大宴会2
『魔王』杉原清人
つつがなく大宴会の会場のセッティングが完了し、いよいよどんちゃん騒ぎが始まりつちあった。
我が魔王軍の兵士達にも若干のお裾分けをしつつも豪勢な食事がテーブルを彩っていた。
ルピナスを除き三名程セッティングの後半にサボってはいたがここで咎めるのは無粋だから止めておいた。
ルピナスは俺の清涼剤の役割をキチンとこなしていたからセーフ判定。
我ながらガバガバである。
そんなこんなで会食となったのだがー。
「大将、この…サザエ?の料理何だ?殻に根菜類が詰まってるだけでサザエ本体がてんで見当たらねえ」
圭一郎が指差したのはサザエの殻に根菜類を詰めてバターと醤油の味付けをした料理だ。
さて、その本体の所在と言うのは…。
「それか、サザエはシーフードカレーに入れた。勿論肝も裏ごししてからルゥに入れてある」
シーフードカレーの中なのだ。
今回は宴会とのことなので酒とツマミが入るように量は調整してある。
にも関わらずシーフードカレーを選択したのは…。
「清人、肝心のカレーはどこなんだい?」
「イカ飯あるだろ?それだ」
小ぶりなイカの中にドライカレーとして詰めているからに他ならない。
芳醇な磯の香りを放つカレーを前にゴクリと唾を飲むのが分かった。
ルピナスもフライングで食べておりご満悦のようだ。
「コイツの浅漬けはやっぱり旨いなァ。俺が訓練した甲斐があったぜェ。あったよなァ?清人」
「お前は食い専だろ…」
ポリポリとティアが食べているのは手製の浅漬け。鷹の爪もちょいちょい入っていて舌にピリッとした存在感を残すのが堪らない。
「清人、料理上手。一生私の為に味噌汁作って」
「おいィ?ルピナスよォ、それは堂々のヒモ宣言かァ?それは駄目だろォ。駄目だよなァ?駄目なんだよォ。コイツはとことんテメェを甘やかすからテメェの人間性が軽く蕩けるぜェ?」
…いや、お前が言うなよ。
「ところで清人。コレ何?」
「あ…」
ルピナスは既にそれに手を出していた。
グラタンにも似たそれは俺専用の食べ物…。
「それは…俺がトロロが食えないから俺の分だけ火を通してグラタン風にしたやつなんだが…」
「そう…間接キス?」
「!!?」
首を傾げながら発された『間接キス?』という言葉が脳髄を揺さぶり頬がボッと燃え上がる。
「このビッチがァ」
何だか恨みがましい声が聞こえたが問題にならないレベルで俺は混乱した。
「それより以外だな。清人はトロロを食べられるものだと思っていたよ」とユーリィ。
「あぁ、…再生の弊害か若干の敏感肌らしくてな。トロロ食べると痒くなるんだよ」
そう、俺は味は好きなのにトロロが食べられないのだ。兎に角食べられないのだ。
「さぁてェ。そろそろ頃合いかァ」
唐突にティアが言うと空になった皿をどけてそれをドン!と置いた。
「こっからは酒の時間だァ。今夜は無礼講だァ。分かったなァ?」
異様な雰囲気が食卓を包んだ。
さて、第二ラウンドか。
ティアがこんなテンションなのは珍しいし鬼が出るか蛇が出るか。
「清人、これがお酒?ジュースとはどう違うの?」
「あ、あルピナスそれは…」
コキュリ、白い喉がなった。
当然ルピナスの。
「?」
さて、ルピナスが酒に酔ったら…勿論頬が赤らむだろう。呂律も回らなくなって…。
いや、これ以上は考えまい。
ここには圭一郎もユーリィもいる。
狼の中に羊を放つような事はあってはならない!
心象解放でルピナスの酔いを醒ます漢方的なサムシングを出せば…ッ!
それを制すかのようにティアが底冷えする視線を俺に投げる。
心象解放をするのがバレてる?
クソッ…何か手は…。
んぐっ!!?
口の中で広がる苦味とモクモクと煙が上るかのような泡。
麦酒か!
大ジョッキでピンポイントで口に入った。ティアか!?
それにこの麦酒…強い。
ユーリィと圭一郎も飲みニケーションジェノサイドの餌食になったようだ。
「大将ぉ、飲んでますぅ?」
出来上がってる!?
早すぎるだろうが!?
「さぁて、こっからは…野球拳でもやって貰おうかァ」
このセクハラ女神ィッ!!?
だが、甘い。
俺の霊衣は心象で出来ている為に何層
にも増やせる。つまり脱衣のカサ増しが出来…ん?
待てよ。あいつらも同条件じゃないか。
「「アウト!セーフ!ヨヨイノヨイ!!」」
勝手に二人で始めてしまった。
俺とルピナスに被害が無いのは喜ばしいが絵面が汚い。
何だろう…美青年とちょい悪お兄さんがホモ的な雰囲気を醸し出して…あぁ、あぁ。
いつの間にか二人とも頭にネクタイ、上半身裸、パンイチというカオスな局面を迎えていた。
…不味いルピナスを隔離しないと。
とールピナスの方を向くと。
「清人!熱い!脱ぐ!」
こっちも最終局面を迎えていた。
why?
ルピナスは基本黒のワンピースだけで生活している。
つまり、それを脱いだら…。
「ストップ!ルピナス!止めるんだ!!」
あれ、鼻から生暖かい液体が…。
血?
ブシュゥゥ!!
認識した瞬間盛大に鼻血を吹き出した。
カシャリ。
そんな音に気付かないくらいには酷く出血した。
「大将が鼻血だしてらぁ」
「ひ、よとはだらしないなぁ」
お前達に言われたくは無いな。
こうして大宴会は終わりを迎えた…。
◆◆◆
「楽しかったなァ」
ティアは部屋で一人愛おしげにカメラを撫でていた。
先ほど撮った写真を確認すらせずに現像し懐に入れる。
「これを見るのは世界を救ってからだァ」
「えらく感慨に浸ってるな。姐御」
「ったく…意図を汲んだのは評価できるがそういう物言いは野暮ってもんだ圭一郎ゥ」
圭一郎は辺りを見回して言った。
「もう、この世界の終わりだからな。思い出を作るってアイディアも悪くはねえ」
世界は必ず終わる。
それは確定している。
「けど、姐御の思い出作り計画はまだ終わってないんだろ?だから俺の酔いを醒ました。違うか?」
「そうだァ。まだ本当のイベントが終わってねェ」
「にしてもユーリィは良いのか?アイツは寝てるけど」
「アイツはいない方が良いィ。だって今からするのは…」
「覗きだからだァ」
夜は深まる…。




