語られた悲劇3
地味ーに連続投稿だから気を付けて下さいねー。
『マハーバーラタ』臣圭一郎
「勝手な事を言わないでくれ…」
「…そう、だな。悪い」
俺はユーリィの縄を解く。
全く、俺はまたやらかしちまったらしい。情けない。
「時間を取らせちまってすまなかったな。これでお前は自由だ」
独断で縄を解いた以上、俺は大将に処罰されるだろうさ。
それでも構わねえ。大将は昔言っていた。『エゴと現実の狭間で板挟みに遭うくらいなら俺はエゴに殉じる』と。
だからこれは俺のエゴだ。
親友には自由であって欲しい。
そんな殺人鬼には似つかわしくない純粋な願いだ。
でも…これを捨てたら俺じゃねえ。
捨てたら二度と戻ってこない気がする。
欠けた俺は俺じゃいられねえ。
「…ケイイチロウ。それはズルいよ…」
ズルい、ズルいと連呼して俺を糾弾する。次第に嗚咽が混じり…泣いていた。
俺はそんなにズルいのか?
そんなに許しがたいのか?
俺には分からねえ。大将ならきっと分かるだろうが、生憎答えを他人に求められる程俺は大人じゃねえ。
確かな答えはここにあるのだから。
ユーリィはレイピアを自由になった両手を使って抜刀し。言った。
「ケイイチロウ。僕と戦え」
「お前…何を…」
「良いから早くしろ!!」
ここはただの客間で戦闘には向いていやしない。
稽古場に移動して貰わねえと姐御にどやされる。
魔王荘は姐御が作った何でもありなアパート擬きで、明らかに部屋の中だけ外見より矢鱈大きい上、地下にExの格納庫があったり、温泉やら何やらも取り揃えられた複合施設だ。中でもそれなりの知名度があるのが稽古場だ。
大将が使うと悲鳴が絶えないとか何とか。今なら大将もいないし丁度いいくらいか。
何とかユーリィを宥めて稽古場に連れて行く。
ユーリィは万全ではないだろうに。
戦意だけは有り余っているらしい。
なら応えなきゃな。
「本気で行くよ」
「そうか。ならこれを見せるべきだな」
「異能覚醒。英雄作製マハーバーラタ」
異能覚醒。
異能の先にある力。自らを進化させる事で本当の意味での異能の行使が可能となる。つまり与えられたものでは無く研鑽の上で掴み取ったもの。
それが俺の異能覚醒、英雄作製マハーバーラタ。
その能力は武器の生成と身体強化。
大将の背中を追いかけて生まれた異能覚醒に相応しい起源。
蜃気楼のように手元が霞み、揺らめき。その後には一本の鉈が出現し、俺はそれを握り締める。
「戦鉈マハーバーラタ。それが銘だ」
俺たちは対峙した。
鉈と細剣の影は微動だにせずピタリと停止している。
呼吸を合わせるかのように視線が交錯し大音量で叫び出す!!
「「いざ、尋常に勝負!!」」
キィィィン!!
響くのは鉄をすり減らす音。
「なっ…溶けない!?」
「俺の鉈を舐めるなよ?」
鍔迫り合いに持ち込む。
本来、レイピアは鍔迫り合いを想定していない。しかしこのレイピアは丈夫なのか折れない。
けどな。鍔迫り合いにまで押し込まれたのは使用者の力量不足に他ならない!!
一足、ユーリィが屈むのが見えた。
一足、ユーリィがレイピアを捨てるのを見た。
…一足。俺は鉈を捨ててユーリィの顔面を狙って殴りかかる。
まあ、結局はこういう事になるんだな。
鈍い音が稽古場に響いた。
ユーリィは戦いじゃなくてガチンコがやりたかったんだな。
だったら、そう言えばいいものを…!!
回りくどい!!
口が切れた。
鉄の味が広がる。
稽古場にはもう剣戟は響かない。
響くのは肉体がぶつかり合う鈍い音だけだ。
ったく。何だよ…青春っぽいじゃねえか。
今更青春のやり直しってか?
笑えるな。
ちびっ子からはおじさん扱いされてるってのに。世の中、案外何があるか分かんねえや。
◆◆◆
「ハァ…ハァ、やるな」
「そっちこそ」
途中から技巧もへったくれもないただの殴り合いとかしたが何だかすこぶる気分が良い。
顔は腫れて見れたもんじゃないけど、スッキリはした。
俺たちは今、立つ事もままならず床に伏している。
それすらどこか小気味良い。
「僕は君を許さない」
「…そうかよ」
「当然だ。君は余りに殺し過ぎた。僕の隣人、友人、知人それに父親。余りに罪深い。殺した罪は残る」
「けど…僕は君に力を貸したい」
「そっ、か」
「殴り合って僕達の溝を解消、なんて都合良くはないだろうけど僕は君が嫌いじゃない。それに…」
「親友、なんだろ?」
「一丁前に言うようになったじゃねえか。親友」
ハイタッチを兼ねてー俺たちは互いの頬を強かに殴り飛ばした。




