第4話 ひとりでお出かけ(脱走)、ライラちゃん♪
窓からお外に飛び出したライラちゃん。お家が大騒ぎになっているとも知らず、サタン城に向かって『とてて……』と、お出掛けします。
「あれ……? あの子、迷子かな?」
「親は何をしているのかしら?」
「子供から目を離すとは何事か!」
ですが、ライラちゃんにその気は無くとも、小さな女の子が親も連れずに城下町をうろつく姿は、他の大人ヴァンパイアの目を一際集めてしまいます。その中にはレイラさんのご近所さんもおりました。
「あら……? あれって、レイラさん家の所のライラちゃん……かしら? でも、近くにレイラさんもいないし……、私の見間違いかしら……?」
そのご近所さんは頬に手を添え、そう呟くと『とてて……』と、駆けていくライラちゃんを、ついそのまま見送ってしまいました。
小さな脚をちまちま動かしながら、ときおり両目に映る石造りの家を今はまだ、風景のように流しながらライラちゃんは石畳を走り抜けて行きます。
「うーん……と、……こっちだ!!」
十字路の前で一旦足を止め考え込むライラちゃん。街門のある方向へ指を差し、町の外を目指して再び歩み始めます。
その頃、母親のレイラさんは両手を口元に当て大声を出しては、ライラちゃんの行きそうな所を探して、必死に駆けずり回っていました。
「ライラー! ライラー!! 何処に行ったのーー!?」
近くの広場、ご近所さん、いつも足を運んでいるお店等……、何処を探してもライラちゃんを見つからず、レイラさんの心の中は不安で一杯になります。
「ああ……、ライラ……! お母さんが目を離してしまったばかりに……!!」
息を切らし中腰になるレイラさん。膝に手を添えちょっとだけ休むとまた直ぐに愛娘を探し始めますが、目ぼしい所は全て探したためレイラさんはどうして良いのか解らず、辺りを見渡しながら右往左往していると、そこへレイラさんのご近所さんが通りかかります。
「あら? レイラさん、こんな所にいたのね。じゃあ、やっぱりあれは、見間違いじゃなかったのね……」
レイラさんはその言葉を耳にするなり、凄い勢いで近づき、両手でご近所さんの両肩を鷲掴みにします。
「ライラ……! うちのライラを見たんですか!?」
「え? ああ、はい、偶然……」
我が子を心配するあまり、鷲掴みしている両手に力がこもるレイラさん。形振り構わず、ご近所さんを問いただしてしまいます。
「何処にいました!?」
「何か、街門に向かって走って行っているみたいに見えましたけど……」
それを聞いたレイラさんは、ライラちゃんが何処へ向かっているのか、悟りました。
「……まさかライラ、ひとりでサタン城に……!? 行っちゃ駄目って、言ったのに……!!」
「あ、あの……、レイラさん……。痛い……。」
レイラさんは、はたと我に返りご近所さんから両手を離します。
「あ……、ごめんなさい……。」
「ううん、私は大丈夫よレイラさん。……それよりも、私の方こそごめんなさいね……」
ご近所さんは両腕を交差させるように肩を擦り、ライラちゃんを声もかけずに見送ってしまったことレイラさんに謝ると、ライラちゃん探しに手を貸すことを申し出ます。
「そんな事よりもレイラさん、今はライラちゃんの跡を追いかけないと。私も手伝うから少し落ち着」
「あ、あの! 娘の事を知らせて頂き、ありがとうございます!」
レイラさん、話の腰を折るようにご近所さんに話しかけてしまいました。どうにも気が気でないようです。
「だから慌てないで、レイラさん! 私も力を……」
その焦っている姿を見たご近所さんは何とか落ち着かせようと、手を差し出し声をかけますが、レイラさんの耳には入りません。
「私、今から探しに行きますね!!」
身を反転させながらレイラさんはそう言うと、凄い土煙をあげてご近所さんをその場に残し、立ち去ってしまいます。
「あ! 待って! レイラさん! レイラさーーん!!」
ご近所さんは右手を伸ばし懸命に声をかけますが、伸ばした右手は行き場を失ってしまい、仕方なくそっと頬に添えました。
「もう、レイラさん……。あんなに慌ててちゃ、見つかるものも、見つからないでしょうに……」
そして「ほう……」と、ため息をつきながら呟くと、ある事が気になったのか辺りを見渡します。
「……そう言えば、旦那さんは一体何をしているのかしら? レイラさんが娘を探して駆けずり回っているのに……。案外、薄情な人なのかしらね……」




