第2話 ライラちゃんの救世主♪
もう少しというところで脱走を止められてしまったライラちゃんは、そのまま後ろから抱っこされ胸元に落ち着くと、お母さんの顔を見上げながら『ぷぅ』とほっぺをふくらまします。
「……ライラ、どうして一人でお外に行こうとしたの? お母さん、びっくりしちゃった」
「だってー、次子ちゃんや四葉ちゃん達といっしょに遊びたかったんだもん」
ベルゼブブ一家の子供達と仲が良いライラちゃんは、特に次子ちゃんや四葉ちゃん達と大の仲良しで、よくお母さんと一緒にサタン城に遊びに行っていました。ですが、ここ最近はサタン城に行くのを止められていました。
「ねー、お母さん。どうしてライラはひとりでサタン城に遊びに行っちゃいけないの? ライラ、もうひとりでお外に行けるもん!」
「あのね、ライラ。お母さん、前にも言ったでしょう? ライラはまだ小さいからお出かけする時は、お母さんやお父さんと一緒にお手て繋がないといけないって……」
レイラさんは愛娘の身を案じ、声をかけますが、ライラちゃんは納得がいきません。しだいにお母さんの抱っこから逃れようと、足をぱたつかせ、お母さんの腕を両手で強く掴みます。
「抱っこやめるー!」
「ちょっとライラ……、暴れないで……。解ったから……!」
おてんばな愛娘に手を焼くレイラさん。やっとの事でライラちゃんを床に降ろすと、レイラさんから離れないように手を繋ぎ、ライラちゃんの前に屈むとやんわりと声をかけます。
「ごめんね。今日はお母さん、ライラの事サタン城に連れて行く事は出来ないの。その代わり、近くの広場を散歩しましょうね?」
「や! ライラ、次子ちゃんや四葉ちゃん達と遊びたいー! だから、ライラひとりでも遊びに行くー!」
「ライラ……」
レイラさんは何とかライラちゃんをなだめようとしますが、ライラちゃんはお母さんからそっぽを向き、駄々をこねます。
そこへ、ひとりのヴァンパイアが部屋に入ってきます。
「大丈夫か、レイラ? 何かあったのか?」
レイラの夫で、ライラちゃんの父親である『ゲルファ』さんです。ゲルファさんは黒の短髪に、もうちょっとで2メートルになる高身長です。
「ああ、あなた。ごめんなさい、ライラがお家を抜け出そうとして……」
それを聞いたゲルファさんは、レイラさんと同じようにライラちゃんの前に跪きます。
「ライラ、またひとりでお外に行こうとしたのかい? 駄目じゃないか、お母さんを困らせちゃ」
お母さんになだめられ、お父さんに注意されたライラちゃんは、レイラさんとゲルファさんからそっぽを向き、不機嫌そうにうつむいてしまいます。
「ま、待ってあなた……、ライラには私がちゃんと話しておくから……」
「いや、でも、こういうのは、ちゃんと言っておかないと……」
レイラさんとゲルファはライラちゃんがふてくされている前で、少し言い合いを始めると、(ライラちゃんにとって)救世主が現れます。
「おやおや、ライラや? またお母さんに叱られてるのかい? 可哀想に……」
「おじいちゃん!」
その救世主の正体は、ライラちゃんの大好きなおじいちゃん『グラジ』さんでした。レイラさんより背丈は若干低めで小柄な体型のグラジさんは、ゲルファさんの父親にあたる人で若い頃は黒一色のオールバックだった髪も、今は白髪混じりになっています。
「おじいちゃーん!!」
「あ! 待って、ライラ!!」
おじいちゃんを見るなりライラちゃんは、お母さんの手を振り払い、おじいちゃんの元へ『とてて……』と笑顔で駆け寄り、足元に抱きつきます。
「おじいちゃーん♪ 抱っこしてー♪」
「ははは……、ライラは甘えん坊だのぅ。今、おじいちゃんが抱っこしてあげるからちょっと待ってなさい♪」
「うん!」
ライラちゃんにとても甘々なグラジさん。ライラちゃんの頭を軽く撫でてから、少し腰を落とし両手を広げると、ライラちゃんはグラジさんの胸のなかに飛び込んでいきます。グラジさんはそのままライラちゃんを両腕で抱きしめると、ゆっくりと腰を上げました。
「えへへー♪ おじいちゃーん♪」
「こらこら♪ やめないか、ライラ……♪」
おじいちゃんに抱っこされ、すっかり機嫌を良くしたライラちゃんは、おじいちゃんの頬に自分の頬をすりすりし、グラジさんの顔もつい、ほころんでしまいます。
「ライラや、今日はどうしてお母さんに怒られていたのか、おじいちゃんに話してくれるかのぅ?」
「えっとねー、ライラね、次子ちゃんやみんなのところにいきたかったの。それでね、サタン城に遊びに行こうとしたら、お母さんに『だめ!!』て、怒られたの」
「おやおや、ライラの気持ちも聞かず、頭ごなしに怒鳴りつけるとは、いかんお母さんじゃのう……」
「ラ……ライラ! お母さん、そんな風に叱ってないでしょ!?」
母親のレイラさん、あまりにも拙いライラちゃんの説明に驚いて、わたわたしてしまいます。それでも、ライラちゃんは自分なりに一生懸命、覚えた言葉を紡ぎだしたのでした。




