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2-2:三十年越しの再会


「お袋!!??」


 龍があまりに大声で叫んだものだから、しいが驚いてこちらに振り向いてしまった。

 失礼にも目の前の客人を指差し、「りゅうさんのおかあさん?」と口パクで尋ねてくる。


「ああ、歳を食っちゃいるが違いねえ」


 風鳴聖子が首を伸ばして、龍の隠れているふすまの方を見てくる。


「後ろにどなたかいらっしゃるのかしら」

「あ、はい! 驚かないでくださいね。実はおばあさまのむす――」

「うおおおおおおおおおおおい!!!???」


 いきなり龍のことを暴露しようとするしい。

 龍は大慌てで止めに入り、透明な霊体のまま、背後から口を塞いだ。


「――もごごごごごごごごごごごご!?」

「頼む! 俺のことはお袋に黙っててくれ!」

「もご、もごごご」


 涙目になりながらもうなずいたのを確認して、口から手を離す。しいはぷはあと息を吐いた。

 聖子は、いきなり挙動不審になったしいをうさんくさそうに睨みつけている。


「どうかしたのですか?」

「あ、あはは、なんでもないです、お茶がむせちゃって、あははは……」

「……まあ、いいでしょう」


 よかった、追求されなかった。龍は胸を撫で下ろした。


「ええと、わたしにどういったご用事なのでしょうか」

「さっきも言った通り、鈴愛のことでね」


 やはり、鈴愛の名前が出てきた。廊下で聞こえた言葉は間違いではなかったのだ。


「島霧さんは、おばあさまの……?」

「鈴愛はあたしの孫よ。うちの娘のその娘。同じ家に住んでいるわ」

「えっ!?」

「そんなに驚くことかしらね?」


 龍としいは顔を見あわせる。


 うちの娘のその娘。

 聖子の娘といえば、心当たりは一人しかいない。

 龍の四つ下の妹、風鳴玄かざなりくろだ。

 そして、妹の玄が産んだ娘が鈴愛ということは――


「鈴愛は俺のめいってことか!!」


 なんてこった。

 あの生意気ないじめっ子が、龍の血縁者。

 衝撃的な事実に卒倒しそうになったが、冷静になってみれば思い当たる節はあった。

 初めて鈴愛に会ったときに覚えた既視感。

 今になって思い返すと、勝気な猫目は玄にそっくりだ。ツインテールが三つ編みのおさげになれば、二人が瓜ふたつになるであろうことは想像に難くない。


「あの子がねえ、最近変なことを言い出したの」


 聖子は話を続けた。


「幽霊は本当にいる、だとか。おばあちゃんも気をつけないと、とか。まったく馬鹿馬鹿しい」

「馬鹿馬鹿しいだなんて……」

「あなたは寺誉の娘でしょう。鈴愛に何かおかしなことを吹き込んだのではなくて?」


 しいのうなじに大粒の汗が滲んでいる。言われのない偏見を大の大人からぶつけられ、ショックを受けているようだ。震える唇を開いて聞き返す。

 

「……『花子さん』の話を、島霧さんから聞いたのですか?」

「いいえ? 何それ?」

「先日、島霧さんの友達が悪霊にさらわれました。だから、りゅ——わたしが除霊して助けたんです。確かに島霧さんはそれまで幽霊のことを信じていませんでしたが、あの事件で謝ってくれました」

「ふうん。つまり嘘を信じ込ませるために、一芝居を打ったわけね」

「なっ——!」

「だって、いないでしょう。幽霊なんて」


 有無を言わさぬ口調だった。

 反論する隙など微塵も与えないという威圧感。


 話が読めてきた。

 つまるところ、三十年前から聖子は何一つ変わっていない。

 幽霊など気味が悪い。除霊師は善良な市民を恐怖で脅して金を取る詐欺師であると、そう思い込んでいるのだ。

 丹治と縁を切るよう命令してきたときと同じように、今もまた、孫とその同級生の関係に介入しようとしている。それどころか、彼女の偏見は三十年の時を経て、より頑迷なものへと凝り固まっていた。


「あれほど、寺誉の者の話を信じてはならないと言いつけてあったのに」


 本人の前で、軽蔑の態度を隠そうともしない。


「しいさん、もう鈴愛と関わらないでください。今日は、それを伝えに来たのです」


 聖子は静かに立ち上がった。客間の空気はすっかり冷え切っていた。

 涙目でうつむくしいに一瞥をよこした聖子は、黙って一来寺から去っていった。


***


「なんだあのクソババア! ふざけんな!」


 聖子が出て行くなり、龍はちゃぶ台を思い切り蹴飛ばした。


「俺と丹治の次は、しいと鈴愛か! なんも反省してねえな!」


 家族と再会したときにどう接すればいいのか迷っていた龍だったが、もう踏ん切りがついた。


 ——絶対に、特にお袋には、二度と顔を見せてやるものか。


「まあ、わたしと島霧さんは元々そんなに仲良くないけど……」


 しいは心中複雑そうだった。


「でも、だからこそ余計傷つきますね。ああ言われると」


 聖子からしいに向けられたのは、純粋な嫌悪の感情。鈴愛との関係が特筆して良いわけでも悪いわけでもない今、なおさら棘が目立った。

 あれほど寺誉の家に偏見を抱いている理由は見当もつかないが、知ったところで不愉快な気分になるだけだろうと龍は思った。


「鈴愛がしいを目の敵にしてたのも、どうせお袋の刷り込みのせいだろうよ。”言いつけてた”って言ってたしな」


 そう吐き捨てると、しいがふと何かに気づいたように顔を上げた。


「あれ、ちょっと待ってください」

「どうかしたか」

「島霧さんは、おばあさんがオカルトを嫌っていることを知っていながら、なぜ『幽霊は本当にいる』なんて伝えたんでしょう」

「言われてみりゃ不自然かもな。黙っておけばよかったのに」


 だからどうした、とは言わなかった。

 しいは何やら考え込んでいたが、「もしかして」と口を開く。


「龍さんのお母さんの周りで、霊障事件が起きてるんじゃないでしょうか」

「おいおい」

「島霧さんは、頑固なおばあさんを相手に、どうしても幽霊の存在を信じさせたい理由があった。そう考えると辻褄が合う気がします」


 龍は頭を抱えた。

 聖子はたとえ霊障事件に巻き込まれたとしても、決して認めず、自分から除霊師を頼ることはないだろう。だから、身内が説得しようとした。自然な話だ。

 しかし、よりによって……その相手が自分の母親だとは。


「明日、島霧さんに事情を聞いてみようと思います」


 龍の葛藤をよそに、しいは早くも聖子の言いつけを破る覚悟を決めていた。

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