大宴会1
『魔王』杉原清人
「……」
「……」
「……」
「?」
沈黙がその場を支配している。
が、それは当然な話で。
ユーリィを仲間に引き入れろと言ったら当初の目的通り圭一郎を仲間に出来た。
でも、何故顔を腫らしているんだ?
青痣まで作って何をしていたんだか。
治癒の軟膏も多くは無いのだし控えて貰いたいものだ。
「ったくゥ、テメェら俺が見ねえウチにアオハルしやがってェ」
「…………」
ティアは咎めるような視線を俺に向ける…今度は俺か。
理由は分かる。そばにちょこんと座る黒いワンピースの美少女にして俺の最愛の人ルピナス。
成る程、アオハルしてると言えなくも無い。
「どいつもこいつもやりたい放題しやがってェ。どう落とし前つけるんだァ?つけるんだよォ」
またもや沈黙。
そう、俺たち四人はティアの変なやっかみに付き合っているのだ。
「あァ!もうしゃらくせえェ!!これには手を付けたくなかったが仕方ねえェ!!」
何処からか取り出したのは…酒。
何となくリガルドを思い出すな。
ではなく…何故酒を出した?
そもそも何処から酒を出した?
「大宴会を…一心不乱の大宴会をするんだな?するんだよォ!!」
「は?」
「清人、大宴会って何?」
「大宴会は三千世界の鴉を殺す飲みニケーションのどんちゃん騒ぎだァ」
デジャビュだろうか。
丁度似た光景を五年前に見た気がしたが…。
…。あ、アレだ。
俺が神殺しを初めてやったときだ。
道理でデジャビュを感じる訳だ。
果てしない死亡フラグを感じる。
これは不味いのではないか?
ただでさえアザトース戦が控えてるというのに。
「おい清人ォ!メシ作れェ!!圭一郎はツマミだァ!!ユーリィは…適当に暇潰ししてろォ!ルピナス!テメェは平然とイチャついてんじゃねえェ!!」
ティアがご乱心のようだ。
思い当たる節は無い。
まぁ、触らぬ神に祟り無し。ここは従うのが良いだろう。
ルピナスとくっつけないのは不満ではあるが。
◆◆◆
デジャブとは良く言ったもので並ぶメシもあの時に酷似していた。
何せ俺はルピナスに美味しい物を食べさせたくてティア監修の元、花婿修行擬きをしていたものだから…神殺しを初めてやったときと同じような物が並んでしまった。
途中から薄々気付いてはいたがルピナスの喜ぶ顔が見たくて仕出かした。
ティアはそれを見て悪戯っぽく笑っていた。
やはりお見通しだったか。
一方、圭一郎はと言えば煎餅にスルメ、ミカン等おこたで寝そべりながら嗜みたいラインナップが勢揃いしている。
…これはどうなんだ?
おい圭一郎、お前サボっていやしないよな?
で、ユーリィは…煎餅摘んでおこたでぬくぬくとしてる。
ルピナスは俺の布団を敷いてすやすやと眠っている。
今寝ると食事が入らないのではないのだろうか。
それはちょっと困る。
ただ、規則正しく上下する胸をみるとそんなことは酷く些細なことに思えるのだから不思議だ。
相変わらず俺はルピナスにベタ惚れらしい。
自分でもルピナスを甘やかし過ぎやしないか不安になってきた。
「おいィ、清人ォ?何をしてるゥ?何してるんだよォ?」
黒いオーラを発したティアが背後に立っていた。サボりは許されないらしい。
へいへいとやる気なく手を振り調理場に戻る。
やれやれ、一日三食五十品目はさすがに辛いな。
…そう。このティア・マティナという神格は燃費が異常に悪いのだ。
『神だからなァ、俺を敬って沢山メシを出しても罰は当たらないだろうぜェ?』とは本人の弁だ。
にしても大宴会か。
ティアのやつ、一体何を考えてるのやら。




