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魔王の父親

『困惑の魔王』杉原清人


最初に気付いたのは…ティアだった。


「オイィ、清人!今すぐソイツの相手を止めてヒュエルツに向かえェ!不味い…最悪な事が起きたァ!!邪神が出張って来やがったァ!」

「邪神って…」

「良いから早く行けェ!手遅れになるゥ!」


ティアの返答は要領を得ないがこれだけは分かる。

今、とてつもなく良くない事が始まったと言うことだ。


「心象解放」


背中に翼を生やす。

鴉の蛆が湧いた死体のように所々白骨化している翼だが飛行する際はこれ以上無く有用だ。

心象解放はコントロールさえ出来れば凡そ万能。見てくれとそれの及ぼす影響の乖離すら許容する。


バサリと一つ羽ばたくと曇天の空に向かい飛翔した。


「何なんだ…一体」


ユーリィの悲痛な声が最後に聞こえた。


◆◆◆


ヒュエルツ上空から地上を見下ろせばそこは樹海と化していた。


「異能…違うな。こんな異能があるなら早々に世界のリソースを食い潰す。じゃあ、これは?」


「ようこそ、おじちゃんの庭園へ。んで、よくぞここまで育ったな。キヨ坊」


地上に降り立つと何処からか声が聞こえたが…正確にどこかは分からない。


「随分と趣味の悪い庭園だな」


挑発するような口調で発する。

手には既に天地深夜あめつちみよ。五年の研鑽の末更に鋭さを増したそれは僅かな光でも反射し茜色に煌めく。


俺はここだ。さあ、仕掛けて来い。

目を瞑り気配を探知する。

…無い。

虫の一匹すらいない。まるで世界から断絶しているかのような静けさが辺りを包むばかりで自分の心音がズレて聞こえー。


「…ッ!?」


俺はその瞬間、天地深夜を短剣に切り替え自分の心臓部に突き立てた。


しかし、鮮血は飛び散らず代わりにヌゥっと黒い影が噴出した。


「あちゃー、バレちったか」


見覚えがあった。

シルクハットを被りヨレたスーツを着ている。デイブレイクの制服ではないから印象が大分違う。

こいつはユーリィと戦っていた…。


「何でここにいる、アッシュ・グレイツ」

「何でって…そりゃあ」




「息子の顔拝みに来たからかね」

「は?」


俺がアッシュの息子?

馬鹿馬鹿しい。


「ハッ、盲目したか?」

「そっちこそ…大人を見誤っちゃ駄目だろうに」


シルクハットを手に取り樹海へ投げ捨てる。

そしてキザったらしく指をパチリと鳴らすと…そこにいたのは異形だった。

デタラメな声を張り上げて歌う神がそこにはいた。


「案外、大人は怖いぞ?」

「…お前は、何だ」


意を決して尋ねる。

短剣から得意の大鎌に切り替え、その柄を強く握る。

相対するだけで分かる圧倒的な存在感。威圧するプレッシャー。

その全てが驚異的と言う他無かった。


「おじちゃんはニャルラトホテプ。よろしく」

「ニャルラトホテプ?何の冗談だ?」


ニャルラトホテプ。それはH.Pラヴクラフトの作品、及びコズミックホラーの作品体系に登場する架空の神格。

魔王のメッセンジャーにしてトリックスター。


「あれ、知らない?仏陀とかもおじちゃんを恐れてたはずなんだよなぁ。まさかあいつらと面識がない訳ないし」


思い出す。仏陀との会話。

これは昔、仏陀を殺害しようとした時のこと。


◆◆◆


「天上天下唯我独尊。つまり地球に於いて私だけが尊いのです」

「煩い!この脇から生まれた寄生虫の分際で!!殺してやる!!殺してやる!!」


俺の殺害計画は頓挫していた。


「ええ、私は下級の外なる神です。しかし…地球では至上の力を振るえます。今回はナラカーを体験してみましょう。ナラカーとは梵語で日本語では奈落と呼ばれていますね」


頭が体から離れる。

叫びたいのに、叫ぶ喉が無い。

しかし、霊体故に、知恵の盃があるが故に即座に回復する。


「まぁ、飽くまで地球に於いては。ですけどね。外の宇宙でおいたをしたらまず助かりませんからね」


◆◆◆


「……」

「お、どうよ。覚えがあったか?」


もし、こいつがニャルラトホテプなら俺の手に負える事案ではない。

いや、神ですら手に負えるような事じゃない。


「…お前が父親なのは…?」

「あぁ、それね。はいはい。結論から言うとキヨ坊が流産した理由がそれにあたるな」


「キヨ坊、あんたは人間じゃあない。こっち側の碌でなしだ。まぁ、魔王様の因子を勝手にくすねて埋め込んだからな人間には到底産めないしそもそも子供が耐えれるような生半可な因子じゃないしな」


俺が、死んだのは?

こんな理由があったのか。

ただ、それだけで。

俺たち家族を引き裂いたのか!!

俺は神々の兵器にされ、智人は俺の兵器としての素質を持っているとされて同じく神々に弄ばれ、変質した。

親は離婚して自殺したそうだ。

…魔王になる対価としてティアは知る全てを俺に伝えた。

だから、だからこそ。


絶対に許せない!!


怒りがふつふつとこみ上げ激情が逃げ場を求めて全身を駆け巡る。

哀しきチートを手にしても尚治らない怒り。

その衝動を高らかに叫ぶ!!


「心象解放!!」

「ほら、見てみな。キヨ坊の心象解放は気持ち悪いだろ?それは魔王様の因子だ。他の魔獣との差は一目瞭然、と思わんかな」

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