断章 もう一つの魔王
若干少なめだけど、どうしても書かないといけなかった話。
クトゥルフ要素多め。
『暗躍する十三席』????????
「ふぅ…首尾よく時任の嬢ちゃんが逝ったか」
普段は温厚なおじちゃんといった風体の男はしかし今はその温厚さは見受けられず刺々しい雰囲気を、威圧感を放っていた。
これは十三席に収まる器ではないと誰もが思うだろう。
その男ーアッシュ・グレイツは。
経歴、来歴、その全てが不明。
分かるのは外見的特徴と非凡な有能さのみ。
彼はその有能さを以ってデイブレイク・シーカーズに取り入ったのだ。
そして…恐るべきはその『偽装力』。
フラワーショップ・橘のカエル顔の店主を演じたその手管!!
声、顔、性格、その全てを偽ってみせた!
町と調和し、誰一人として疑問を抱かせないその異質さー。
やがてアッシュ・グレイツとしての顔すら解け始める。
そう、文字通り顔がいくつもの肉の帯へと変わり、それが解けているのだ。
「正義だ悪だ、なんて言ううちは皆んな子供さ」
異質な変質は止まらない。
そうだ、十三はユダを現わす数字だったか。
その意味するところは…裏切り。
円卓の最終兵器、通称『円卓砲』の破壊が滞らなく進んだのは彼の手引きが故だ。
全ては更なる混沌を撒き散らす為に。
「大人は取り敢えず愉しければ良いんさ」
そう言う口にあたる器官は今は数え切れないほどだ。
異形。怪異。
グチュグチュと変質は止まり。
その姿を現わす。
それは禿鷹に非ず。
それは土竜に非ず。
それは屍人に非ず、魚に非ず。
生物でもなければモノですらない。
これをモノとするのなら余りに酷い造詣をしている。
人間は見ては、知ってすらいけない産物。
それは『閉じた箱』。
それは『黒き王』。
ある狂人はその名を見事に言い当てていた。
ああ、この悪魔め!!
悪魔ですら生温いその名前はー。
「私のーニャルラトホテプの出番ですかねっと」
かの邪神の足元からは沸き立つ様な狂気の産物が立ち上る。それは蔓。
宇宙が滅ぼうと関知すらしない外なる宇宙の悍ましい植物群。
海月のような形をした果実。
気色悪い色をしたゼンマイ。
人体に悪影響を与える空気を吐き出すコケ。
「さぁて、おじさんはゆっくりヘルヘイムを臨みながらまじないの歌を歌うかね」
それは二つの召喚の歌。
正規の神々が最も恐れ、手を出さない…出せないもの。
一つは『大いなる父』の。
そしてもう一つは…。
「さあさ、おいでなすれよ。白痴の魔王様」
『白痴の魔王』のもの。
緩やかに破滅する世界はーその速度を爆発的に加速させる。
世界が滅びようと滅びない、人の倫理では推し量れない邪神が蠢き始めていた。




