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第5話 自分のせいじゃないもん


 本人の預り知らぬ所でご近所さんに『薄情』認定されてしまった、夫のゲルファさん。どこで何をしていたかというと……、家にいました。グラジさんと一緒に。


 ……違います、そうではありません。ゲルファさんは決してライラちゃん探しを妻のレイラさんに押し付け、椅子にふんぞり返っていた訳ではありません。

 では何をしていたかというと、家の中を探したり、万が一ライラちゃんが戻って来たことを考えて、自宅で待機していたのです。



「うおおぉぉーー!! ライラーー!! 何処へ行ってしまったんじゃーー!? おじいちゃんは、おじいちゃんはあぁーー!?」



 大切な孫娘が行方不明になってしまい、三人の中で一番取り乱してしまうグラジさん。大口を開けては両腕を『前ならえ』の状態で右往左往し、家中に響くような声を出してしまいます。


 そんなグラジさんを構うこともなく、ゲルファさんは家の中を草の根を分けるように、くまなく捜索しました。



「……駄目だ、これだけ家の中を探してもいないってことは、やはりライラは外に抜け出したんだ」



 ゲルファさんは言うが早いか、空き巣に入られたように物が散乱した床を長い足で乱暴に掻き分けながら玄関に向かうと、未だ大口を開けて取り乱しているグラジさんには目もくれず、烏羽色のマントを掴みその大きな身体に羽織ります。



「まったく……親父がもっとしっかりライラを見ていれば、こんな事にはならなかったのに……」



 愛娘がいなくなったことで気が立っているせいか、ゲルファさん少しきつめの物言いになってしまいます。グラジさん、それが気に食わなかったのか、途端に我に返り、言葉を返します。



「ちょっと待たんかい? お前、その言い方だと可愛い孫娘が行方不明になったのは全部儂のせいみたいじゃないか?」


「だってそうじゃないか。ライラがいなくなる前、一番側にいたのは親父なんだぞ? その親父が気づかないなんて、どうかしてるんじゃないか?」



 今はそんな事をしている場合では無いのですが、ふたりは責任の擦り付け合いを始めてしまいます。



「おお、それはまた随分な口の聞き方じゃな。ライラがいなくなった時、貴様も近くに一緒にいて気づけんかったというのに一切の責任が無いと来たものだ」


「そうは言ってないだろう!? ただ、ライラはいなくなる前、親父のズボンの裾を引っ張っていたんだから、いなくなったんなら、感触で直ぐに解っただろうが!?」



 ゲルファさん『責任』という言葉に敏感に反応してしまうと、激しい口調で反論してしまいます。



「お前な、ライラがいなくなったのも元を正せば、お前やレイラさんと喧嘩をして目を離してしまったからじゃないかい。大体な、お前らが最初からちゃんとライラちゃんをかまっておれば、こんな事にはならなかったんじゃーー!!」


「何だとーー!! 親父がライラを甘やかしすぎるのが悪いんだろうがーー!!」



 感情的になってしまったゲルファさん。右手に持っていたマントを放り投げ、勢いそのままにグラジさんに掴みかかると、とうとう親子は取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいます。



「ぐぬぬ……!!」

「……ふぬぬぬぬ……!!」



 ゲルファさんがグラジさんの顔に掴みかかれば、グラジさんはそれを振り払い、ゲルファさんの胸元に掴みかかります。ゲルファさんはグラジさんのその手を振り払うと、反対の手でグラジさんのオールバックを鷲掴みします。



「このくそ親父ーー!!」

「黙らんかーー!! こん馬鹿息子がーー!!」



 レイラさんが懸命にライラちゃんを探しているときに、こんな事をしている場合では無いのですが、グラジさんとゲルファさんの親子喧嘩は延々と続きました。


 そして、レイラさんはというと……



「……はあ……はあ……、ごめん……なさい……。ちょっと……休憩……」



 街門の少し手前、やや大きな木にそっと手を添え中腰になりながら一休みしているのでした。


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