第4話 ベルゼブブ、怒り爆発
「はー♪ 堪能しました♪」
「はー♪ 堪能しました♪」
瀧川優と本明清三郎は、顔を腕で拭うと、満面の笑みでこう言いました。
「堪能しないで!」
ベルゼブブは、瀧川優と清三郎に向かって、ちょっと眉をつり上げながら言います。
ベルゼブブは、自分の子供を手元におくと、こう言います。
「お……、お願い……、サタン様と、私の子供には手を出さないで……」
悪魔ベルゼブブもやはり母親、自分のことよりも子供達のことを第一に考えます。
しかし、それを聞いた瀧川優は真顔になって、
「は? なに言っているの?」と、ベルゼブブに言い放ちます。
「お願い!! もう、貴方達には手は出させないから!! 命だけは取らないで!!」
ベルゼブブは、子供達を包みこむように抱きしめ、うずくまりながら瀧川優に懇願します。しかし、瀧川優は言います。
「やだー♪ ベルゼブブさん、こーんな純真無垢な子、手にかけるわけ無いじゃなーい♪」
へにょっとした顔で。
「ああ、こんな無邪気な子供を傷つけるなんて、無いですよ。ベルゼブブさん」本明清三郎も答えます。
まあ【や~ら~れ~た~♪】ごっこに全力で付き合ってあげているので、命を取ることは無いでしょう。しかし、悪魔の子が純真無垢で邪気が無い子供というのも、何か矛盾していると思いますが。
でも、
「で、でも、貴方達、ここに来るまでに私の仲間達を倒して来たんでしょう?」ベルゼブブは、信じられません。
「え? 倒してなんか無いわよ?」
「ああ、追い払っただけだ」
瀧川優の言葉に、清三郎が流れるように、言葉を継ぎ足します。
そう、瀧川優と本明清三郎は襲いかかって来る魔物達を追い払っただけ、無力化しただけだった。
「でも、サタン様の命を狙いに来たのよね?」
ベルゼブブが問いかける。
「違う、違う。サタンを倒しに来たんじゃなくて、懲らしめきたの」瀧川優が、答える。
「……え? 懲らしめるって、どういうこと?」
ベルゼブブが変な顔をします。……まあそうでしょう。
「こらー! 人間を困らせちゃ、駄目だぞー! ……って」
瀧川優が両腕を上に挙げて【こんな感じ】みたいに言う。
「……なにそれ!? 意味が解らない!!」
ベルゼブブは少し困惑気味になる。それに対し瀧川優は、少し顔を伏せ気味にして、
「だって……」
と、呟いたかと思うと、次の瞬間、顔を上げ
「だって、いくら魔物だって親子の魔物がいるじゃない!? そんな親子を攻撃して、親が居なくなったら子供が可哀想でしょう!!」と、豪語した。
ベルゼブブは、「………………」少しの間沈黙してしまう。ベルゼブブも、五人の子を持つ母親。
(もし、この子達を残して、私が死んだら生きて行けるの? まだ小さいのに! ううん、まだ死ねない!!)
こんなことを考えるのは、子を持つ母としては当然である。瀧川優の言葉に反論できずに押し黙ってしまうのは仕方の無い事かもしれない。だが、ベルゼブブは何とか口を開き、
「……そ、そんなの、勝手よ! そっち側の……、人間のエゴでしょ!!」と、反論する。
「そうよ! 勝手よ! エゴだってことは、偽善なんじゃないかってことは分かってるわ!」
瀧川優は体を振るわせながら言う。そして、
「それでも可哀想って思っちゃうんだから、しょうがないでしょうー!!」
ベルゼブブに顔を近づけ(めっちゃ近い)、目に涙を浮かべながら訴える。ちょっとどっきりする、ベルゼブブ。
「そうだ! そうだー!!」
清三郎も目に涙を浮かべながら、ベルゼブブに顔を近づけ(めっちゃ近い)訴える。ちょっとびっくりするベルゼブブ。
「あ、うん、そうですか……」ベルゼブブさん、押し負けちゃいました。
瀧川優は「まあ、でも……」と、言いながら、さたんちゃんの前で屈むと、両腕を伸ばし、さたんちゃんの両脇から手を入れると、そのまま抱っこした。
「この戦いも、これで終わり……。だって、懲らしめようと思ったサタン王も居ないわけだし。子供のさたんちゃんには、罪は無いわけだしね」
そのさたんちゃんを、瀧川優は右腕をお尻から通すと、胸元でだっこし直す。さたんちゃん、今度は嫌がらない。
「この戦争が終わり!? 何言っているの!? それに、勝手にサタン様をだっこしないで!」
納得がいかないベルゼブブ。両腕を広げ、さたんちゃんを返すように要求する。
「……ほら♪」
瀧川優が微笑みを浮かべ、ベルゼブブに声をかける。
「何が!?」
困惑するベルゼブブ。
「本当にさたんちゃんや、一郎くん達に手を触れさせたくないなら、だっこなんかさせないわよ。腕を伸ばした瞬間に業火で灰にすることも出来たでしょ?」
瀧川優の言葉に、ベルゼブブは頬を赤くする。そして、
「………………」
また押し黙ってしまった。正にぐうの音もでない、そんな感じだった。だが、何とか胸の奥の想いを喉元まで押し出し、口にすることに成功する。
「そ……、そんな事したら、子供達が大変なことになるでしょ……」
それを聞いた瀧川優は、こう答える。
「母親ね、やっぱり♪」
そう言われたベルゼブブは、顔を真っ赤にさせる。
「なんなのよ!! もう!!」
「子供達の笑顔で和平した……。もう、それでいいじゃない」
「それは……、そうね……。でも……、それは……、ちょっと……、しかし……」
瀧川優のとんでも無い提案。それに対し、ベルゼブブは玉虫色の返答をする。そこで、瀧川優は、別の質問をする。
「そういえば、ベルゼブブさんの夫? お父さんはどうしたの? ……もしかして、事故に巻き込まれたとか?」
しばらくブツブツ言っていたベルゼブブ。しかし、瀧川優に「お父さんは?」と、聞かれた瞬間、態度が豹変する。
「あの人の話はしないで……」
急にベルゼブブの周りに、暗黒のオーラが立ち込める。
「あ、あれー? ベルゼブブさん?」
これはまずい。瀧川優はそう思った。触れてはいけない過去に触れてしまった。しかし、手遅れだった。
バアァン!!!
ものすごい爆音がする。
「ぎゃー!!」
「ぎゃー!!」
驚く瀧川優と清三郎。
「ぎゃー!!」
「ぎゃー!!」
「ぎゃー!!」
「ぎゃー!!」
「みぎゃー!!」
「ぴぎゃー!!」
さたんちゃんと、一郎くん達も、ベルゼブブの側から離れ、急いでふたりの勇者の後ろに隠れる。すごくビビってます。
「あんの野郎!! 子供がいるのにろくに働きもしないで!! 私がどれだけ苦労してると思ってるの!!」
激昂するベルゼブブ。と同時にベルゼブブの周りを覆っていた暗黒のオーラが、もの凄い勢いで部屋の約半分を覆っていく。その速さは、瀧川優と清三郎を業火で取り囲んだ時よりも速い。どのくらい? そんなの、数値では表せませんよ。
「しかも何!? 私が、末子を身ごもっているときに急に居なくなるなんて、何を考えてるの!? サタン様の代わりにあの人が死ねば良かったのよ!!」
ベルゼブブさん、鬼の形相……、というよりは悪魔の形相です。しかも、まだ止まりそうにありません。
「だいたい、私が子供達をかまっている時に何!? あの人ったら!!『お腹痛めて産んだ子だから、俺よりも子供の方が可愛いんだろ?』とか言って!! そんなの母親なら当たり前じゃない!? 頭おかしいんじゃないの!?」
ベルゼブブさん、止まりそうにありません。
「そんなこというなんて、父親として駄目だよなー……」
清三郎さん、ベルゼブブさんの話を聞いてビビりながら賛同します。
「あいつ、今度私の前に姿を見せたら灰にしてやるから!!」
ベルゼブブさん、言うだけ言うと拳を握りしめ、扉に向かって振りかざします。
「ぬあぁーーい!!」
ゴキャン!!
その時です。ベルゼブブの拳に鈍い痛みが走ったのは。