劣等の魔王
『魔王』杉原清人
視界が怒りで赤く染まる。
「叫喚大呪怨衝破!!」
鎌から極大の黒い光が放たれる。
黒でありながら光でもある矛盾を孕んだ一撃はしかしヘルヘイムの樹木を伐採するに止まった。
何故か。
簡単だ。全てあの邪な神が吸収したからだ。
俺は相変わらず継続戦闘が絶望的に弱い。その為、一撃の威力、そして範囲を広げて開幕と同時に敵を刈り取る戦法しか取れない。
それをアッサリと止められてしまえばー後は悲惨な結末しかない。
「その程度かね?それなら大人が最適解を見せてあげようか。叫喚大呪怨衝破」
「心象結界!!」
だから俺はもう一つの切り札を切った。
それが心象結界。
魔獣の内と外を入れ替える性質は魔族にも適応される。
つまり、俺は自らの心象で形成された完全な俺ルール適応空間に逃げる事が出来るのだ。
俺の心象で世界が塗りつぶされ天には紅い月が上り地には雪原が広がる。
ニャルラトホテプの一撃は結界の前に霧散し、俺は反撃を狙い肉薄する。
天地深夜の色は陽が落ちたような群青色。肉体強化の倍率が一番高く、一番御しにくい。
しかし、その火力こそ俺は必要としていた。
「悪くない手ではある。が、まだ足りない」
がー、ニャルラトホテプはあろう事か鎌を触手で掴み取りそのまま粉砕した。
声にならない声が反響する。
心象から生み出された武器を使えば肉体は即座に回復するがその反面、武器にダメージが蓄積すれば肉体にフィードバックされ甚大な傷を負う事になる。
同時に心象結界の維持もままならなくなり風景は元に戻った。
「あ、…がっ。クソ…痛え」
喉笛がかひゅ、と掠れた音を出す。
目からは涙が流れ赤く染った視界はいつの間にかボヤけていた。
そんな俺の頭を嘲笑う神は踏み躙る。
「だから言ったろ?大人を舐めるなって。子供だから多少のおいたは見逃すがーー」
「神に牙向くのは愉快だよな?」
触手に逆さ吊りにされ、ゴミのように打ち捨てられる。
「ま、おじちゃんは身内には甘いんだ。キヨ坊のお迎えには手を出さないさ」
ボボボボ…
特異すぎる駆動音が聞こえる。
それは圭一郎がエクス・マキナをベースに自分専用にカスタムした黒塗りの機体、EX。
角が全くなく、流線型を多用したその機体は速さには優れないが幾つかエクス・マキナにはない特徴がある。
それは異能の伝導能力。
圭一郎の異能をそのままこの機体が使えるので兵装を交換する必要が無く破損した武装を放棄して新しい武装を着ける事が出来る。
手には火炎放射機。
それで、ヘルヘイムを焼いて行く。
「大将!無事か?」
スピーカーから圭一郎の声が聞こえる。
大丈夫な訳がない。
体がヤケに寒くて冷える。
凍えてしまいそうだ。
「ん?これは珍しい。デウス・エクス・マキナとティアマット神の原型か。中々の稀有な仲間持ってんじゃないかねキヨ坊」
「おいィ、テメェ清人に何をしたァ?答えろよォ!!テメェは清人に何をしたァ!!!」
見ればわかるだろ?
戦って、負けた。
それだけだ。
だからその問いは意味がない。
そもそも、お前がこいつがヤバイって言ったんだろうが。馬鹿か。
ニャルラトホテプは闇に紛れ。
俺はティアと圭一郎に救出された。
俺は完全な敗北を喫した。




