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故郷は魔王に焼かれて想うもの8

 ヘナヘナとその場にへたり込んだサラ。兄が死んでしまう兄が死んでしまうと、繰り返し。この上兄まで失ってしまってはどうしていいか分からない。ユタも、ニツも、お爺さんも、どうして簡単に命を捨ててしまうんだ––、マアシナの御子ってどんだけなんだ––、命を捨てるほど価値あるのか––、どうして私がそれなんだ––。

 私は、皆んないなくなって悲しいだけじゃないか––。


 小さいお婆さんが後ろに来て、背中をトントンしながら言ってくれた

「良きおのこよのぅ。ほんに良きおのこじゃ。サラや。ここは兄様に任せるがええ。御子は不勉強だと聞いておる。まだ何のプレも使えぬと。弟のユウはまだほんの幼い子供じゃ。出ては足手まといになろう。万事、兄様に任せるがええ」


「でも。兄は死んでしまう」


「そう決めつけたもんでもないぞぇ」


 決めつけたもんでも––、お婆さんの言葉が引っかかった。そうだ、と彼女は確信犯的に思った。私が出て行けば……、私を殺せば奴らは満足して引き上げる……、兄は死なない……。


「ありがとう……、お婆さん……」彼女は言い残して。


 立ち上がり扉に向かった。そこではユウが表へ出ようとして村人達に抱きとめられ、泣きじゃくっていた。

「ユウ、ジタバタして迷惑をかけるな。私がユタを助ける」

「本当? お姉ちゃん」目を擦りながら見上げたユウ。

「本当だ」

 顔を向けた村人達に、彼女は言った。

「開けて……、私が外に出る」

「なりません。あなた様がマアシナの御子と分かった以上、それはなりませぬ。どうかユタミツキ様のお気持ちを無駄になさらぬよう」

「私にとっては、兄の命が無駄になることの方が耐えられない。既に沢山の命が無駄になった。終わらせる」

「一体どうやって?」

 自分が犠牲になるなんて言っては、この人達は絶対に行かせてくれない。

「プレを使って」嘘をついた。

 騙されてくれなかった。

「それが出来ないと聞いているからお止めしています。出来るのならどうぞプレで出て行って下さいまし」

 にべもない返答。ラチがあかない。その間にも剣戟の音響き渡る。蠻族の奇怪な雄叫び、断末魔の叫び、庭に響く。


 格子窓にかぶりつき、外の様子見ていた人たちが彼女を呼んだ。


「サラハナウラ様。こっちに来て見てごらんよ。ユタ様が強いのは知っておったが、これほどとは思わなかった。負ける気がしないよ」

 慌てて人だかりの後ろに立った彼女を、人々は一番前まで通してくれた。彼女は格子窓から外を見た。闘う兄の姿が見えた。


 三匹、四匹、一斉に襲いかかる小鬼、兄は瞬きする間に倒してしまう。貫いた小鬼の体を突き上げ宙に投げ出し、斬馬刀回し石突きで顎打ち砕き、倒れた敵の胸板に斬馬刀垂直に突きおろし、石突き、刃の別なく繰り出して屍の山を築いていく。その姿はまるで天から降った龍神のようだった。繰り出す鋭い鋒は雷神の助力を、躍る素早い身のこなしは風神の助力を得ているかのようだった。

 そのユタを助けて屋根から次々と矢がいかけられていた。


「存外。何も心配することはないかもですよ。サラハナウラ様」気づけば隣で見ていたのは、あの一つ上のお姉さんだった。「あの様子なら、彼奴ら五分もしないうちに諦めていったん退くでしょう。そうすれば籠城して男衆の帰りを待てばいいだけですもの」


 そんなに上手くだろうか、彼女は思った。百科事典で見た蠻族の習性は違っていた。退くことをしない、悪龍の操り人形。


 既に兄の周りには屍の山、嗅いだことのない気持ち悪い臭いここまで届く。血の臭い。吐きたくなる臭い。


 血まみれの斬馬刀振るう兄。雨と降る斧かわし、刃を石突きを繰り出す。貫いた小鬼族を引き倒す。貫き刎ねあげる。小鬼族の体が飛ぶ。刃を廻す、首が飛ぶ。

「死なないで……」祈るように彼女が呟いた時だった。彼女は違う種類の蠻族が塀の上にいることに気づいた。それは灰色で小鬼より大きな体、百科事典で見た通りの姿。蜥人。蜥人は弓を手にしていた。


「危ないっ」彼女は思わず叫んだ。けれど届かなかった。


 放たれた三本の矢が兄を貫いた。一本は胸、二本は腹を。稲妻に撃たれたかのように、その動きが止まった。ここぞと襲い来た小鬼の群れ。


「お兄ちゃんっ!」彼女は叫んだ。同時に妖しく光った胸のケイ、ウェナ。


 ハッとして、しかし驚いたというよりも、確信した。彼女は迷わなかった。龍尾の印左手に結ぶと、兄のすぐ隣を見据え、プレ・レレ(跳躍呪)唱えた。

「フル」

(pule[ppn ]呪文・祈り)

(lele[ppn ]飛ぶ・跳ねる・飛び回る;(流星のように)空中を飛ぶ;跳躍・攻撃)

(fulu[ppn ]羽)

[PPN 古代ポリネシア語・PNP 古代中核ポリネシア語・PEP 古代東部ポリネシア語]


 一瞬で周囲の光景が変わった。彼女は庭にいて、側に兄がいて、蠻族が群がっている。吐きそうな臭い満ちている。血と脳漿と臓腑の臭い。蠻族特有の爬虫類臭。


「馬鹿、なぜ出てきたっ」兄が言った。彼女は答えず。


 群がる蠻族に向かい唱えたはプレ・リピタウア(劍呪)。

(lipi[ppn ]鋭い刃・斧・タガネ)

(taua[ppn ]戦争・軍隊)

「リピリピ」

 八本の剣が蠻族を取り囲み出現して、一瞬後逃さず貫いた。一匹だけではなかった。彼女が走らせた手の先にいた蠻族三匹全て。同時に。ザクザクの串刺しになった。


 目を見張った兄のユタ。彼女は気づかず、自分が今した事が劍呪の常識覆すものだという自覚もなく、ただ、術の効果を見極め「そういうことか」と呟いた。だったら––。

 群がる敵全てに手を走らせ、もう一度プレ・リピタウア。ザクザクと刃に貫かれドッと地に沈んだ蠻族の群れ。一気に減った庭の敵。しかし続々と塀を降りてきている。

 彼女は塀の上に弓持つ蜥人の姿探した。けれどもう姿ない。


 弓の心配は要らない––。


 庭に降り立った群れに向かい、もう一度劍呪唱えた。しかし同じ結果にはならなかった。今度は二匹を倒しただけ。まだ不安定なのだ。舌打ちした彼女は焔呪唱えた。

 四方向へ分散した火球が放物線を描いて宙を飛び集約して敵を撃つ。それが次々と。単体焔呪であると言うのに。


 続いて唱えたはプレ・キエ(蔓術)。

(kiekie[ppn ]つる草・ツタ)

「キエキエ」


 大地を破り、太く茶色い蔓が緑の葉を生い茂らせウネウネと何本も伸びてきて、絡み合い防壁となった。修羅場の只中に一瞬出現した安全圏。彼女は兄に駆け寄り、「お兄ちゃん、この隙に逃げて」叫んだ。


 けれどユタは逃げなかった。「ダメだよ、サラ。それではここは護れない」腹の矢を抜いた。うぐっと呻いた。矢尻には肉が絡みついていた。胸の矢を抜くのは諦めたようだ。きっと太い血管を傷つけていて、抜けば大量の血を失うと考えたからだ。斬馬刀を地に突き立て、しっかと握り体を支えた。


 サラはそんな兄の体にしがみつき、今にも倒れそうなその体支えた。震えている。呼吸が早い。きっと、立っているのもやっとなんだ。


「サラ。マタトアを唱えてくれ」

「うん」彼女はいったん兄の体を離して、前に回り込み、神経呪マタトアを唱えた。

 兄の息づかいが楽になった。

「ありがとう。サラ。痛みが消えたよ」


 斧振るい、蔓の壁打ち倒そうとしている蠻族の群れ。彼女の呪文はまだ未熟で、今にも崩れ落ちそうだった。その蠻族に向かい、兄は不敵に、そして誇らしげに言った。

「俺の妹が本気になったら、貴様ら蠻族など敵うものか」


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