共犯者の条件
『魔王』杉原清人
茶菓子に饅頭を、との事で箱から饅頭を取り出す。
プラスチックのフィルムで梱包されたジャパニーズチートの産物。
それをユーリィの前に出す。ほうじ茶は先ほどまで飲んでた急須の残りを客人用の湯呑みに淹れる。
これで良いか。
まだまだ手際が悪いな。
ルピナスと一緒に居てミスが無いようにとティア監修の元花婿修行擬きをやってはいたがいかんせん相手が悪かった。お陰で扱いはぞんざいな風だ。
勿論、ルピナスにはこんな体たらくは見せない所存。
まぁ、俺は腐っても戦化粧に血を求め(ブラッディ)の創始者だ。無理では無いだろう。
「……」
「………」
終始無言を貫くユーリィ。
確かに俺たちの関係性は非常に悪い。
一つは俺が殺戮者であり五年間共に働いた同僚…時任を殺している。
恋慕があるかは不明だが同僚を目の前で死体に変えているからな。
心象は悪いに違いない。
二つはユーリィが俺を捨てた事。
これは俺の身勝手だが、俺は五年前にユーリィと知恵の盃を探索する約束をした。けれど、村々の一切を鏖殺した件に際してヒュェルツから追い出された時にユーリィは何もしなかった。
互いに印象は最低だ。
ずずっとほうじ茶を啜る音だけが場を支配する。
さて、俺から切り出さなければ。
飽くまでユーリィはゲスト。
なら俺から話すべきだ。
けれど、どこから話したものか。
「…俺の犯行声明は聞いたか?」
「……」
沈黙は肯定の意だと俺は知っている。
「…何も聞いてくれないんだな」
さっきまで戦場で死を見て、拉致られて、都合よく話を聞いて貰おうだなんて流石に無理があり過ぎたか。
にしても、さっきのは失言だった。
こっちの状況を押し付け過ぎた。
でも、悲しいかな。時間は無い。
「焦れてんなァ、テメェらァ」
「ティアか」
当然のように割り込むティアの空気の読めなさが今は小気味良い。
「なァ?坊ちゃんよォ、暫く会わないうちに萎びたツラするようになったじゃねぇかァ」
「……君たちに何が分かる」
はぁ、と煽るような大きな溜め息。
言うまでもなくティアだ。
「皆んなそう言うんだよなァ?ここの餓鬼も良く言ったぜェ?」
「余計な事を言うな」
「……何が言いたい?」
ティアは芝居掛かった大袈裟な動作で肩を竦める。
…ティアは実体化したら急にウザくなったな。
いや、元からか。
「別にィ?時任の正体とかァ、デイブレイクの成り立ちとかァ?知らなくても良い事ばっかり知ってんだよなァ」
「……」
「知りたくないかァ?坊ちゃんよォ」
俺も思えば良く煽られたな。
何て、年寄り臭く考える。
俺はあそこから前へ進んだ。
じゃあ、ユーリィは?
お前はどう答える?
「僕は…」
「もう、知ってるから態々教える必要が無い」
「あァ、ダメだコイツゥ」
「………」
ユーリィは進んではいなかった。
それが、とても悲しかった。
ユーリィは遠く無い未来の共犯者には相応しくない。




