第3話 「あーーーーーーー!!!!!!」の正体
「お前ら! 母ちゃんをなかせたなー!!」
「なにをしたんですか! ぜったい、ゆるしません!!」
「ぜったい、やっつけてやる! かくごしろー!!」
「しゃきーん!! です!!」
「あー!!」
何人いるだろうか? 一人、二人、三人、四人、五人いる。その子達はベルゼブブの方へ駆け寄って行き、瀧川優と本明清三郎からかばうように両腕を広げながら立ち塞がった。
瀧川優と本明清三郎は、両手を心臓の辺りに持って来て、ぎゅっと握りしめるとこう思った。
(キュン♪ ときたー!!) ふたりの勇者
(俺、こういうのダメ♪ なんていうか♪ もう♪ もう♪) 本明清三郎
(たまらん♪ たまらん以外に何か言葉ある♪ 無いよね♪) 瀧川優
「一郎ちゃん!」
サタンちゃんが五人の子供のひとりに声をかける。
「おう、さたん! おれたちが来たからには、もうだいじょうぶ、だからな!」
一郎ちゃんと呼ばれた男の子がサタンちゃんに応える。髪は黒く、ぼさぼさ。石鹸で頭を洗ってそう。
ベルゼブブは我が子の登場にオロオロするばかり。
「お、お前たち!? どうしてここに!? ここには来ちゃ駄目って言ったでしょ!! どうやってここまで来たの!?」と、
子供達に聞く。その問いに一郎ちゃんが答える。
「おう、それな。なんかみんな、やる気ないみたいだから、簡単にここまでとおしてくれたぞ!」
瀧川優と、本明清三郎のせいです。業火も時間が経っているので消えていたでしょう。
「それよりもおまえたちー!! 母様をなかせて、ゆるしませんからねー!! この次子がやっつけてやります!」
ふたりの勇者に指を差すこの女の子は次子ちゃんという名前のようです。一郎ちゃんと同じ顔をしていますが、髪の色は銀髪で肩の辺りまで伸びています。どうやら、双子のようです。可愛いですね♪
「そっかー♪ お嬢ちゃんはー♪ 次子ちゃんていうのかー♪」
瀧川優、次子ちゃんの前にしゃがみこみ、とろけた顔で頭をなでなで♪
「あたまを、なでないで下さい!」
次子ちゃん、両手を頭において嫌がります。
「えー♪ じゃあー♪ そっちの子はー♪ 何て名前なのかなー?」
瀧川優、今度は次子ちゃんの隣にいる男の子の頭をなでなで♪
「おばちゃん、しらないの!? しらないひとに、なまえ教えちゃいけないんだよ!! ……あたまなでないで!」
その男の子は頭を撫でられながら、まともなことを仰います♪
「そうよ! ひろしちゃん!! ぜったいになまえを教えちゃだめよ!」
「なんで教えちゃうんだよー! 次子ねーちゃんのバカー!!」
ひろしちゃん、次子ちゃんにあっさりと名前をばらされます。ひろしちゃんは髪が黒く、一郎ちゃんと似た髪型をしていますが、結構まとまった髪をしています。3歳くらいかな♪
「きみたちはー♪ お名前なんていうかなー♪ おじさんにおしえてくれるかなー?」
今度は本明清三郎がとろけた顔で、残りのふたりの女の子に聞きます♪
「だめだ! 教えんな!」
ひろしちゃんがふたりの女の子に名前を教えないように止めますが、
「わたしがー、四葉でー、この子がー、末子なのー」
「あー!」
四葉ちゃんあっさりと自分と、もうひとりの女の子の名前を教えます。
「もー! どうして教えちゃうのー!?」
ひろしちゃん、ぷんぷんです。
四葉ちゃんは髪の色が銀髪で、おかっぱ頭な感じです。
末子ちゃんは銀髪、すっきりショートヘアです。
これで図らずも、ベルゼブブのお子さんの自己紹介が済んでしまいました。一番上の子から、
一郎くん 長男
次子ちゃん 長女 (一郎くんと双子)
ひろしくん 次男
四葉 次女
末子 三女
だそうです。みんな、頭にハエの目と触角がついています。ベルゼブブさん、5児の母だったんですね。
「おまえー!! おれは業火の炎が使えるんだからな! それでやっつけてやるー!!」
一郎くん【業火】と【炎】で意味が被っています。
「おー? 一郎くん、おばさんに勝てるかなー♪」
瀧川優は、竹刀を一郎くんに向けてこう言います。
……ん? 竹刀? 瀧川優、竹刀でサタン城に攻めこんだんかい!?
しかも本明清三郎の持っていた武器は、木刀でした。
「魔法で強化して折れないようにしたから大丈夫」だとか。
……本当か?
「くっそー!! ばかにしやがって!! くらえ!! 業火の炎ー!!」
一郎くん、両手から業火の炎を瀧川優に向かってはなちます!
(あったかーい♪)
瀧川優、一郎くんの業火の炎を受けて、つい、こう思っちゃいました。
業火の炎とか言ってますが、実際には炎は出ていません。一郎くんの両手から空気が揺れているのが見えます。熱は出ています。あったかーいのが♪ 30分も受けたら、肩こりが治りそう♪
……しかし、
「くぅ……」なぜか、瀧川優は片膝をついてしまいます。
「やるわね! 一郎くん!」本当は全然こたえていません。
「どうだ!! まいったか!!」一郎くん、嬉しそう♪
「つぎは、次子のばんです!! 次子は八寒がつかえるんですからね!!」次子ちゃんは吹雪が使えるようです。
ちなみに、ここでいう【八寒】とは【八寒地獄】のことです。【八寒地獄】とは、亡くなった方が罪の重さによって、八段階の寒さの地獄に落とされるとか。次子ちゃんは、その地獄の吹雪が使える、と言いたいようです。
「マカハドマ・ブリザードを、くらうといいです!! えーい!!」
次子ちゃん、両手から吹雪を出します!
(ここちよーい♪)
瀧川優は心の底から思います。お肌をくすぐるようなそよ風が、次子ちゃんの両手から出ています。気持ちよくて、お寝んねしそう♪ これが本当の吹雪だったら、寝てしまうと大変なことになりますが、そよ風なので大丈夫♪
……しかし!
「もうダメ! おばさん、負けちゃいそう!!」
次子ちゃんの方に頭を向け、うつぶせになりながらこう言います。
「どうですか!! 次子はつよいんですからね!」
次子ちゃん、楽しそう♪
「ほーら、肩車だぞー♪ 落ちないようになー♪」
本明清三郎は、いつの間にか四葉ちゃんを肩車しています。
「きゃー♪ おじちゃん、たかいよー♪」
四葉ちゃん、すっかり、清三郎おじちゃんと仲良し♪
さすがに、末子ちゃんはベルゼブブがだっこしています。
「四葉ー!! 何でなかよくなってるのー!!」
ひろしくん、怒っています。
「おー? 今度はひろしくんが肩車したいのかなー♪」
本明清三郎がひろしくんに聞きます。
「やらないよ!! おれはいなづまが使えるんだぞ!! 泣いてもしらないからなー!!」
ひろしくんは、雷が使えるようです。ひろしくんは、指を差しながら右手を挙げ、本明清三郎に向かって振り下ろします!
ガッシャーン!!!!
「ぎゃー!!」
ひろしくん、自分の出した稲妻の魔法にびっくりして、頭をかかえてしゃがんでしまったようです。でも実際には、稲妻は出ていません。音だけです。雷が怖いみたい♪
「あー! まんまー!! すえこ、いくー!! おりるー!!」
「だ、駄目よ! 末子! 危ないでしょ!!」
ベルゼブブにだっこされている末子ちゃん。一郎くん達と一緒に混じって遊びたいのか、地面に降りようと、身体をぱたぱたさせますが、それをベルゼブブが抑えます。
「よし、さたん! おまえの番だぞ! おまえの魔法【ねお・ぶりざーど】でたおすんだー!!」
「うん、わかった!! 一郎ちゃん!!」
ベルゼブブの後ろに隠れていたサタンちゃん。一郎くんに促され、皆の【たたかい】に加わります。
「ネオ・ブリザード?」瀧川優が聞きます。
「そうだぞ!! さたんの【ねお・ぶりざーど】はすげーんだからな!!」
「そうです!! 次子の八寒よりもすごいんです!!」
一郎くんと次子ちゃん、息巻いて説明してくれます。
「どう凄いの?」瀧川優が聞き返します。
「ちょーすげーんだ!!」
「ちょーすごいんです!!」
「そっかー♪ ちょーすごいんだー♪」
一郎くんと次子ちゃんの説明になってない説明も、瀧川優は事も無げに受け入れます。
ネオ・ブリザードとは吹雪の魔法で、この異世界オリジナル(になる予定)の最強魔法です。世界の終焉を迎えるほどの力をもっています。まともに喰らえば、ふたりの勇者もただではすみません。先代サタン王が使えば。
「ね、ね、ねお・ぶりざーどー!!」
さたんちゃん、ついに、両手から最強の魔法ネオ・ブリザードをはなちます!
「まひぃん♪」
ちょっと変な声を出しちゃった、瀧川優。さすがは先代サタン王の子供、次子ちゃんみたいにそよ風ではなく、ちゃんと氷の結晶がきらきらゆらゆら出ています。でも、威力的には大したことはありません。例えば、怪我をして炎症を起こした部位に、湿布を貼った、あんな感じ。
……ですが、
「や~ら~れ~た~♪」と、
言いながら瀧川優は、横に寝そべります。本当は全然やられていません。笑顔! いい笑顔!!
「やったー!」
「やったー!」
「やったー!」
一郎くん、次子ちゃん、さたんちゃん、鬼の首を取ったように喜びます。
「よーし!! 次はあいつだ!!」
一郎くん、四葉ちゃんを「たかいたかーい♪」して、きゃっきゃっうふふ♪ している本明清三郎に向かって指を差します。
「んー? どうしたのー? 一郎くん♪」
【どうしたのー?】ではありません。本明さん。
「こんどは、おまえをやっつけてやる! かくごしろ!!」
一郎くん、鼻息を荒くしてこんなことを言います。
「おー? おじさんは強いぞー? 勝てるかなー♪」
本明清三郎は、この後の展開をちゃんと予測してあげています。あれです。
「さたん、いけー!!」
「ねお・ぶりざーどー!!」
一郎くんに言われるがままに、サタンちゃんがネオ・ブリザードをはなちます!
「ほうっほっほほーうっ!!」
本明清三郎、ひんやりいい気持ち♪ そして、
「や~ら~れ~た~♪」
瀧川優と同じく、楽しそうな声を出しながらうつぶせになり、その流れでたかいたかーい♪ していた四葉ちゃんを、ゆっくり地面に降ろします。笑み! 満面の笑み!!
四葉ちゃん、本明清三郎の後頭部をさわりながら「おー?」とか言ってます。
そして一郎くん、次子ちゃん、さたんちゃんの三人は、
「やったー!」
「やったー!」
「やったー!」
おめめが、きらきらしちゃってます♪
それを見た四葉ちゃん「やったー!」なんとなく皆と一緒に喜びます♪
一郎くん達【や~ら~れ~た~♪】が、かなりお気に召したようです。そして、一郎くんはとんでも無いことを言い出します。
「次、母ちゃんの番な!」
それを聞いたベルゼブブは、変な声を出します。
「ハエ?」ベルゼブブだけに。
「え……、ちょ、ちょっと待って! あの、ほら! みんなが勇者をやっつけてくれたから、お母さん、助かっちゃった!! 凄く嬉しい!! だから、あの、ネオ・ブリザード受けなくてもいいよね?」
ベルゼブブさん、子供達をなだめようと、わたわたします。でも、駄目でした。
「は~ーー♪」
さたんちゃんのきらきらした顔をみた瞬間、
「う……」
ベルゼブブは何も言えなくなってしまいます。そして、あれをやることに決めたのです。
「いくよ、ベルおばさん! ねお・ぶりざーどー!!」
さたんちゃん、ベルゼブブに向かってネオ・ブリザードをはなちます!
「ちちゅん!!」
やっぱり変な声を出しちゃったベルゼブブ。ひんやりいい気持ちの風を受けると、漏れ無く、変な声を出しちゃうみたいです。
そして、
「や~ら~れ~た~♪」
ベルゼブブさん、末子ちゃんをだっこしたまま、後ろへ倒れて仰向けにねます。お顔がちょっぴり赤いです。
「あーやーえーあー!」
末子ちゃん、お母さんのお腹の上で真似をして喜んでいます。
「やったー!」
「やったー!」
「やったー!」
「やったー!」
一郎くん、次子ちゃん、さたんちゃん、四葉ちゃん達はもう、大喜び♪
「あったー!!」末子ちゃん、一郎くん達と一緒に喜びます♪
「うぴー……」ひろしくんは、まだうずくまっていました。
(お……おかしいわ……。なんなの? この状況……?)
ベルゼブブさん、仰向けの状態で、部屋の天井を仰ぎ見ながらこう思います。
ふたりの勇者と、ベルゼブブが地面に寝そべっているのを見てベルゼブブのお子さんと、さたんちゃんは、かなり気持ちが良いようです。【や~ら~れ~た~♪】ごっこがかなりお気に召しちゃたようで、
「じゃ、勇者のおばさん、もう一回な」
一郎くんが瀧川優の腕を引っ張り、身体を起こします。
「もー♪ しょうがないなー♪」
瀧川優はたまらん顔をしながら、一郎くん達と(まだ)遊ぼうとします。(遊ぶって言っちゃった。もう駄目だ)
「かあ様も、もう一回やりましょう!」
「もう一回やりたい! ベルおばさん!」
次子ちゃんがベルゼブブの右腕を、さたんちゃんは左腕を引っ張って、身体を起こします。
「もう、おしまい!!」
一郎くん達、ベルゼブブさんにちょっと叱られちゃいました。