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瀧川おばさんとベルゼブブおばさんのほっこり異世界子育て騒動  作者: ネオ・ブリザード
第二章 勇者ふたり、次の日も魔界に遊びに行く
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第1話 勇者の住む街、スプリハル

 これは、幾多ある異世界の中のひとつの物語……。

 異世界にはよくある、人間と魔族の戦いがここでも起こっていたが、その戦いも先日、終戦を迎えた……。はずだったのだが……。


 ここは魔界のサタン城。その最奥を今、ふたりの勇者が突き進んでいた。


「ゆ、勇者だー!! 勇者が攻めこんで来たぞー!!」

「なんだとー!! 昨日の今日で攻めてくるとはいい度胸だ!」

「また、サタン様の命を狙いに来たんだろうが、そうはいかん!」

「昨日は、不覚をとったが、油断しただけだ! 今日は本気出す!!」

「先輩、あの勇者、子供をだっこしてませんか?」

「知るか! そんなこと! とにかく何としても、ここで追い返すんだ!!」


 先日、最終決戦を迎えたはずの魔族達は、疲弊している戦力をかき集め抵抗するも、ふたりの勇者の奇襲に右往左往する。……何故、こんなことになったのか? 事は日の出前に遡る。


 この異世界には王国都市バルカスを中心に、東西南北にひとつずつ街が存在する。北の街ウィンフユ。東の街アキタム。南の街サマナツ。そしてもうひとつ、西の街スプリハル。その4つの街を丸く取り囲んだ所が、王国都市バルカスの領土となっている。


 スプリハルの街の主な財源は農作物。それを王国都市や、近くの街、隣国等に出荷して財源を得ている。また、一年中を通して温暖な気候として知られている。そのスプリハルの町外れにふたりの勇者は住んでいる。


 ひとりは女勇者、姓は瀧川(たきかわ)、名を(ゆう)。桃色の髪を後ろに束ね、ポニーテールにしている。もうひとりは、男勇者、姓を本明(ほんみょう)、名は清三郎(せいざぶろう)という。金の髪は刈り上げ、さっぱりした感じだ。ふたりはお隣さん同士で、家と家の間は、垣根で仕切られている。


 朝、瀧川優の家の中にやわらかい陽射しが、入り込む。瀧川優は、もう起きていた。


 昨日は、プレートメイルを着けて魔族と一戦交えていたが、今日は違う。いわゆるお母さん衣装。普通の服をきて、普通のスカートをはく。そして、エプロンを腰から回して紐を後ろで結び、炊事場に立つと、朝御飯の準備を始める。


 炊事場には窓があり、そこから外にいる清三郎の姿が見える。清三郎は、運動をしているようだった。瀧川優が後ろを振り返ると、刻を知らせる円盤が壁にかけられていた。円盤には長い針と短い針があり、長い針は【北】を、短い針は【南南東】を指していた。するとはるか遠くの方から、鐘の音が5回聴こえた。


「そうだ、野菜取って来なきゃ」


 瀧川優はエプロンを脱ぐと、家の外に出て食物を保存している所に向かう。

 庭で運動をしている清三郎。瀧川優に挨拶をする。


「おお、優、おはよう。どこへ行くんだい?」


 瀧川優も挨拶を返す。


「おはよう、清三郎。ちょっとね、野菜を取りに保存庫へ。(めぐみ)ちゃんは、まだ寝てるの?」


 (めぐみ)ちゃんというのは、本明清三郎の一人娘のこと。

 10歳くらいで金に輝くストレートの髪は、肩甲骨よりも下に伸びている。まぶたは半開きに見え、目尻はたれた子だ。


「いや、もう起きてるよ。今日から一緒に居られるもんだから、喜んじゃって。朝御飯を作ろうと思ったら『今日は、私に作らせて!』だってさ」


 清三郎は、笑みを浮かべながら話す。


「清三郎、料理、駄目だもんね」


 ちょっと意地悪く言う瀧川優。清三郎はもしゃもしゃ頭をかきながら、


「そ、そんなこと言うなよ……。いや、その、その節はお世話になりました……」と、ばつを悪そうにいう。


 冒険時代、森の中や、高山で野宿するのはよくあること。

 野宿するとなれば、当然食事を用意しなければならない。その時の飯番は決まって瀧川優だった。食事の用意ともなれば、他にも仕事はあるが、その割合は7:3、いや、8:2だったかもしれない。その食事の用意をめぐって、瀧川優と清三郎は一度だけ大喧嘩をしたことがあった。



 それは理由あって、怪鳥の住む高山に登山した時のこと……。



「いい加減にしてよ! 清三郎!! だいたい貴方もたまには食事を作ってくれてもいいのよ!?」


 岩山がゴロゴロ転がる高山。そこで食事の用意をしていた瀧川優は、急に立ち上がって怒声をあげる。


「そ、そんなこと言われても、俺は料理は、ほら、何て言うか、からっきしだし……」


 清三郎は、岩のひとつに座りながら、手のひらを瀧川優の方へ向けて、弁解する。その態度が余計気にさわるようで、


「そんなことばっかり言って!! いっつも何もしないじゃない!! 昨日だって出来た料理、運んだだけでしょ!? 食材探しも、火を起こすのも、私がやったのよ!? だいたい男だったら、火を起こす事ぐらい出来るでしょ!?」


 と、瀧川優は清三郎に喰ってかかる。


「いや、それは、だって……、ほら……」

「だって、なによ?」


 言いよどむ清三郎に瀧川優は、更に喰いかかる。


「な、何が食べられるか、よく解らないし……」

「役立たず!!」


 もごもごと話す清三郎に瀧川優は、きっぱりと言い放つ。

 流石に、これには清三郎も黙っていられなかったようで、


「そ、そんな言い方は無いだろう!? 俺だって、やることはやってるし!」


 と、言い返す。が、瀧川優は、すぐに、


「やってるって何を?」と、聞き返す。


「そ、それは、魔獣退治や、魔物退治や、魔虫退治とか……」


 その答えを聞いた瀧川優は、怒りが頂点に達する。


「そ・ん・な・こ・と、私もやってるわよーーーー!! だいたい、何で日中は同じ事をやってるのに、夜、食事の用意は私だけがやらなきゃいけないの!? 納得いかないわ!!」


 瀧川優、怒りが収まらない。


「そこまで言うなら、明日の飯は俺が用意してやる!! ちゃんとした飯が作れるところを、見せてやる!!」

 清三郎、ついに言った。


「ええ! 作ってみなさいよー!! (ていうか、何で今日じゃないの?)」

 瀧川優も言ってしまった。


 そして次の日の夜。食事の時間、今までに無い沈黙がふたりの間に流れた。


「ごめん……、清三郎。明日から食事は、私が作るね……」

「すまん……、優。本当にすまない……」

「ううん……、清三郎は、よく頑張ったよ……。だって、毒草が入ってないんだもん……」

「優……、それ、慰めになってない……」


 岩に座り、器を持ちながら項垂れるふたりがそこにいた。

ようやく、第2章をお目にかけることができました。

この小説をもし、楽しまれてる方がいらっしゃったら、非常に嬉しく思います。


更新は遅くなりますが、内容が濃いものになれば良いなと思います。

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