第1話 ヴァンパイア族のライラちゃん
……魔界……。そこには、サタン城の他にもうひとつ、一回り大きな城が存在します。その一際大きな城にはヴァンパイア一族の王が住んでいて、城下町の住人達も、殆んどがヴァンパイアで賑わっています。
そして……今そこに、それはそれは大きな稲妻が落ちようともせず、今日も心地好い朝陽が上り、その日射しはとても穏やかです。
今回のお話は、そんな城下町のとある一軒家から始まります。
今、窓枠から、ひょこ、ひょこ、と小さな可愛らしい手が覗き、それに続いてちっこい頭もお目見えします。
その小さな手とちっこい頭は、外からでは判りませんが、家の中では2歳位の女の子が一生懸命に背伸びをして、何かを企んでいるようでした。
「……うーん、ここからお外にでられないかなあ?」
そんな事を言うのは、この家に住む一人娘の『ライラ』ちゃん。首元が少しだけ見えるほどに伸びた銀の髪は母親譲りですが、ライラちゃんは今、その母親の目を盗んでこの家からの脱走を企てているようでした。
このくらいの年頃には、よくあることですね♪
ライラちゃんの背丈ではどんなに「うん、うん」と背伸びしても、ぷにぷにした手と頭のてっぺんが窓の枠にぎりぎり届く程度で、このままでは、どれだけ頑張っても脱走できません。
時には窓枠目指して懸命に右足を上げ、床から離れた左足をぱたぱたさせます。
……そんな脱走劇を部屋の外、扉の影からそっ……と心配そうに見守る者がおりました。その者は華奢というよりは線が細く、頬は銀髪で隠れ、見た目薄幸の美女といった感じでしょうか?
そうです、母親の『レイラ』さんです。
母親の目を欺いたと思ったライラちゃんでしたが、お母さんは愛娘のする事をお見通しでした。
「ああ……もう、ライラったら! もっと足を上げないと……」
レイラさんは、ライラちゃんの脱走劇をすぐに止めようとしましたが、すんでのところで思いとどまり、ライラちゃんができる所まで見守ることにしたものの、早速レイラさんを心配させる出来事が起こります。
「ひゃあ!」
「ライラ!」
両手が窓枠から外れ、床に尻餅をついてしまったライラちゃん。扉の影から見守っていたレイラさんもハラハラしてしまいます。
そんな母親の心配を他所に、ライラちゃんは元気に立ち上がります。
「そうだ! なにかのぼるものがあれば、外にでられるかも!」
このくらいでは諦めないライラちゃん。母親に見守られているとも知らずに部屋の中をぱたぱたと走り回り、何か無いかと顔をキョロキョロさせます。そして、いつも母親と一緒に寝ているベッドの近くから、ライラちゃんにとってはとても都合の良い、『みかん』と書かれた厚紙で出来た踏み台が見つかりました。
この時、レイラさんはもう脱走を応援しているのか、ひとつの物事を完結出来るようになるのを応援しているのか、訳がわからなくなっていました。
ライラちゃんはその踏み台を両手で掴み、にこにこしながら窓の下まで持って行きます。
そして、床に踏み台を置きその上にピョン、と飛び乗るライラちゃん。ぷにぷにした両手で窓枠を掴むと、外からそよそよとふきこんだ風が頬を優しく撫でます。
「くちゅん!」
くしゃみを堪えきれずにしちゃったライラちゃん。ですが、少しだけ顔をこしこししてから再び両手で窓枠を掴み、顔を窓枠の上にちょこんとのせます。
「やった! これなら外に出られるぞ!」
早速、脱走を試みるライラちゃん。「うんしょ、うんしょ」と窓枠に向かって足を上げます。
窓枠に足がかかると、そのまま力を入れて身体を持ち上げます。ところが、いつの間にかライラちゃんはうずくまったまま窓枠にしがみついていました。
「うーん、ここからどうしよう?」
扉の影から見守っていたレイラさんもそろそろ手を出すべきか悩んでしてしまいます。
ですが、ライラちゃんは頑張ります。うずくまりながらも少しずつ、外に向かって身体をずりずりと降ろします。
「よし、もう少し!」
と、ここで部屋の扉が開き、レイラさんが急いで部屋に飛び込みます。
それと同時に、ライラちゃんの手も今、窓枠から離れます。
ライラちゃんを抱っこせんと、背後から伸びる母の細い両腕!
ライラちゃん、脱走出来るでしょうか!?
レイラさん、抱っこが間に合うでしょうか!?
勝負(?)の行方は!?
「ひゃあ!」
「ライラ! 何やってるの!? 危ないでしょ!?」
残念ライラちゃん、お母さんにつかまってしまいました。
大分、間が空いてしまいましたが、
なんとか第三章を皆様にお目にかけることが出来ました。
この話に出てくるヴァンパイアについては、後々詳しく説明していく予定なので、今はまだ突っ込まないで下さい……。
皆様の期待に添えるような内容の濃い小説を書いていけるように頑張ります。