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瀧川おばさんとベルゼブブおばさんのほっこり異世界子育て騒動  作者: ネオ・ブリザード
第一章 大魔王サタン、女勇者にだっこされる。
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第6話 そして、和平

「でも、まあ、そろそろ……」


 と、言うと、笑みを浮かべ、右手をベルゼブブに差し出す瀧川優。

 それを、なんとなく、条件反射的に握り返し、握手してしまうベルゼブブ。


「これで、和平ってことでいいわよね?」


 瀧川優は、自分の出した手を握手することで、和平に同意したことにしようとする。ちょっと詐欺っぽい。


「え!? ちょっ!? ち、違うわよ!!」

 当然、ベルゼブブは、反論する。


「まあまあ、もう良いじゃない? それに……、息子が待っているから、そろそろ帰ってあげないとね」


 瀧川優は、しれっと自分が子を持つ母親であることを打ち明ける。


「息子がっ……て、貴方、母親だったの!?」驚くベルゼブブ。


「そうよ? 私、息子が一人いるの。卓人って言うの」


 何の気なしに、瀧川優は話す。そういえば、清三郎は娘がいると言っていた。一児の父のようです。


「ゆうしゃのおばさん、帰っちゃうんですかー?」


 と、次子ちゃんがちょっとだけ寂しそうに言う。その顔を見た瀧川優は、次子ちゃんの前に屈むと、


「そうなのー、息子が待ってるから、早く帰らないと♪ ごめんねー♪ 次子ちゃん♪」


 へにゃっとした顔をしたかと思うと、次子ちゃんの鼻の登頂部に人差し指を【ぷ♪】と、置く。


「ゆうしゃのおばさん、また、遊びにこいよ! 待ってるからな!!」


 一郎くん、すっかりゆうしゃのおばさん……じゃなくて、瀧川優がお気に入りみたい。


「分かった、一郎くん! 今度、息子を連れて遊びに来るから!!」


「本当か!? やったー!」


 瀧川優、一郎くんと指切りげんまんします。一郎くん、大喜び♪

 ……いやいや、魔界には人間がおいそれと、遊びに来ちゃ駄目だと思います。息子を連れて、遊びに来ちゃ駄目だと思います。


「……じゃ、……という事で……」


 と、言うと瀧川優は体をゆっくりと起こし、


「明日、また息子を連れて、遊びに来るから!!」


 と、ベルゼブブに向かって親指を【ビッ!】と立て、いい笑顔で言った。


「二度と来ないで!!」


 ベルゼブブ、即答。……すると、悲哀に満ちた感情が、足元からする。


「ええぇぇ~ー…………。おばさん達、来ちゃだめなのー……?」


 その正体は、さたんちゃん。目に涙をため、今にも泣きそうです。


「え!? あ、ああ、あの! 申し訳ありません!! サタン様!! そういう意味では無いんです!!」


 ベルゼブブ、大慌て。そういう意味じゃないってどういう意味なんでしょう?


「あーあ、さたんちゃん、泣ーかせた♪」

「うるっさい!!」


 ちょっと、からかい気味に言う瀧川優。それに対し、ベルゼブブ、ちょっとだけぷんぷん。


「じゃあ、俺も明日、娘を連れて遊びに来ます!」

「えぇ、是非来て下さい!!」


 いつの間にか、清三郎とアザゼルは、男の友情みたいなのが芽生えちゃってます。そこへ、瀧川優が割って入る。


「清三郎、そろそろ帰らないと」

「お? おう、そうだな」


 そして、サタンの部屋を出て、階段へ向かう瀧川優と、清三郎。


「ゆうしゃのおばさん、またねー!!」さたんちゃん。

「また来て下さいねー!!」次子ちゃん。

「待ってるからなー!!」一郎くん。


「みんな、またねー!」


 瀧川優は、さたんちゃんや一郎くん達に手を振る。


「では、アザゼルさん、また!」

「ええ、お気をつけて!!」


 清三郎とアザゼルは、別れの挨拶をする。


「ま、また来て下さいね……」


 リザベルは、胸の辺りで小さく手を振った。

 そして、瀧川優と清三郎は、階段を降りて行き、姿を消した。


 とたんに、ベルゼブブはぷっつりと糸が切れたかのように、ふっと、力が抜け、崩れ落ちるようにその場に座り込み、一言「つ……疲れた……」と呟く。


「大丈夫か! ベルゼブブ!!」

 アザゼルが心配して駆け寄る。


「えぇ、大丈夫よ、アザゼル。ちょっと気が抜けただけ」

 心配させまいと気丈に振る舞うベルゼブブ。


 ベルゼブブは、心の奥底で(良かった……)と思った。何が良かったのか? さたんちゃんを護れたこと? 自身の命を守れたこと? 我が子と一緒にいられること? 答えは至極簡単、そのすべてである。

 ベルゼブブは、母親の笑みを浮かべ、無意識のうちに我が子の頭を優しく撫で続ける。いつまでも。いつまでも。その優しい手は、我が子の声でようやく止まる。


「ままー、お腹すいたー!」四葉ちゃんだった。


 ベルゼブブは我に返る。


「まんまー! おなかすいたー!!」末子ちゃんも話しかける。


「ご、ごめんね、お腹空いたよね!?」

 ベルゼブブは、申し訳なさそうにする。


「かあ様、はやくお家に帰りましょう!!」


 次子ちゃんが、ベルゼブブの左袖をひっぱる。すると、ベルゼブブはゆっくりと立ち上がり、


「そ、そうね、お家に帰って、早くご飯にしましょうね」

 と、言った。


「やったー!!!!!」


 喜ぶ子供達。その中で一人だけ、うつむいている子がいた。さたんちゃんだ。


「ごめんね……。ベルおばさん……」

「え? どうしてですか?」


 小声で謝るさたんちゃんにベルゼブブは優しく問いかける。


「だって……、ぼくのせいで、おばさんたちに、めいわくかけちゃう……」


 今にも泣きそうな、さたんちゃん。


「なんだよ、さたん! おれたちもう、家族じゃないか! そんなこと、気にすんな!!」


 励ます一郎くん。


「え……? でも……」と、さたんちゃん。


「そうですよ、サタン様。私達、もう、家族じゃないですか」


 ベルゼブブは、にこりと微笑む。そして……、


「さあ、サタン様、一緒に帰りましょう」


 さたんちゃんに手を差しのべる。その瞬間、パッと、さたんちゃんの顔が明るくなる。そんな微笑ましい光景に、水を差す出来事が。


「なあ……、ベルゼブブ……。あれ……」

 アザゼルが、扉の方を指差す。


「ん?」


 ベルゼブブは、扉の方を振り向く。……すると、居なくなったはずのふたりの勇者……、瀧川優と本明清三郎が、扉の陰から温かーい目で、微笑ましく、ベルゼブブ家族の光景を覗き見していた。ベルゼブブは耳まで赤くする。


 そして一言、


「早く帰れー!!」




 人間界と、魔界をつなぐ道、クナンの洞窟。その洞窟を、瀧川優と本明清三郎が人間界に抜け出る頃には、空はすでに暗く、満天の星が輝いていた。その空の下で、瀧川優は伸びをした。


「ううーーんっんっ!! とっ」


「疲れたか?」清三郎が声をかける。


「んー? まあ、流石にね。本当なら、サタン王と死闘になってたかもしれかったからね。結構、気を張ってたわね。でも、あんなことになっちゃったし」


 瀧川優は、竹刀を地面に突き立てると、それに寄り掛かりって話す。


「おーれっもっ! だっ! はっふー!」

 清三郎も両手を空に向け高く上げ、盛大に伸びをした。


「ここで少しダベっていきたいが、そうもいかないな。娘を親に預けてる。優、早く帰ろう」


 と、清三郎は瀧川優を急かす。


「あー……、そうだった。私も卓人を母さんに預けてるんだった。迎えに行かないと」


 瀧川優は、竹刀から身体を起こすと、「帰ろっか」と言い、清三郎と一緒に、自分達の住む家がある街スプリハルへ向けて歩み始めた。


 ようやく、スプリハルの街門を通る瀧川優と清三郎。


「ここで、一旦お別れだな。優」

「ええ、清三郎。じゃ、また」


 瀧川優と清三郎は、別れの挨拶を交わす。清三郎は娘を預けてる、母の家に歩き出す。瀧川優は、清三郎に背を向けると、我が子を迎えに、反対方向に歩みだした。




「ごめんねー、母さん。いつも世話をかけちゃって」


 そこは、瀧川優の母方の家。その玄関先で、瀧川優は、自分の母親からすっかり寝入ってしまった我が子、卓人を起こさないように、自分の胸に抱きしめる。卓人は、寝ていても瀧川優に抱かれていると判るのか、ほっとしたかのように、胸に顔をうずめる。


「優、大丈夫なのかい? 母さん、いつも気が気でないよ……。その仕事、何とかならないのかい?」


 瀧川優の身体を心配する母親。いくつになっても、親は子を心配するものだ。


「もう! 心配し過ぎよ、母さんは! 私なら大丈夫だから!」


 気丈に振る舞う瀧川優。が、すぐに叱咤される。


「お前はいつもそればっかりだよ! 聞き飽きたよ、その台詞! 卓人はね、お母さんはもう、帰って来ないんじゃないかって! その気持ち、お前にわかるかい!?」


「ご、ごめんなさい……」少しへこむ、瀧川優。


「別に頼まれてお前の事、心配してるんじゃないんだよ!」


「は、はい……」 更に叱られる瀧川優。


「このままじゃ、卓人が可哀想だよ。もう少し一緒に居てやれないのかい?」

 母親の心配は尽きない。


「それならもう大丈夫。明日からは、一緒にいられる時間、増やせると思う」

 と、瀧川優は答える。


「ほ、本当かい!?」


 心のつっかえが取れたような、弾んだ声を出す母親。


「うん、もう魔物と戦う必要も無くなったしね」


 卓人の顔を見ながら笑顔になる瀧川優。


「良かったよ! これからは、もっと一緒に卓人といてやるんだよ」母親も笑顔になる。


「分かったってば! じゃあもう遅いし、帰るね」


 そう言うと、瀧川優は卓人を抱き、我が家へ帰っていった。


「気をつけて帰るんだよ! ……はぁ、それにしても、なんというか、複雑な気持ちだね。これから卓人に会う機会が減ると思うと、寂しくなるんだから」


 母親は、瀧川優の背中を見送りながら、そう呟いた。


 町外れ。家がまばらに建ち並ぶ。そよ風が吹くと草花がさわさわと音を奏でる。土で出来た道を歩いていくと、平屋の一軒家にたどり着く。そこは瀧川優の住む家。隣には本明清三郎の住む家が建っている。ふたりは、お隣さんどうしだった。清三郎は、もう帰って来ているようだった。窓から明かりが見える。瀧川優は、玄関を開け、


「はー、ただいま……」


 ため息をつく。


 家の中は部屋のしきりは無い。あるとすれば、奥の方に身体を洗うための浴場、そして、トイレがあるくらい。あとは、屋根を支える為の柱があるだけ。窓際にはベッドがあり、玄関のすぐそばには、いわゆる炊事場がある。部屋の真ん中には食事をするためのテーブルが置いてある。瀧川優は、家の中に入ると真っ直ぐベッドに向かう。


「いつもごめんね……、かまってやれなくて……」


 寝息をたてている卓人を、そっとベッドへ寝かせる。そして、そのままベッドに腰掛ける。


「でも、これからは一緒にいられるからね」


 幸せそうに寝ている卓人の頭を、瀧川優は優しく撫でる。


「お母さん……」


 卓人の寝言。それを聞いた瀧川優は、卓人の前髪を上げ、額にふわりと口づけをした。


「おやすみ……、卓人……」

これにて、第一章は終了となります。


ここまでお読み頂き、楽しんで頂けたなら幸いに思います。


そして、もし面白いと思って頂けたなら、

ブクマ、評価をお願いします。


第二章も『ほっこり子育てファンタジー』を目指して頑張りますので、よろしくお願いします。

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