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瀧川おばさんとベルゼブブおばさんのほっこり異世界子育て騒動  作者: ネオ・ブリザード
第二章 勇者ふたり、次の日も魔界に遊びに行く
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第6話 お邪魔します サタン城

 サタン城の回廊をふたりの勇者が、(子供を抱っこしながら)駆け抜ける。


 そこに漆黒の剣を握り漆黒の鎧に身を包んだ一団が、瀧川優と本明清三郎の前に現れた。漆黒の一団の先頭……、隊長らしき者が、漆黒の剣を瀧川優と清三郎に向け、こう名乗る。



「我ら、闇騎士隊!!」


「うん」

「知ってる」



 瀧川優と清三郎は、軽く受け流す。



「最後まで名乗らせろー!!」


 名乗りを途中で止められた隊長らしき者は、漆黒の剣を上下に振り、地団駄を踏む。


「落ち着いて下さい! デスナイト隊長!!」



 闇騎士隊の隊員のひとりが隊長を後ろから羽交い締めにして、なんとか落ち着かせようとする。



「いやぁ……、だってねぇ……」

「これ、前にも一回見たからなぁ」

「二回やらなくても、いいんじゃない?」


 瀧川優と清三郎、キツイ返し。


「これは通例なんだよ!! 儀式みたいなもんなんだよ!! しかも、なんだよ!! よく見たら子供なんか抱っこしやがって!! 何かの作戦か!?」

「だから、落ち着けって言ってるでしょ!? 隊長!!」



 さらに地団駄を踏む隊長を、隊員が懸命に抑える。



「ねえ、お父さん。何でさっき攻めなかったの?」



 清三郎に抱っこされている恵ちゃん。言ってはいけないことを言ってしまいます。



「それはな、恵、騎士道に反するからだよ」



 清三郎は大人の受け答えをします。



「ふーん?」恵ちゃん、よく分かりません。



「あのー、私達、ベルゼブブさんと、さたんちゃんに会いに来ただけで……、遊びに来ただけなんですけどー? 会わせてもらえませんかー? ほら、息子の卓人を会わせに来たんですよー?」



 瀧川優が、戦いに来た訳では無いことを伝える。



「嘘をつくなっ!! そんなことを言って、今度こそサタン様の命を狙いに来たんだろう!? ……そうか!? 子供を連れてきているのは、我々を油断させる為だろう!! 確かに可愛いが、その手には乗らん!!」


「隊長ー!! 本音が漏れてます!!」


 闇騎士隊隊長は申し出を聞き入れず、更に地団駄を踏む。そして、隊員はそれを必死に抑える。


 瀧川優は、卓人を両脇下から手を入れ、胸元の高さまで抱きかえると、闇騎士隊隊長の方へ向けて、こう言った。



「あのー? うちの卓人が可愛いと思ってくれるのなら、道を開けてくれませんかー? ほら、こんなに可愛いでしょー?」



 だが瀧川優の願いを闇騎士隊隊長は、聞き入れようとしない。



「いいや、駄目だ! 貴様達がサタン様の命を取らないという保証が無いのならば、ここを通す理由にはいかん!!」



 漆黒の剣を瀧川親子の方へ向ける、闇騎士隊隊長。と、そこへ清三郎が「優!!」と割って入る。



「ど、どうしたの!? 清三郎!?」


 いきなり話かけられ、驚く瀧川優。すると、


「うちの恵も可愛いぞ!!」


 清三郎は、恵ちゃんを胸元まで抱き上げ、かわいらしさを主調した。



「話を聞けー!!」また、地団駄を踏む隊長。


「隊長! おーちーつーいーてー!! あと、貴方達も隊長をおちょくるのは、やめて下さい!!」



 隊員が、再び隊長を羽交い締めにし、勇者ふたりに注意を促す。


 注意を受けた瀧川優。……「そういえば」と、あることを思いだし質問する。



「私達、ベルゼブブさんと、和平したはずなんですけどー? その話はー、皆さんにー、伝わっていませんかー?」



 ベルゼブブと(さたんちゃんの愛らしさで)締結した和平。もし、魔族全体に伝わっているならば、戦いにならないはず。瀧川優はそう思った。現に、サタン城に入る前は戦いにならなかったのだから。



 しかし……。




 ……ざわざわ……。



 ……何か、様子がおかしい。



 ……ざわざわ……。



 闇騎士隊は、お互いがお互いをみつめあうように確認しあう。

 隊員のひとりが隊長に耳打ちをする。



「隊長、和平なんて話、聞いてましたか?」

「いいや? おい! 隊員の中で、誰か知っている者はいるか!?」




 シーーーン…………。




 静寂がこだまする。


 この時、隊長の心の中にある疑念が生じる。

(この者……。やはり我々を騙そうとしているのではないか?)……と。次の瞬間、闇騎士隊隊長は、ドス黒い殺気を、瀧川優と清三郎に向けて来た。



「なあ……、優……、まずい雰囲気じゃないか?これ……?」

「そうね……、隊長さん、なんか凄い殺気を放ってるし……」



 今度は、清三郎が瀧川優に耳打ちをする。



「貴様等……、我々を騙そうとしたな……? 和平なんて話は聞いておらん!! これで確信した!! やはり、貴様等は排除せねばならん敵だということをな!!」


「ちょっと、落ち着いて!!」

「そうそう!! 話せば解ります!!」



 瀧川優と清三郎は、必死に闇騎士隊隊長を落ち着かせようとするが……。



「貴様等の話なんぞ信用なるか!! ……もう我慢ならん!! 総員、戦闘体制を取れ!!」



 隊長の言葉と共に、身構える闇騎士隊。

 ……まずい!! 瀧川優と清三郎はそう思った。


 隊長は、漆黒の剣をしなやかに掲げたかと思うと、瞬間、振り下ろすと同時にこう言った。



「突撃ーーーーっっっっ!!!!」



 ウゥオオオオーーーー!!!!



 命令に合わせ、地を響かせながら、闇騎士隊は瀧川優と清三郎に突っ込んで来なかった。



 ツルツルツルーーーー!!!!



「わーーーー!!!!」



 ツルツルツルーーーー!!!!



 いつの間にか、闇騎士隊の足元全体に氷の層が張られていた。

 混合魔法、アイスフィールドだ。

(瀧川優、命名)



 アイスフィールドとは、まず、氷属性で地面に氷を張る。これで完成ではない。今度は相手の足を滑り易くするために、火属性で水の膜が出来るように、ほかほかと適切な温度で氷を温める。

 氷の上に水の膜が上手く出来れば、アイスフィールドの完成だ。



 アイスフィールドに足を取られた闇騎士隊は、もれなく尻餅をつき、瀧川優と清三郎を通りすぎたかと思うと、見事に壁にドカドカとぶつかった。



「上手くいったわね!! 清三郎!!」

「ああ!! 今のうちに奥に進もう!!」



 瀧川優と清三郎は、闇騎士隊が体制を崩している間に奥へ進もうとする。



「……くっ、くそっ!! 騙しうちとは卑怯な!! もう許さん!!」



 闇騎士隊隊長は、ふらふらになりながらも、なんとか床に剣を突き立て、立ち上がろうとする。



「申し訳ありませーん!! ベルゼブブさんと会わせて頂ければきっと分かると思うので……。失礼しまーす!!」



 瀧川優は、隊長に騙しうちした事を謝ると、清三郎と一緒に奥へと進めなかった。



 ツルツルツルーーーー!!!!



 瀧川優と清三郎は、自分達の作ったアイスフィールドに足をとられ、滑ってしまう。



「わーーーー!!!!」



 瀧川親子と清三郎親子の身体はふわりと宙に浮き、そのまま尻餅をついてしまう。



 ステーーーーン!!!!



「痛ったー!! こ……腰が……」

「くおおぉぉ!! 頭打った!!」



 ふたりは寸分違わず、悶絶する。だが、やはり子を持つ親、我が子を上に向け、床に落とさないように守る。



「お母さん、大丈夫!?」

「お父さん、怪我してない!?」



 自分の親を心配する卓人くんと、恵ちゃん。良い子♪



「ふはははは!! 策士、策に溺れるとはこの事だな!! 騙し打ちするから、こうなるのだ!! あはっ! あはっ! あははははっ!!」

「たっ、隊長!! 笑ってる場合ではありません!! 早く追いかけ……、ひはっ! ひははははっ!!」



 闇騎士隊は、こみ上げてくる笑いを止めることが出来ず、追いかけることが出来ない。

 その隙に瀧川優と清三郎は、痛む身体に鞭うって、先に進む。



「いたたたた……」

「ズキズキする……」



 ようやく、笑いが止まった闇騎士隊は、急いで勇者達の後を追いかける。



「ははっ……、ひぃ、ひぃ……。しまった!! 待てーー!!」



 今、ふたりの勇者はサタン城の最奥を(子供を抱っこしながら) 駆け抜けていく。

 その後ろを、闇騎士隊が必死に追いかけてくる。



 荘厳な回廊に似合わぬ喧騒。

 しかし、サタンの部屋にいる者達は気づく事はなかった。

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