が聞こえてくる。


「誰だっ!!」


戦闘の興奮冷めやらぬ俺は威嚇するように大声をあげる。


男の声は部屋の中をこだまするのだった。



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