第1話 大賢者エルド
ーーーーーなんでこんなことになってしまったのだろう・・・
「おい!特待生!!グリズベアーを倒しただかなんだか知らないが調子に乗るんじゃないぞ!!」
「お前みたいなヒョロヒョロ魔法使いが剣で魔物を倒せるわけないだろう!」
「どういう小狡い手を使ったか知らんが誰もお前なんか認めてないからな!」
何故俺は名前も知らない帝都ガーディス学園の同級生3名からいきなり罵倒されているのだろうか。
ただ俺は穏やかにあの魔導学院で過ごしたかっただけなのに・・・・
☆
時は2か月前に遡る。
何の変哲もない街で何の変哲もない両親のもとで育った俺はエルド。
幼いころから魔法の才があることが告げられ、その能力を自慢げに行使したら周りから友人と呼べるものはいなくなった。
子供というのは残酷で、一度浮いてしまったら徹底的に叩かれ居場所なんてなくなる。
そうして俺は人と喋ることは苦手になり引きこもりの隠居体質となってしまった。
しかし魔法自体は面白いので人目につかないところで毎日かかさず研鑽をかかさなかった。
遊ぶ相手もいなかったしね・・・・。
両親に心配させまいと将来のため名門の帝都ルビス魔導学院に入学した俺であったが極力目立たないように注力して過ごしてきた。
目立ち方がわからないでは決してない。ホントだよ!?
「さて今日は実地訓練っと・・・」
今日は学院の裏山での実地訓練だ。
なんてことはない、そこら辺の雑魚魔物を弱めの魔法で倒すだけのヌルゲーである。
「では各自、ドロップ品をくれぐれも拾い忘れないように。解散!」
先生の号令と共に生徒が散らばる。
先生は名門学院にて教師をしているだけあり、実地訓練では広範囲の索敵魔法で生徒たちの行使する『放出された魔力』の流れを見張っている。
こうすることで不正なく本人の魔法で倒したかを見張っているのである。
「さ~て今回も適当に狩ってあとはサボっとこうかな」
そう言いながら俺は先生に怒られないラインを見極め、点数が高めの魔物が出る山奥まで出向き目立たない威力で屠る。
周りには生徒もいないからドロップ品を拾って、心置きなくサボーーーー
ドシンと巨大な足音と同時に木が薙ぎ倒される音が聞こえる。
「おいおいおいおいマジかよ・・・なんでこんなところにグリズベアーがいるんだよ!!」
俺の目の前に体長6mはあろう巨大なグリズベアーが姿を現した。
本来ならこんな巨大な魔物がいたら話題になりすぐにでも討伐隊が出向くほどの魔物である。
(どうする・・・魔法で一蹴することも出来るが確実に先生に勘付かれる。逃げ出して先生に伝えることも容易だが他の生徒が出くわしてしまったら・・・)
この程度のグリズベアーなど簡単に屠ること造作もない・・・が目立たないためにはどうするか頭をフル回転させ、とある案を思いつく。
「そうだ!ぶっ放す系の魔法じゃなくて昔覚えた創成魔法で剣をつくろう!」
なんという名案だろうと自分を褒めてやりたい。
創成魔法ならば魔力は体内でのみ完結し、創成される物が生まれるだけである。
これならば先生の感知されず、たまたまこの剣を拾って助かったことにしよう!
早速、剣の作製を始める。
久々の創成魔法だし念入りに魔力を込めて作り上げる。
最後にやったのは幼いころで、今よりも練り上げられる魔力は随分と少なかった。
成長した今練り込みに練り込んだ結果出来上がったものが
[アイアンソード]
所有スキル
・万物切断
・攻撃力上昇+++++
・防御力上昇+++++
・俊敏性上昇+++++
・思考加速
・魔法融合
・金剛化
うーーーーーーん。やりすぎた・・・。
久々に張り切って作ったらとんでもないものが出来上がってしまった。
折角作ったので目の前の熊相手に試し斬りといこう。
律儀に待っていた・・・という訳でなく、一瞬で剣を作り上げた俺に向かってグリズベアーが突進してくる。
「よっしゃ来い熊ッコロ!!」
このひと斬りが今後の俺の人生を大きく変えるなんて、この時は思いもしなかった。
一閃は巨大なグリズベアーを八つ裂きにする。
強化魔法を練りに練りまくったこの剣を装備した俺には熊なんぞ止まって見えた。
グリズベアーは巨大な叫び声をあげて崩れ落ちた。
「なんだどうした!?」
少ししたらグリズベアーの声に反応して先生がやってきた。
俺は予定通りたまたま拾った(ことにする)この剣のおかげでグリズベアーを退治できたことにする。
ーーーが予定とはいつも思った通りにいかないものである。
「エルドくん・・・君がこのなんでもないアイアンソードでこの巨大なグリズベアーを・・・!?」
ん・・・?なんでもないアイアンソード?先生それ何でもなくないよ!?よく見て?アホみたいな性能だから!!!!
なぜ先生がこのアイアンソードの能力を見抜けなかったのかその時のおれは知る由もなかった。
「学院ではパッとしない子だったが本当は剣が得意だったとはね。これほどの芸当が出来るのならば魔導学院ではなく騎士の育成する学校に行くべきだ!」
行くべきだ!じゃないよ違うから、こちとら魔法一筋16年じゃい!
反論したいところだが余計なことを言うと悪目立ちしてしまうと昔のトラウマが蘇って言葉が出ない。
☆
そこからの流れは早かった。
俺がグリズベアーをアイアンソード一本で倒したと噂は一気に広まる。
学院長もホクホク顔で帝都ガーディス学院の学院長へ編入の話を通してあれよあれよと俺の編入の話が決まった。
これほど目立ってしまったらこの学院にも居場所がないと悟り、俺は諦めて転校を受け入れる。
両親は俺には剣士としての才能もあったのかと嬉々としていた。
こうして転校した俺だが、自分が"特待生"として入るなど聞かされておらず・・・
「おい!特待生!!グリズベアーを倒しただかなんだか知らないが調子に乗るんじゃないぞ!!」
「お前みたいなヒョロヒョロ魔法使いが剣で魔物を倒せるわけないだろう!」
「どういう小狡い手を使ったか知らんが誰もお前なんか認めてないからな!」
とこうして無駄にプライドの高い同級生に絡まれているのだ。
こうして俺エルドの望まない自称剣士としての学園生活が始まる。