3話 親父との会話
辺りは騒然としていた。
壊れたコンビニ、綺麗に折れた街路樹、負傷した人たち、そして何より俺が倒したアレ。
あれは一体何なのだろうか、空を飛んでいたから新たな生物か?
そう考えたが不自然なことが2つある。
1つ目は、無機質な声だ。まるで機械のような冷たくだが意思があるような気もする様な不思議な感じだった。
2つ目は今俺が手にしている、まさにこの剣だ。
重さは片手持ちだと木刀と同じくらいの重さで普通の剣よりだいぶ軽いと思った。
「まぁ、色々疲れたし早く帰ろう。」
俺は警察とかの事情聴取とかが面倒だと思い、その場を離れ帰ることにした。
剣を手にしたまま帰る俺は、他の人が見たら絶対に犯罪者に間違われると思い裏道をそそくさと走っていた。
(とりあえずこの剣親父に見せた方が早いよな)
家に着いた。
いつも見ている木製の屋敷だ。
少し家に入るのを躊躇したが、意を決して俺はガラガラと引き戸を開けた。
「ただいま〜………あれ?」
俺はいつもと違うとすぐに分かった。
なぜなら、家に帰ると真っ先に家政婦さんが玄関まで迎えに来てくれるのに今日は来ないからだ。
俺はすぐに家の中を人が居ないか探したが、誰一人として姿が見えなかった。
「残るはあそこだけか。」
ずっと遠ざけていた場所、俺の記憶から消したかった場所、それは家の中にある道場だ。
俺は近づくにつれ頭が痛くなっているような気分になりながらも、道場の前に着いた。
道場の中へ入ると、親父がそこにいた。
だかそれよりも、目につく物がそこにはあった。
「えっなんで…」
それはさっき俺が倒したあれと同じ姿をしていた。だが、驚いたのはその数だ。
その数ざっと数えると10体。
倒れているところを見ると親父がやったんだろうと思う。
「親父、一体何があったんだよ!なんなんだよこいつら…は…」
俺は、親父に近づいた時に絶望を感じた。
そこにいる親父は、正座をしたまま死んでいたのだ。
こんな事ってあるのだろうか。あの親父があの親父が死ぬなんて考えられなかった。
俺はその場で座り込んでしまった。
「勇斗…か?」
俺はビックリした。既に脈がなかった親父が喋ったのだ。
「親父…なんで喋れるんだよ…脈なかったよさっき。」
「おめーさんがいつまでもひよっこだからな。おちおち死んでられねーよ。」
親父は声に力が入らないようだった。
「でも、ようやく帰ってきたな。お前にこれを渡すために待ってたんだ。」
親父はそう言うと、1枚の紙を渡してきた。
「これは後で読め。んでもって今は話を聞け。」
いつも話を聞いてこなかったが、俺は真剣に聞くことにした。
「お前はその剣の重さをどのくらいだと思う?」
それは俺が持っていた剣の事を言っていた。
「木刀くらいの軽いもんだと思ったよ。」
俺は正直に答えた。
「それはお前が剣に対しての心が無いからそう思うんだ。これを持ってみろ。」
それは、剣持家に伝わる家宝の日本刀だった。
(日本刀もそんなに重くはないだろ…!)
俺は衝撃を覚えた。持ち上がらないのだ。
親父は軽々と持っていたように見えたその剣は、鉄骨でも相手にしてるかのようにビクともしなかった。
「それが今のお前の心よ。剣と向き合い、剣と呼吸を合わせることでその剣は、お前にも持てるようになる。」
俺は言ってる意味があまり分からなかった。
(剣と呼吸を合わせる?そんなの出来るのか?)
ふと後ろから音が聞こえると思ったら、先程まで倒れていたあいつらが起き上がっていた。
「やっぱり倒しきれねーか。」
親父はそう呟くと、やれやれと言う表情を浮かべた。
「いや、この状況まずいだろ!どうするんだよ!」
俺は、ここで死ぬのかなと悟った。
「まぁ、待て。落ち着けよ。おめーさんがこいつらを倒すんだよ。その家宝の秘剣斑目で。」
秘剣斑目…言い伝えでは神も悪魔も殺せると言う、謎が多い剣だ。
「この剣はな、使用者も剣になることで抜刀出来るんだ。その時、剣と呼吸も合う。剣持家の息子なら、それを抜刀してあいつらを倒して見せろ!」
親父が大声でそう言った瞬間あいつらが俺ら目がけて突進をしてきた。
その時間0.2秒。
俺は、目を瞑り、秘剣斑目に語りかけていた。
(お前さんよ、俺はこの状況をどうにかしたい。俺が剣になるって言うのはまだわからねぇが、ここで死ぬ訳にはいかねぇんだ。だから、お前さんの力が借りたい!頼む!)
ドサッという音と共に、目の前にいたあいつらが床に転がっていた。
「ようやく…出来たな…勇斗…」
親父は安堵した表情をしながら、そこからは話さなくなった。