であったよ
「かはっ」
肩で息をする。肺が酸素を求めて止まない。心臓の音が矢鱈に煩い。
「エンヴィー、落ち着いて」
「あ、ああ」
ルピナスの声で冷静を完全に取り戻す。
今のは何だ?知恵の盃は呪核と呼んでいたか。確かにあれは呪いだった。
しかしあの全能感は異常だ。
あれは、なんだったんだろう。
「あれを見て」
ルピナスは天に指を向ける。
気付いてはいたが空が割れてその外にまた空が見えるのだ。言うなれば空間が崩壊している状態だろうか。亀裂は次第に大きくなり元の平原が空間の隙間から見えた。
「出られた…のか?」
空間は完全に崩壊し、俺とルピナスは元いた平原に立っていた。
「白昼夢…ないな」
今まで見たあの景色は夢だったのではないかと思うが、ルピナスに側にいてくれると言われたのまで夢であるならそれはとても悲しい。
ただ、一つ大きな違いがあった。
それは辺りを鎧に身を包んだ人間に囲まれていると言う点だ。現地人だろうか。彫りが深くとても日本人には見えない。
それを認知すると。
キィィィッ!!!!
錆びついた大鎌が人間を欲して鳴き叫ぶ。嫉妬心が燃え上がり頰が熱くなる。
身体が火照り口内には唾液が溜まる。
まるで飢えた獣が餌を与えられたかのように。ニィと口の両端を吊り上げて勤めて無害を装う。
「心象魔獣が倒された…?」
「どういう事だ!」
口々にガヤガヤと喧しく喋る。ああ、それすら愛おしい。その言葉を紡ぐ口も物を見る目も新緑の匂いを嗅ぐ鼻も、全て俺の物にする。使うまいとは思ったが、やはり無理だった。呪いがかかっていようが最早関係無かった。
「ッ!エンヴィー駄目!」
ハッと気付く。俺は何をしようとした?
まさかルピナスの前で剥奪を使おうとしたのか?既に身体は紛れも無い人間のものなのに。まだ俺は欲しがるのか。
浅ましい。それは、あまりに汚ならしくて最低だ。
「お嬢ちゃん、あんたどうやって心象魔獣を倒したんだ?」
髭面の壮年から質問が飛んで来たのでそれまでの思考を振り切り行儀が悪いが質問を質問で返す。
「心象魔獣って何だ?それに俺は男だ」
勤めて冷静に。
「そ、そりゃあ悪かった…坊主?心象魔獣ってんのは魔獣の進化体のことさ。魔獣は人間が絶望するとその肉体が作り変わって化物になっちまうことで出来るんだが…」
「心象魔獣は?」
「人間の心臓が作り変わると呪核っていう機関になるんだけどよ。魔獣は呪核に心象迷宮ってんのを持つのさ。そこを攻略する事で魔獣はどういう訳か人間に戻れるんだよ。で、心象魔獣は心象迷宮が呪核に入りきらなくなって外に飛び出して固有結界を作った魔獣の事を言うんだ。勿論普通の魔獣とは比べ物にならない位強い」
呪核。俺の身体に取り込まれた球体。
いや、待て。だとするとおかしい。
俺は呪核を持っているがあれは心象迷宮だったのか?あれは固有結界ではないのか。
「……」
「どうしたんだ坊主?顔色が良くないぞ」
「…心象迷宮を攻略すると呪核はどうなりますか?」
「なんだ、そんな事か。魔獣は人間に戻るから呪核は心臓に戻る」
「!!」
ああ、なんて事だ。どう言う訳か俺は呪核を人間の心臓の成れの果てを身体に取り込んでしまったのか。吐き気がする。
今日一番の自己嫌悪だ。
そしてそいつらは言うのだ。
魔獣の元になった人間は…エリーは何処にいる?と。