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魔王の変遷

『魔王』杉原清人


「…何でこうなるんだ…?」

「あァ、予想はしてたが思ったより最低だなァ。魔王様よォ」

「……」


何も言えない。

今回、ユーリィを生かして連れてきたのは約束を履行する事、そしてユーリィを殺して知恵の盃を収集する事の二つの理由があった。


二つ目は最優先事項に見えるが、そうでもない。

ユーリィは勝手に死ぬ。

態々俺が手を出すまでもなく死ぬ。

魔王たる俺には敵が余りに多い。

接触した時点で敵対されるケースもまた多い。

よって俺が手を下すか、他人が手を下すかの違いでしかない。

時期もティアの見積もりではこの世界は五年は保たないにしろ時間はあると考える。

急いで殺すくらいなら約束を履行する、というシチュエーションも悪はないと思ったのだ。


だから、生かした。

では?

話を聞いてすらくれないこの頑固者を生かす必要はあるか。

交渉に割く労力は釣り合うか。


まさか。

そんなはずはない。

これは私情であって一種のイニシエーションでもあり娯楽でもある。

通過儀礼は蹴っ飛ばしても構わない、と言うのが今の俺の持論だ。


前は通過儀礼をしないと先に進めないと思い込んでいた。

今は違う。通過儀礼と言うのはスルー出来るし、スルーしたならしたなりに進化するものだ。

そこに自己の選択がある限り、な。


さて、それならそれでも構わない。

ルピナスに捧げる棺桶を一つ積むだけだ。


「テメェも随分と物騒になったなァ、オイィ」


慣れた動作で茜色の大鎌を取り出す。

俺の相棒、天地深夜。


それを大きく振りかぶりー。


「どう言う積りだ、ティア」


ユーリィに切り掛かる刹那、庇うように飛び込んだのはティア・マティナその人だった。


「なァ、清人。…テメェにこれを言うのは酷だと知ってるゥ。勿論、こんな損な役回りを期待したのは俺だがよォ」

「ああ、そうだな」

「…テメェは心象解放を自由に扱えるようになって…心を削ぎ落としたァ。俺はテメェを甘く見てたァ」

「何が言いたい」


要領を得ない会話だ。

俺はルピナスと再会したいだけ。

そしてその過程に魔王の称号がある。

ただ、それだけ。

なのに何故、何故ティアは悲しげに俺を見る。

いつかの痛ましいものを見る目。

嫌いだ。


「思えばテメェと魔王の称号は相性が良過ぎたァ。俺がテメェを魔王にしたのは大の為に小を殺す罪悪感を薄める為だったァ。それが、このザマかァ?笑えねェよ。良いかァ?コイツは殺すな、テメェにとっての傷になるゥ」

「今更、傷を語るか?」


気付いていた。

魔王を始めた五年前、リリップの死を見た日、顔見知りを皆殺しにした日。


ティアが提案したのは魔王になるという契約。

俺は悪逆を決定的に定められたのだ。

罪悪感を薄める代わりに逃げ道を無くす。

だが、それで良かった。

知恵の盃を収集する目的が変わらなかったから。

ルピナスと一緒に居る可能性を掴む為になるから。


幸福は最大量で、かつ個人の幸福を含まなければならない。


つまり、俺は小を殺しながら幸せにならなければならなかった。


五年前の俺にはどだい無理な話だった。

だから、変わった。

目標は心象解放。そう、哀しきチート。

感情を削ぎ落として、削ぎ落として。

平坦の中でも尚、ルピナスという熱は消えなかった。

それだけは嬉しかった。


「分からねェかァ?戻れなくなるぜェ?テメェは俺の想定を超えて魔王になるゥ」


きっと俺は今、能面のような顔をしている。


「テメェがユーリィを引き入れるって言ったから安心したんだぜェ?安心したんだよォ。本当に…本当にィ…」

「そこをどけ、邪魔だ」


今度は肩を掴む手が。

これはー。


「大将、これは俺のすべき仕事だ。俺の仕事を取るなよポンコツ」


お前も邪魔するのかよ。


「圭一郎」

「おう、大将」

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